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マブイ【魂】プロジェクト  作者: °Note
Chapter Ⅲ 失われた過去からの使者
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sect.36 折れた心

「ねぇねぇ、どうしたの?」

「バカ!?チクリ何をしている!」

ランブーとモールのもとに歩いて近づいてきたチクリに、二人が同時に激しく叱責するように叫ぶ。

「えっ?」


グモオォォォ・・・!


無防備にも歩いて近づいてきたチクリに反応するように、拘束剤で動きを封じられていたレヴナが突然大きな声をあげて暴れだした。

「逃げろチクリ!」

ランブーが大声で叫ぶが、不意を突かれたようにチクリは、その場に呆然と立ち尽くす。突然の出来事に混乱したチクリの表情は、驚きと恐怖でひきつっていた。


「ダメだ、ありゃ正常な判断ができていない」

モールが額に汗をにじませてランブーに告げる。


バリッ・・・


ランブーとモールが見守るなか、嫌な感じの乾いた音が響いた。その音の出どころがどこかなんて、言われなくてもレヴナの拘束剤以外に考えられない。

「くそっ!」

ランブーの脳裏に、あの日ホムラが息絶えた最後の光景が浮かぶ。

ランブーは自分の乗る狼犬カエンを駆り、レヴナの近くですくみあがるチクリのもとへと急がせる。


ブフォー!!!


「ぐっ・・・!」

ランブーと狼犬カエンが迫る気配を察してレヴナが威嚇の雄叫びをあげると、カエンは萎縮してその場にしゃがみこんでしまった。カエンの尻尾は腹にくっつくかのように内側へと収められ、小刻みに震える全身からはまるで力が抜き取られてしまったようだ。


「停まるな、カエン!」

だがカエンはいくらランブーが声を張り上げてもまるで動かない。かつてパートナーだったホムラに比べ、若く戦闘経験の少ないカエンにとってはこの状況は厳しいのかもしれないが、つねに凶暴なヌシとの戦いを繰り返しているヌシ狩りの民にとって、これは死を意味する行為に他ならない。

現にいま、大切な仲間を失いかけているのだ。


バリバリバリ・・・


乾いた音とともに、明らかにレブナが拘束剤から解放されかけているのが判る。

「あぁああぁ・・・」

チクリは恐怖に耐え切れず、その場にへたりこんだ。

「逃げろチクリ!」

今度はモールが叫ぶ。

「動け、カエン!」

ランブーの狼犬は、すでに目から覇気が失われている。


バリッバリッ!!


レブナの前脚の拘束剤が砕け散り、レヴナが後脚で立ち上がった。

その濁った両眼はまっすぐチクリに向けられており、間もなくやってくるであろう攻撃の矛先は彼女に振り下ろされるに違いない。チクリはその場から少しでも離れようと足に力を込めようとするが、意識に反して体がまるでいうことをきかなかった。

「だめ・・・、足が動かない・・・!」

「チクリー!!!」

そして次の瞬間、無残にも狂牛は拘束から解放されてしまう。



ドンッ・・・



まがまがしい形状の角を有するレヴナの巨頭は、ヌシ狩りの民たちやシャンネラ一行が見守るなか、小柄なチクリの体に向かって振り下ろされた。

その猛烈な勢いで舞い上がる砂煙、周囲は霞がかかったように視界が悪くなっていく。

「ぐっ・・・、チクリ」

ひきつった表情でヌシ狩りの民たちがつぶやく。

レヴナは無慈悲にもチクリを頭で潰して、喜びに震えているのかピクリとも動かなかった・・・。


「まただ、また守れなかった・・・」

ランブーが肩を落としてカエンの上でうなだれる。

だがレヴナの攻撃はまだ終わりではない、早く次の行動に移らなければ自分たちも危ない。リーダーである自分がしっかりして民を導かなければ・・・。だが理屈では分かっているのに、どうしていいのか何をすべきなのか頭が回らない。

もうどうでもいいという気持ちが、ランブーの心をジワジワと闇に引きずるように支配していく。

「うぐっ・・・」

自分の無力さに打ちのめされて、ランブーの小さな瞳から涙がこぼれ落ちる。



「バカチンが!お前がそんな事でどうする、胸を張って前を向きな!!」

シャンネラの声にうなだれていたランブーが頭を上げると、彼とレヴナの間に一台のスライドボードが浮かんでいた。


「あわわわ・・・」

砂煙の中から漏れる小さな声。

次第に砂煙が引いていき、そこにはレヴナとチクリの間に立ちはだかるシュカヌの姿があった。

チクリは腰を抜かしたまま地面に座り込んでいたが、その姿に異常はない。

そして動きを止めたレヴナの眉間には、シュカヌの短剣が深々と突き刺さっていた。


ズズッ、ズズズッ・・・


やがてヌシの巨体は音もなく静かに沈んでいく。

何があったのか理解できないように、たたずむヌシ狩りの民たち。彼らの間をただただ緩やかな風が流れていた。

「・・・なんだ!?やったのか?」

状況を理解できないで固まっていた、その場の全員が動き出す。

そしてそれと同時に地面にへたり込んでいたチクリが、大粒の涙を流しながら大きな泣き声を上げる。


「うぉおお!やったぞ、あのレヴナを倒したぞ!!」

一斉に歓喜の声をあげチクリに駆け寄るヌシ狩りの民たち。シュカヌがいなければ、この危機を乗り越えることができなかったのを記憶の彼方に置き去りにしたように、彼らは無邪気に喜んでいた。



「アンタたちヌシ狩りの民の本隊じゃないね?・・・本隊はどこだい?」

魂を抜かれたようにたたずむランブーのもとにシャンネラがやってきて、小さな長に問いかける。

だがランブーは唇をかみしめ俯いたまま、微動だにしない。

ランブーの前に仁王立ちしていたシャンネラは、女性らしからぬゴツイ手のひらで少年の頬をひっぱたく。


バシッ!


「黙ってちゃ分からないよ!いいかい、これは子供の遊びじゃないんだ!!アンタらの本隊はどこにいる!?」

声を荒げるシャンネラ。

シャンネラの怒鳴り声で二人の状況に気づいたヌシ狩りの民たちは、誰もがバツの悪そうな表情で視線をそらしている。


「・・・俺が話そう」

そう言ってランブーとシャンネラの前に、モジャモジャ頭の男が一歩前に出てきた。

「待てモール!」

「いや、もういい。もういいんだランブー」

「何がいいんだよ!」

ランブーは弱い感情を表に出さないよう、必死で抑え込んでいるような表情でモールに食ってかかる。

「これは自分たちの責任を果たさずに子供のお前になすりつけた、俺たち大人への罰だ」

「・・・なんだよそれ。なんだよそれ・・・」

ランブーはそうつぶやき、再び俯いてしまう。


「シャンネラ殿・・・。あなたの推測通り我々はヌシ狩りの民には違いないが、メインの部隊ではありません。いや、メインの部隊ではなかったと言うべきか」

モールはうなだれるランブーを横目に、彼らに起こった出来事のすべてを話しだした。



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