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チョコが大好きチョコマツ先生

「じゃ、これでお別れだな……」

「そうじゃの……」

「そんな顔すんなって。また会える日もくるさ」

「だといいがの……。どの道ワシらにはこれ以外の道は残されておるまい」

「まあ、な」

「皮肉なことじゃ。まさかこのワシらが――みずから地球を破壊することになろうとは」


      1


 頭に衝撃が走った。


「あだっ!!」

 三上誠みかみ・まことは悲鳴をあげ、うつぶせていた顔を上げる。教科書を片手に持った担任の先生が、ヒクヒクとこめかみをひきつらせていた。口は笑っているが、目は笑っていない。


 先生は誠の頭をバンバンと叩きながら言った。

「ま~こ~と~。何度言えばわかるんだ貴様は。私の授業は寝るためにあるのではない!」

「痛い痛い、やめろやめろ!」

「やめろだ? それが年上への言葉かッ!」


 バンバンがさらに激しくなる。


「わ、わかった、じゃなくて、わかりました! もうやめてください!」

「今後の反省点を十字以内で述べよ!」

「もう寝ません!」


 ガン! 最後に教科書の角で叩かれた。

 誠はゾンビのうめき声をあげる。痛いなんてもんじゃなかった。超痛かった。

 悲鳴をあげる誠に満足したのか、先生は、

「フハハハハハ!」

 という笑い声をあげると、愉快そうに教壇に戻っていった。


 クスクスクス。笑い声が聞こえた。涙目のまま、誠は周囲を見回す。

 クラスメイトの全員が、誠を見てひそひそと笑っている。そりゃそうだ。今日は四月十日。新・高校生として入学したばかりなのに、誠はいきなり超ド級の説教を喰らったのである。


 チラと、隣の席を見る。白鳥れいな。やや茶色のボブヘアに、やわらかそうな丸顔。優しそうな瞳。その彼女も、誠を見て口元を緩めている。その笑顔をもっと引き出したくて、板書をしている先生に向かって鼻抜け声を発した。


「チョコマツ先生はそんなだから結婚できないんだよ」

 ちなみに先生の名前は横松香織。自称二十歳。特技は、投げたチョークを必ず対象者に当てること。初めての授業で『好きなものはチョコです』と自己紹介したことから、このニックネームが認定された。


 当然ながら(と言っては先生に失礼だが)、クラスメイトの全員が笑い声をあげた。白鳥れいなも例外ではなかった。片手を口にやり、ふふふふっと笑みをこぼしていれ。誠は心のなかで小さくガッツポーズをした。


 だが、当然ながら(と言っては先生に失礼だが)、その代償は大きかった。先生は誠に向き直ると、両の拳で骨をポキポキ鳴らした。


「……誠。貴様はニワトリか? たった数秒前、私に謝ったのは誰だ? ん?」

 誠は腰を抜かしそうになった。某サイヤ人もびっくりの禍々しいオーラが、先生の周囲を走っている。顔も相当赤い。爆発しそうなほどだ。


「さあ誠、答えろ。貴様はニワトリなのか否か、十字以内で述べよ!」

「せ、先生は俺がニワトリに見えるんですか」

「屁理屈を言うんじゃない!」

 いや、屁理屈じゃねえだろ。心のなかでそう突っ込んだが、口に出すのはやめておいた。空気を読むというのは大人として当然のスキルだと誠は思う。


 横松先生は負のオーラを迸らせながら誠に歩み寄ってくる。片手には投擲武器たるチョーク。その片手が勢いよく振り上げられた、その瞬間!!

 横松先生の身体が、ピタリと停止した。チョークを投げる寸前の体勢で、動きが止まったのである。


 突然の出来事に、誠は目をぱちくりさせた。


「……先生?」

 おそるおそる、問いかける。

「おーい、いきなりどうしたんだよ」

 また問いかけるも、返事はない。


 ふと周囲を見渡せば、クラスメイト全員の視線が、誠と横松先生に注がれていた。みな押し黙ったまま、誠たちを観察してくる。


 どこかの踏切から、電車の走る音が聞こえる。

 選挙カーの高らかな演説が、周囲に響きわたる。


 先生の動きが戻ったのは、それから数分後のことだった。振り上げていた手を、ゆっくりと降ろす。さっきまでの威勢とは正反対の、力のない動きだった。それからぼそりと、魂の抜けた声を発した。

「……各自、チャイムが鳴るまで自習」


 瞬間、クラスメイトが元気百倍になった。立ち上がったり、机を移動させたりする者が続出する。しかし横松先生はなにも言わなかった。教科書一式を脇に抱えると、猫背の姿勢で、教室から出ていった。


 ――なんなんだ?

 クラスメイトが騒ぐなか、誠はひとり、腑に落ちなかった。


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