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③ミツキ

 「J」のプレートが付いた教室へ入る。

 十番目のクラス、ということではない。

 この学校は、一学年六クラス、計十八クラスをアルファベットで区別しているのだ。

 第二学年に割り当てられた「G」から「L」の内、前半三クラスが理系、残りが文系で、それぞれ成績順に生徒が分けられていた。

 なぜこのような呼び方をするのか。「アルファベットを言うだけで、学年も文理も成績も把握できるかららしい」などという言う者もいたが、他の呼び方をしたってそれは同じだろう、と実月は思っている。しかし、入学当初、口にするたびに首を傾げていたこのおかしな呼び方も、今となってはすっかり慣れてしまった。煩わしさを感じるのは、今のところ、模試を受ける時くらいだ。


「オハヨ~」


 窓枠に寄りかかりながら、木瀬幸樹が手を振っていた。茶色に染まった髪が、太陽の光を受けてキラキラと眩しい。


「おはよう。木瀬くん」


「てか、みんな今日遅くない?休みかと思ったし。オレ」


「う・・・。幸くんもう何も言わないで」


「なになに?どうしたの由宇ちゃん、頭押さえて」


 患部(といっても、ノートで叩かれただけだが)に手を当てながら、小さくなる由宇を、幸樹は面白そうに眺める。


「あのね。恭がいじめるんだよ」


「また喧嘩?よしよし、オレが慰めてあげよう」


「幸くーん」


「騒がしいぞ。お前たち」


 大きく両腕を広げた幸樹の胸に飛び込もうとする由宇の襟元を、子猫をつまむように引っ張りながら、恭が不機嫌な声を出した。


「ゴメンナサイ」


 二つ重なる謝罪の言葉にひとつ頷いてから、恭は幼馴染の少女の耳元に顔を寄せた。


「缶コーヒーで手を打とう」


「・・・!わかった!」


 由宇が財布を片手に教室を飛び出していく。

 それを見送る恭の肩に肘をついて、幸樹がニヤニヤと笑った。


「オヒメサマのお世話は、今日も楽しそうですね?」


「五月蠅い」


「・・・由宇ちゃん。急ぎ過ぎて転んでなきゃいいけど」


 実月が呟いた言葉に、少年二人が、はっと顔を見合わせて、同時にため息をついた。

 進級時のクラス替えで初めて彼らを見た時、由宇を巡る三角関係でもあるのではないかと想像していたが、一緒に過ごすうちに、それが勘違いであることに気付かされた。彼らの関係を表すなら、「世話のかかる妹を持った兄二人」といったところか。最近、自分が「姉」になりかけていることは、ひとまず置いておくことにする。





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