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思い出

作者: mmo

少年がいた。

ごく普通の子供だが。

ただ少々忘れっぽかった。


夕暮れの道。

家に帰ろうと歩いていると。

少女が道脇で倒れていた。

車に轢かれたらしく、足に大怪我をしている。

少年は少女を背負い病院へ。

そしてそのまま帰宅した。


家に帰ってみると。

母親が急死していた。

上の二人の兄は。

「お前が母さんを殺した」

と口々に言い放った。

死の間際にとても少年に会いたがっていたらしい。

父親はただ黙りこくって。

親戚は酒を飲んで騒いでいる。


誰よりも早く母の死を忘れ。

友達と楽しく遊んでいた。

ふと、病院の前を通ったら。

窓辺にあの少女がいた。

何時会ったか少年は忘れていたが。

少し可愛いと思った。


毎日学校を行くのに遠回りして。

病院の前を通るのを日課にした。

だけど、楽しそうに同じ病院服を着た男の子と。

楽しそうにしゃべる彼女を見て。

妙な満足感を覚えて。

今までのカリを返すかのように。

学校へは近道を通るようになった。


中学生になり。

あの少女とあの男の子と。

同じ学校、同じクラスとなった。

「初めまして」と少年は言った。

本当に忘れていた。


一年ほど経って。

あの男の子は自殺した。

どんな事情があったのかは知らないが。

「ああ、まただよ」

とクラスのみんなが噂する。

学校のみんなにとって一つの現象にしか過ぎない。


暗く打ちひしがれる少女は。

今でも杖を突かなきゃ歩けない。

少年と二人きりで帰る機会があり。

杖が折れ。

少年が少女を負ぶさることとなった。

少女は何かを思い出したように体を密着させてきた。

少年は何も解らぬまま家まで送り届けた。


少年と少女は付き合うようになり。

恋人同士となり。

そして。

少年は罪無き罪で逮捕されることとなった。

まったくの冤罪だったが。

少年は忘れっぽかったので何も反論することが出来ない。

よく話した友達が。

「やっぱり」と何度も頷き。

一度も話したことの無い校長だけが少年を弁護した。


月日が流れ。

少年院から出所する日となった。

出迎えにあの少女がいた。

「二人で罪を償いましょう」

綺麗な笑顔で彼女は言った。

手を取り合って歩いてはいたが。

少年はまったく少女の事を思い出せなかった。

思い出そうとすると頭が痛くなった。


実家に帰ると。

父親が迷惑そうな顔をこちらに向けた。

少年はただ。

「ごめんなさい」

と呟いた。


家を出た少年は。

彼女と二人で暮らすこととなった。

忘れっぽい少年にたいした仕事は無く。

来る日も来る日も肉体労働を続けた。

空き巣、強盗、スリやサギなどに遭いはしたが。

そんな事などすぐに忘れ彼は働き続けた。

朝から深夜まで、寝るのも忘れ、帰宅するのも忘れ。


数年後。

数日振りに帰宅した家に。

彼女の姿は無かった。

しかし彼は気にはしなかった。

今まで誰も居なかったように。

そのまま住み続けた。


また数年。

彼にも別の恋人ができ。

結婚し、子供が生まれた。

とても頭のいい女の子が生まれた。

模範的な家族となった。

彼はいつも以上に働いた。


娘も年頃となり。

恋人が出来たと言ってきた。

その時安心感で疲れがどっと出たのか。

彼は入院することとなった。

看護疲れで彼の奥さんが先に死ぬこととなった。

娘の冷眼が彼に向けられた。

娘はとても頭がよく、記憶力もいい。


娘の恋人が彼の病院へ尋ねてきた。

「結婚したい」と言ってきた。

とても誠実そうな感じの青年。

彼は承諾し、親御さんと会うこととなった。

青年を女手一つで育ててきた親は足を引きずっていた。

昔居なくなった彼女だった。

彼はわけもわからず結婚には猛反対した。

青年の母親は。

「年も違うし、血の繋がりは無い」

といっていたが、彼には何のことかはわからない。


そして。

彼は娘に殺された。

自然死をうまく装えたようだ。

頭のいい娘だから、警察に捕まることは無いだろう。


死の間際。

少年は何かを思い出した。

昔自分が背負ったモノ。

それを必死に思い出そうとして。

目を瞑った。


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