ゲームはほどほどに
最終回です。
一応、次の作品につながるように伏線っぽい終わり方をしています。
中途半端ですいません。
俺が少し無理しながらGWOにログインすると、目の前にオレンジがいた。
その190を超える巨大なアバターはまるで壁のように、逃げも隠れもせず、俺の目の前に微動だにせず立っていた。
「ふふふ、レディをこんな時間に呼び出すなんてなんの用かしら? 夜這い?」
全く悪びれる様子もない。まあ、別にオレンジが悪いことをしたわけではないのだが••••••
「俺はてっきり、オリーブは『アナタの』妹だと思ってましたよ」
「あら『私の』妹だなんて言ってないはずだけど?」
俺は最初、オレンジにオリーブを『妹』だと紹介された。確かにその紹介は嘘ではなかった。
だが、誰も自分の妹を赤の他人に紹介されるとは思わないだろう。
「俺は••••••あなたの策の上で踊っていたんですね」
オレンジは手を振ってそれを否定する。
「この作戦を考えたのは友ちゃんだよ。私は少し手伝っただけ」
友の作戦は大方こうだろう。
現実世界では俺は心を開かせようにも仮想現実に逃げ込んでしまう。特に妹の三城に関しては完全に居留守とシカトを決め込んでいた。
だから、逃げる先から先回りして仮想現実の世界の側から心を開かせた。
「本当はもっとゆっくり仲良くなってもらって、今度の大会の後に『オフ会』でネタ晴らしって予定だったのに、なんか計算が狂っちゃって」
第九回GWOトーナメント。
今月末に行われる公式な最強決定戦。オレンジがいつも優勝してる大トーナメント大会だ。
「……一つ、わからないことがあるんです」
「なに? 私でよければ答えるけど」
どうしても一連の流れの中でわからない部分がある。
俺がこのゲームをやっていて、アバターのキャラネームが『クロード』になってることくらいはまあわかるだろう。
友が攻略本を熱心に見ていたし、俺が槍を使ってるのはページのメモや俺の経歴でいくらでも推測できるし、身長や体格は現実とそう変わらないもの。その上から『いつもゲーム内にいる重度のVR依存症患者』という情報を加えれば見つけられる。
それに、まあオリーブを俺が教えている間も何も疑問はない。
三城はVRRPGなんてまったくやったことはなかったし、俺に対する感情についても『家族愛としてのLOVE』でいいだろう。
だが……
「どうして、いや、友はどうやってあなたと連絡をとったんですか? あなたほどの知名度と強さがあるプレイヤーじゃなきゃ俺はたぶん初心者の教育なんて断ってましたよ」
あんなお膳立てがなきゃ、新人の教育なんて責任重大なことは絶対しなかった。
三城が『オリーブ』となってからゲーム内で接触したというのは少しおかしい気がする。『オレンジ』と『オリーブ』は、名前からして地中海性の作物というつながりがあったから俺はあっさりとオレンジとオリーブが姉妹だと信じた。
つまり、キャラネームを決める前から二人は知り合いだったということになる。
そう考えていると、オレンジは不敵に笑った。
「クロードくんは友ちゃんのこと、どこまで知ってるの?」
「どこまで?」
「前の家族構成とか、人間関係とか、どこに住んでたかとか」
……何も知らない。
ただ、俺の家に来たとき転校したらしいから、それなりに遠いところから来たのだとは思っていた。
「あの子、昔は私のこと『ミカ姉ちゃん』って呼んでくれたりしてね。でもそっちの家に行っちゃってからは全然会えないし、新しい家族に遠慮してなのか全然連絡もくれないし……そんな時、本当に困ったときに頼ってもらえたら、おねえちゃん的には頑張るしかないじゃない?」
……それはつまり……
「小賢しい小娘ですが、あの子をよろしくお願いします」
友を大切にしないと本当に俺の首が(物理的に)飛ぶかもしれない。
ここからは後日談みたいなものだ。
まず、GWOは月末の大会を機にオリーブともども一時卒業した。
ちなみに、オリーブ自身は参加しなかったが闘技場の観客の中から応援してくれた。そのおかげかもしれないが、俺は大きく順位を上げてベスト16から第4位になった。
『愛の力』スゲーな。
(マスクド・ジャックは3位。仇は1位のオレンジが取ってくれた)
最後のログアウトの前、俺とオリーブは話をした。
「しかし、受験勉強しながら俺とゲームしてたなんて驚きだぜ……門限がやたら厳しいとは思ってたけど」
「あれはお兄ちゃんのために決めた時間でもあるんだよ?」
俺は友の妨害と教育の疲労のせいで約束の時間以外ほとんどゲームに入れなかった。
あの後も、一日二時間以上ゲームをすることはほとんどなくなった。
そして、その分勉強の時間と妹たちと接する時間が増えた。最初は三城との会話がぎこちなかったが、オリーブと話す感覚で話したら案外すぐ、しかも以前よりも仲良くなれた気がする。
両親についてはまあ、俺が引きこもりをやめたことについては大きな反応はなかった。ただ、友が
『私とお姉ちゃんで説得したんです』
とか言って手柄を総取りしていった。
俺は今、浪人生として今度こそ大学に合格できるように勉強に励んでいる。
「まったく、一杯喰わされたってわけだ」
俺は新人VRプレイヤーにVRゲームの遊び方を教えているつもりで、本当は正しく節度ある遊び方を刷り込まされていたのだった。
「そういえば、あの殺人鬼は作戦に何も噛んでなかったんだよな?」
「ユウちゃんも計算外だったって言ってたよ。おかげで予定より早くお兄ちゃんが出てきてくれたけど」
あいつはどうなのだろう。
ただの重度のネットゲーマーという雰囲気ではなかったが、節度ある正しい遊び方をしているようにも思えない。
「あ、そうだ。今日病院行かなきゃいけないんじゃなかった?」
「あ、そうだったな。面倒くさいな……」
この前、結構重大なレベルで風邪を引いたので、一応完治したかどうか様子を見せに行かなくてはならない。正直もう治っているのだが親に迷惑かけていた手前、従わないわけにはいかない。
検診はあっけなく終わり、俺は自動販売機でジュース(妹の分合わせて三人分)買っていくことになっていた。
妹たちにも心配をかけていた罰らしいが……
全く、人遣いの荒い妹たちだ。
二本を手に取り、もう一本を二本の缶と指で挟もうとしたとき、うっかり左手の缶を落としてしまった。
「あ」
「大丈夫ですかおにいさん、これ、おにいさんのでしょ」
「あ、どうも」
誰かが缶を拾ってくれた。
声は若い女の子の声だった。
「気を付けてくださいね。それに転んで誰か死んじゃうかもしれませんから」
そういって、俺が顔を見るより前にその子は背を向けて自分の目的地へと歩き出した。
その女の子は入院患者のようでパジャマを着ていた。
俺がちゃんと缶を持ち直してその行き先を見る、するとそこには『集中治療棟』の看板がかかっていた。
あの子は集中治療棟に入院していて、何かの用事で一般病棟の方に行った帰りにここを通りがかったのだろう。
あの子はもしかしたら命にかかわるような大きな病気なのかもしれない。
でも、あの子は今を精一杯生きているように見えた。
オレンジも、友も、あの殺人鬼も仮想現実だろうが現実だろうが関係なくその瞬間を精一杯生きていた。仮想だろうが、ゲームだろうが、現実だろうが関係なく全力でプレイしていた。
俺も少しは見習いたいもんだ。
「そういえば……」
さっき、俺はあの子が缶を拾うまであの子の存在に全く気がつかなかった。
なぜ、あそこまで接近されても気がつかなかったんだろう……
その後姿を見ていてやっと気がついた。
「あの子、足音がしなかったな」
最後まで読んでくれた人がいたなら感謝してもしたりません。
稚拙な文だったとは思いますが、ありがとうございました。