オフ会では相手の容姿を受け入れる覚悟が必要
今回は全編リアル回です。
そしてベッドから身を起こしたとき最初に思ったのは••••••
やっちまった……しかもテンションに任せて
だった。
あれか、吊り橋効果か?
映画で主要登場人物のカップルが最後死ぬ前に告白するのと同じようなノリで告白しちまったぞ!!
しかもリアルで会いたいなんて性急過ぎんだろ!!
もっと仲良くなってからで良かったのに、あの殺人鬼に感化されて行き急いじまった!!
どうしよ、ゲーム上以外での連絡先なんて知らねえぞ、取り消せねえぞ!!
「行くしかねえ!!」
実のところ、いつかはリアルでオリーブに会ってみたいという気持ちは前からあった。だが、それはあくまでも『いつかは』だったのに、戦闘の高揚感の余韻と、殺人鬼の説法で早まってしまった。
だけどこれ、下手したら本気でオレンジに殺されんじゃね?
『私は兄貴分になってって言ったんだけどー、なに妹に手出してんのよ!!』
……とか言われたら言い訳できないし、ゲームのがアシストも補正もなしだったなら現実でも同じことができるってことじゃ……
あの『一期一会』って「すれ違ったが最後二度と会うことはない」って意味が籠もった暗殺技だったりして……
いや、そんなこと言ってる場合じゃない。
義姉とかは後で考えよう。
とにかく、今は急いで駅へ!!
俺は大学デビューしたら着ようと密かにコーディネートしていた服を急いで着て、攻略本を持って部屋を飛び出した。
玄関に来ると、あまりに久しぶりなため変な懐かしさがあった。
今までは部屋を出てもトイレか風呂にこっそり入ったくらいだった。
俺の靴は二ヶ月も履いてないのに、以前と変わらずそこにあった。
「なんか、長いこと待たせたな」
靴に謝ったところで返事が来るとは思わないが、これから二ヶ月ぶりに外にでる相棒だ。モチベーションを維持してこの扉を突破するための儀式だ。
その時、背後に気配を感じた。
「お、お兄ちゃん、話があるんだけど••••••」
そこには、大きい方の妹、大倉三城がいた。
妙に動揺しているようだが無理もない。ずっと引きこもっていた兄がいきなり外出しようとしているのだから、驚いて当然だ。
だが、今ここで止まるわけには行かない。
「悪い、話ならあとでいくらでも聞くから行かせてくれ!! あと……居留守しててごめん。」
それだけ言って、俺は勢いに任せてつまずきながらも外へ駆け出した。
「で、結果がこの有り様ですか」
「そうだよ、悪いかこのやろゴホゴホッ」
友に風邪を移さないように顔を背けてセキをする。
結果を端的に言えば、オリーブは来なかった。
限界まで待ったが来なかった。
「だからって、いくら何でも雨の中五時間待ちますか?」
「いや、俺だって振られたのは悟ったよ。でも、そう思ったら泣けてきて••••••」
「雨の中、泣き声を堪えながら失恋の涙を流してたら不審者として通報されて、高熱を出していたので保護されてパトカーで帰って来た••••••と?」
返す言葉もない。
勢いに任せてした告白で失恋するのがここまで精神的に響くとは思わなかった。
「とにかく、病院で見てもらいましょう。症状ひどいですし」
引きこもり生活のツケがこんなところで出た。長いこと不摂生で抵抗力が低下していた俺は今、酷い高熱で寝込んでいる。
「ああそうだな、マジで死にそうだ」
殺されなくても死んでしまいかねない。
「……」
「どうした?」
「本当に外出するんですか? 別にお医者さんを呼んでもいいんですよ?」
ああ、引きこもってた俺が外に出る案を簡単に受け入れたことに驚いたのか?
「いや、久しぶりに外でてわかったよ。みんな、俺の駄目さなんて全く気にかけてないな……最悪、不審者として通報されるくらいだ」
「それについては、義父さんびっくりしてましたけどね」
問題起こしちまったな……ま、言い訳ついでに久しぶりに話すか。
「……じゃあ、引きこもり卒業ですか?」
「ああ、今度こそ自分に自信を持って、こんな不意打ちじゃなく正々堂々告白できる人間になるよ」
吹っ切れた。
ん? 友がなんか微妙な表情してる気が……
「一週間」
「なんだ? 一週間って」
「あなたを家から引きずり出すのにかかった時間です」
何のことだ?
いつから数えて一週間なんだ?
そういえば、オレがオリーブをマンツーマンで教え始めたのが丁度一週間くらい前のような……
「予定よりちょっと早いですが、しかたないので答え合わせしてあげますよ。なんで、オリーブさんが来なかったのか……来れなかったのか」
あれ? オリーブの名前、友に教えたっけ?
「ちょっと待ってて下さい。今から連れて来ます。絶対に寝てるふりしててくださいね。」
訳の分からない俺をおいて、友は部屋を出て行った。
数分して、二人分の足音が聞こえてきた。近付くにつれて話し声もハッキリと聞こえてくる。
「ほんとうに大丈夫?」
「はい、少しセキはしてましたが、今は落ち着いてグッスリ寝てます」
俺は音を立てないように、顔を扉とは逆に向けて狸寝入りを決め込んだ。
なんかよくわからないが、今はまだ気まずくて三城に顔あわせられねぇ……
「お兄ちゃんはほんとうに大丈夫なの? 私のせいで……」
……え?
「これに関しては完全マナー違反だった兄将がわるいです。自業自得ですよ」
「でも、向かえに行くくらいはしても……」
「私もまさか、ずっと同じ場所にいるとは思いませんでしたよ。心の傷をゲームセンターかなにかで癒やしているものとばかり思ってました」
……何の話をしてるんだ?
「ところで、仮に血がつながってなかったらどうしてましたか? 告白されたら付き合ってましたか?」
おそらく、友は俺にもちゃんと聞こえるように、一段とハッキリとした声で三城を呼んだ。
「オリーブさん」
……なに?
「…………わからないけど、『クロードさん』は好きになるかも」
なんで三城がオレのキャラネーム知ってるんだ?
「あれ? いまお兄ちゃん動かなかった?」
気づかれた!!
「あ、起きるかも知れません!! 逃げましょう!!」
「う、うんそうだね……」
二人は文字通り逃げるように、静かだがいそがしい足音を立てて部屋を出ていった。
二人が出て行って数分後、友だけが戻って来た。
「良かったですね。好きになるかもしれないそうですよ」
考えをまとめた俺は友の方を向いた。友は『してやったり』という顔をしている。
二人がいなくなった後、俺はようやくこの状況を説明できる答えを見つけていた。
「友、オレンジさんと会いたいんだけど連絡できる?」
三城=オリーブ です。
驚いていただけたなら幸いです。