sect.7 ルゾールの場合/リグアの場合
「帝王様、帝王様!」
帝都リベルダの豪華な執務室に、神経質そうな男が駆け込んでくる。
「なんだルゾール、騒々しい・・・」
部屋の中で椅子に腰かけていた初老の男が、騒がしく駆け込んで来た男に仕方がないなという視線を送りながら溜息をひとつ吐いた。
しかしルゾールと呼ばれた男は、自分に向けられた視線を気にするでもない様子で話を続ける。
「申し訳ありません。しかし、しかしエルザが!」
「慌てるな、すでに報告は入っておる」
慌てふためくルゾールの報告を遮るように帝王は言葉を発するが、どうやらこの男にはあまり効果は認められそうにないようだ。帝王はなかば諦めたように話をつなぐ。
「小僧が取り逃がしたという、例のヤツが出たんだろう?」
「それだけではありません、あのエルザが壊滅状態に!」
「だから分かっておるというに」
一向に帝王とルゾールの会話は噛み合わない。
「しかし・・・、あの地の損害は甚大なものになっており」
「そんなことも分からないようなら、帝王など務まらぬ!」
「し、失礼致しました」
この時になってルゾールは、ようやく自分が出過ぎたことを言っていることに気が付いた。
ようやく冷静さを取戻したかに見えるルゾールに、今度は帝王が質問する。
「それよりも小僧は見つかったのか?」
「い、いえまだ・・・」
「あれから何日たつ?」
「申し訳ありません、それが捜索隊の方が手間取っておりまして・・・。私の方からも早急に居場所を見つけ出すようにと、催促はしているところなのですが・・・」
都合が悪くなると急に歯切れが悪くなったルゾールに、帝王は苛立ちを隠そうともせずに問いかけた。
「ワシはお前に頼んだハズだが。その捜索隊なら見つけられると判断して、送り出したのはお前ではないのか?」
「・・・私です」
「それで責任を今度はその者たちに転嫁するのか?」
「い、いえ・・・」
ルゾールの額に汗がにじむ。
「こんなところで必要のない報告に声を張り上げるより、やるべきことが他に有るのではないかとワシは思うのだが・・・、どうだ?」
「ハイ、申し訳ありません」
ルゾールはさっきまでの勢いが消え失せ、意気消沈といった面持ちになる。
やがて短い沈黙を経て、帝王はつぶやくように語りかけた。
「・・・小僧はエルザに現われる」
「えっ?」
「まだ分からんか?自分が取り逃がした獲物を追いかけて、あいつはエルザに現われると言うておるのだ」
「どちらでその情報を・・・」
ルゾールは不意を突かれたという表情で呆けたままつぶやく。
「お前が捜索を他人任せにしてただ待っている間も、ワシはお前に任せたまま放置しておったわけではない。これが最後のチャンスだ、今度こそヴェルデを捕らえよ」
「ハッ」
そう言うとルゾールはあわてて執務室から出てゆく。
「クソッ、なぜ私が責められなくてはならないのだ!それもこれもあのヴェルデのせいだ。アイツが勝手なことをしたばっかりに!」
先ほどまで蒼白だった顔色を紅潮させ、ルゾールはひとり悪態をつきながら廊下を進んだ・・・。
- 同刻スタントルード -
「ヴェルデ様、ヴェルデ様」
「あぁ、リグアか。どうした?そんなに慌てて」
スタントルードの地下に造られた施設。
ヴェルデに割り当てられた一室に飛び込んだリグアは、もう昼前だというのにボサボサ頭のまま自室でくつろぐ男を見てガックリ肩を落とした。
「全く何ですか、その気の抜けた態度は。もう昼ですよ!」
「お前にはまだ分からないのだろうな、これが平常心の極意だ」
まくしたてるリグアを気にするでもなく、そう言いながらヴェルデは大きくアクビをする。
「何が平常心の極意ですか!腑抜けているだけでしょう」
「まだまだ分かっていないようだなリグア、まあいい。それで一体何の用だ?」
「はい?」
「何か用があって来たんだろう?」
そう言われてリグアは我に返る。
「そうでした!ヌシ神が出ました」
「おお、そうか出たか」
「そうか出たかって・・・」
「そろそろだと思っていたよ」
そう言いながらヴェルデは大きく伸びをすると着替えを始めた。
「出るぞ」
突然のヴェルデの言葉。
「え?どこへですか?」
「決まっているエルザだ。インドを呼べ、すぐに出る」
ヴェルデはあっという間に着替えを終え、頭のセットに取り掛かっている。
「(まったく私は何も言っていないのに、ヌシ神が出たと言っただけで全部分かるとは・・・。この人の頭の中はどうなっているのか)」
「おい、何をぼやっとしている?早くしろ、時間がないぞ」
「はいはい、分かりました」
リグアはヴェルデの私室を出て、インドのもとへ歩き始めた・・・。




