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マブイ【魂】プロジェクト  作者: °Note
Chapter Ⅲ 失われた過去からの使者
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sect.34 あの川を越えて3

『今だ!!』


シャンネラとシュカヌの二人が同時に叫び、シュカヌは巨大なヌシの背へ飛び乗った。

「オバサン離れて!」

「わかってるよ!」

そう叫びながらシャンネラは、スライドボードを滑らせてレヴナとの距離をとる。

(いいかい、ムチャはするんじゃないよ・・・)


レヴナの背に飛び乗ったシュカヌは、背中の毛にしがみつきながら体勢を整える。

その体毛は所々禿げて薄くなってはいたが、背中のあたりに比較的多く残っているベタついた感触の長い毛をたぐりながら、振り落とされないよう安全な位置に体を移動させていく。

(猛烈なにおいだ・・・)

鼻を衝く異臭に顔をゆがめながらシュカヌは状況を観察した。


「これは・・・」


しかしその状況を把握するにつれ、絶望にも似た感覚に襲われる。

引きずられている大木は、レヴナの右脚に刺さった槍と繋がっているが、よほどの力で射抜かれたのだろう。槍は脚を貫通して、カギヅメ状になった五本の矛先が内腿に食い込み、大木の重みでも槍が抜けないようになっていた。

槍を抜くにはカギヅメをどうにかしなくてはならないが、暴れるレヴナを抑えつけなければ難しい。

それはこの状況下では、とても現実的な案とは言い難かった。


(・・・となると)


シュカヌは服の袖を引きちぎるとそれを手に巻き付け、レヴナの右脚に向かって移動する。

「シュカヌ!お前、何をする気だい?」

異変に気づいたシャンネラが叫ぶ。

「だめだオバサン、あの槍は外せない!だからテグスを切る」

「なんだって!?ちょっとお待ち!」

だがシュカヌはシャンネラの言葉を無視して、レヴナの毛を掴んだまま槍に足をかける。


「あのバカ!」

シャンネラは悪態をつきながら、スライドボードを引きずられている大木へと寄せていった。


レヴナの右脚から突き出た槍は、傷口の膿が飛び散りヌルヌルしていた。

気を付けなければ足を滑らせてしまうとシュカヌが思った瞬間、振動で足下の槍を踏み外してしまう。

「シュカヌ!」

シャンネラが大きな声で叫んだが、シュカヌは掴んだ毛にぶら下がりながら冷静に体勢を立て直す。

「大丈夫!それよりもオバサン、気を付けるよう皆に合図を!」

「言われなくても、わかってるよ!」

シャンネラは前方でレヴナを誘導しているメンバーに、用心するように合図を送る。


(チャンスは一度きりだ。失敗は許されない!)

シュカヌはその手に掴んだレヴナの長い毛を離すと、槍の先端から大木へとつながっているテグスに向かってジャンプした。

「ぐっ・・・!とどけ!」

宙に舞うシュカヌが右手を伸ばしテグスを掴もうとするが、空振りして空を切ってしまう。しかしすぐさまもう一度手を伸ばし、その手のなかにテグスを収めた。

(よし、掴んだ!)


テグスを伝って落下していくシュカヌの体。

しかし強く握っているにもかかわらず、テグスは想像以上に滑って落下スピードは収まらない。そして手に巻き付けた服の切れ端から焦げ臭い匂いが漂い始めた。

「くそっ、止まれー!」

シュカヌの叫びも虚しく、勢いをつけたまま体が大木に接近する。


ドン・・・


「ぐっ!」

鈍い音と共にシュカヌは落下に近いスピードで大木に体を打ち付けるが、その手に握りしめるテグスを放すことはなく振り落されることだけは免れた。

「シュカヌ!」

「大丈夫、来ないで!」

遠くからユマの声が聞こえて、シュカヌが答える。


シュカヌは大木の上でテグスに掴まったまま起き上がり、腰から短刀を引き抜いた。

「オバサン、いくよ!」

シュカヌはシャンネラの顔を見て叫ぶ。


それを受けてシャンネラは、スライドボードをシュカヌの頭上へと移動させる。

「テグスを切ったら、ボードに掴まりな!」

「わかった!」

そして短刀は、狂牛と大木をつなぐテグスを二分した。


スパッ・・・




まず最初に動きがあったのは、牽引される力を失った大木だった。

大きな力の反動で、巨木はゴロゴロと回転しながら後方に流れていくように離脱していく。

その回転スピードはとても速く、誰の目にもシュカヌはその下敷きになってしまったように見えた。

だが上空に浮かぶシャンネラのスライドボードを見て思い出す、そこにぶら下がっているシュカヌの姿に彼がヒトではない力を持った存在であったことを。


「まったく、とんでもないヤツだよ。お前は・・・」

シャンネラが感嘆とも呆れともいえない口調でつぶやく。



次にわずかな時間差で変化があったのはレヴナだった。

疾走中に大木のかせを突然失ったことで、バランスを崩したレヴナはその巨体を支えきれずに、大きな音を立てて転倒する。

狂牛はその場に倒れこんだまま、バタバタと手足を動かしながら息を荒げていた。

「なんだ?倒れたぞ。このまま死ぬのか?」

「バカ、そんな訳ないだろう!」

子分Aと子分Bが顔を見合わせ言葉を交わすが、それが願望でしかないのは誰の目にも明らかだった。

そしてそれを証明するかのように、やがてレヴナはゆっくりと体を持ち上げると、その場に固まったように動きを止めた。


・・・とてつもなく嫌な予感が走る。

「来るぞ!逃げろ!」

誰かが叫ぶと同時だった、レヴナはさらに勢いを増して襲い掛かってきた。


「さっきの橋まで全力で戻るよ!死にたくないヤツは付いてきな!」

シュカヌをスライドボードの後部に乗せ換えてシャンネラが叫ぶと、全員が一斉に散り散りにバラけながら橋に向かって動き出すのだった。



あれほど長い時間レヴナから逃げ回っていたように感じたのに、想像したほど橋との距離は離れていなかったようで、質素な橋はすぐに全員の視界に入ってくる。

「シャンネラ殿、こっちだ!」

いつの間に渡っていたのか、橋の向こう岸から狼犬にまたがったヌシ狩りの民が呼びかけている。

シャンネラは小賢しい男だと思ったが口には出さず、スライドボードに乗った者たちに指示を出す。

「ワタシがレヴナを引き付けておく。皆は順番に橋を渡って、向こう岸に着いたらワタシを待たずにそのままヌシ狩りの民との合流地点へ向かうんだ」

誰もが自分たちの大将を囮にして逃げる作戦に不安も感じたが、自分が一人残ったところでレヴナをうまくさばく自信もないし、反論でもすれば後が怖いので全員が即答する。

「ラジャー!」



「さぁてシュカヌ。皆が渡りきるまで、もうひと暴れして合流と行こうじゃないか」

他のメンバーがスライドボードで橋を渡りはじめたのを確認して、シャンネラがニヤリと笑いながら背後の少年に語り掛ける。

だがシュカヌはシャンネラの袖から血が滴っているのに気付いて尋ねた。

「うん、でも腕の傷は大丈夫?」

「心配いらないよ!ちぃと血の気が多かったから、これで丁度いいぐらいだ」

「それは意味がちが、うわっぷ!」

突如急加速されてシュカヌは舌をかみそうになりながらシャンネラにしがみついた。


橋を渡る他のメンバーに背を向けて、レヴナへと突進するようにスライドボードを操るシャンネラ。

「オバサン、ぶつかる!」

しかしシャンネラはレヴナの鼻先で進路をかえて急旋回する。

それに気づいたレヴナは逃げるメンバーを追って橋へと向かっていた足を止め、目障りな虫を追い払うかのように、巨大な角を使ってスライドボードを攻撃してきた。シャンネラはその足を再び橋へと向かわせないように、つかず離れずの距離をキープしながらレヴナを挑発していく。


やがてレヴナはまるで他のメンバーの存在を忘れたように、シャンネラにターゲットを絞って執拗に攻撃を繰り返しはじめた。

「すごい!」

何かに憑りつかれたようなスライドボードさばきで、その激しい攻撃のことごとくをスルリとかわしていくシャンネラに、シュカヌは思わず感嘆の溜息をもらす。

対照的にレヴナは怒りと興奮で、さらに上気しているのが見てわかった。


「シャンネラ殿ー、全員渡りきりましたぞ!」

そして程よいタイミングでヌシ狩りの民の声が響いてくる。

「よし、丁度いい頃合いだ!シュカヌしっかり掴まってな、落ちるんじゃないよ!」

そういうとシャンネラは上空からレヴナの鼻先に向かって急降下する。

「うわぁ!」

しかしギリギリの距離でレヴナを回避すると、そのままの勢いで橋に向かって一直線にスライドボードを走らせた。


ドドドドドド・・・・・


「釣れた!!」

すさまじいスピードで迫るレヴナに、振り返って見ながらシャンネラがほくそ笑む。


しかしシャンネラとて余裕をかましている状況ではなく、スライドボードとレヴナの距離はどんどん縮まってきていた。

「オバサン、橋だ!」

「ここが勝負の分かれ目だよ!」

そう言いながらシャンネラは減速せずに橋を渡り始める。

高速で渡るスライドボードにギッギッと軋む音を立てる橋。

「さあ、付いて来い!」


バリバリバリ・・・


レヴナは猛烈な勢いで橋を破壊しながらシャンネラたちを追いかけてきた。

「よし!来た!!」

シュカヌが興奮して声をあげる。

「シャンネラ殿、急いで!こっちです!」

そして対岸ではヌシ狩りの民が叫んでいた。


「よーっし、合流地点まで、全員全力で、逃げろー!!!」

シャンネラが待たずに合流地点に向かえという指示を出していたにもかかわらず、シャンネラの神技的なスライドボードテクニックと迫るレヴナの凄まじい迫力に、川の対岸で我を忘れたように呆けて見ているメンバーたちにシャンネラが大声で叫ぶのだった・・・。




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