sect.7 危機一髪!
ガサゴソ・・・
「・・・いいかぁ、出すぞ」
「こっちは、いつでもオッケーだよ」
岩の根元の穴からジンタの声が響き、チカがそれに答える。
「そりゃー」
・・・ポヨン!
掛け声と共に穴の中から、透き通った白い卵が飛び跳ねるようにして現れた。
チカはアワワワと慌てふためきながら卵を追いかけ、追いついたところで胸にしっかりと抱きかかえる。
「ちょっとちょっと、もう少しゆっくり優しく出してよね!そんなに乱暴にしたら卵が割れちゃうでしょ!」
「ちぇっ、割れてもまだいっぱいあるじゃねーか・・・」
チカの怒鳴り声に反応して、ジンタがふてくされながら小さくつぶやく。
「なんか言った!?」
「いや、なんでもないです・・・」
「まったくジンタはいい加減なくせに、いつも一言多いんだから!」
「まあまあ・・・」
オカンムリのチカを、すでに卵を抱えて待っているレンドンがなだめる。
「よっし、そろそろ出るぞ」
「いいから、さっさと出てきなさいよ!」
ガサゴソ・・・
やがて顔を土まみれにしたジンタが穴の中から這い出てくる。
「あらよっと・・・、無事生還!」
だが出てきたジンタの手には卵が二つ抱えられていた。
「あれ!?」
「卵が一つ多いじゃん!?」
怪訝な顔をするチカとレンドン。
「へへっ、オレはお前たちより体がでかいからな。一人で二つ持って帰るんだよ」
ジンタは得意げにふんぞり返って答える。
「またまたぁ、無理しない方がいいんじゃないの?やっぱり重いからやめようかなとか、あの時あんなこと言わなきゃよかったって後で思うんじゃないの?」
「バカにしてもらっちゃ困るんだよ。オレはそんなヤワじゃないよ!」
(・・・ヤワじゃないけど、バカで意地っ張りだから困るんじゃない!)
「ん!?チカ、何か言ったか?」
「なんでもないよ!」
(無神経なくせに、変なところで鋭いんだから・・・)
「ねえちょっと待って・・・」
急にレンドンが神妙な面持ちで、二人の会話に割って入る。
「どうしたのレンドン?」
「何か聞こえない?」
「なんだ?」
・・・ブン
「何にも聞こえねーぞ」
「ちょっと静かに!」
・・・ブーン
三人は慌ててお互いの顔を見合わせる。
「蟲が帰ってきた!!」
「どっちだ!本当にこの方角で間違いないのか!?」
うっそうと茂る森の中を疾走するヴェルデとスタントルードの学者たち、そして少し遅れた場所から追いつこうと必死なリグアの姿。
「恐らくは・・・」
不安を滲ませた声で答えるインド。
その時、遠方から聞こえてくるキャーという子供の叫び声。
「あっちだ!!」
その声に反応してインドは右手を上げて、後方を追走している者たちに合図を送る。
シュタタタ・・・・
その合図を受けたスタントルードの学者たちは、インドとヴェルデを追い越し颯爽と駆け抜けていき、その姿はあっという間に見えなくなってしまった。
「んな!?早っ・・・」
はるか後方からそれを見ていたリグアが、驚きを隠せないようすでつぶやく。
「あの声から察するに、距離はそれほど離れていないな!」
「ですな」
確認するかのようなヴェルデの問いかけに、インドはしっかりした口調でうなずいた・・・。
羽の生えた巨大なムカデはブーンという音を立て、上空を8の字を描くように旋回しながら狙いを定めてジンタたち三人に襲い掛かってくる。
「えっほえっほ、逃げろ逃げろ」
「アンタ、その卵どっちか捨てなさいよ!」
チカは両脇に卵を抱えて走るジンタに向かって怒鳴る。
「イヤだよ!オレは両方持って帰る!」
「バカ!そんな意地張ってたら、死んじゃうでしょ!」
だがジンタは、そんなチカの言葉に耳を貸そうともしない。
「だからアンタはバカだっていうのよ!」
ムカデは時折ガチガチと鋭い上あごを鳴らしながら、上空から急降下して三人を狙う。
「うほっ、来たぁ!」
三人はタイミングを合わせて散らばり、その攻撃をかわし続ける。
「イヤ!あんなので挟まれて死ぬのはゼッタイにイヤ!」
「当たり前だろ!」
「蟲さん、こんなオトメより隣のでかいヤツの方が食べ応えがあるわよ!」
「ハッ!?隣のでかいヤツって、オレの事か?」
「アンタしかいないでしょバカ!」
こんな状況にもかかわらず、チカとジンタの掛け合い漫才のようなやり取りは止まらない。
しかし何度目かの強襲を受けた時だった。
「あっ!?」
「何どうしたの!?」
レンドンの叫び声にチカとジンタが振り返ると、ツタに足をひっかけて倒れるレンドンの姿が目に入ってくる。
「あっ、レンドン!!」
上空を旋回していたムカデはそのチャンスを見逃すはずもなく、レンドンに狙いを定めて急降下を始める。
「いやぁ、レンドン逃げて!」
チカの叫び声が辺りにこだました。
猛スピードでレンドンに迫りくる巨大なムカデ。
「あぁ・・・」
レンドンは恐怖で体がすくみ、身動き一つ取れない。
そしてムカデが大きな口を開けて、レンドンを飲み込まんと接近したその時・・・。
ボフッ!
どこからか握りこぶし大のボールが飛んできて、ムカデの頭部に直撃する。
直撃したボールは即時に破裂して、辺りに紫色の煙をまき散らす。
その煙を体に受けたムカデは、空中でグネグネと体をねじらせるようにもがき苦しみ始めた。
「どうやら間に合ったズラ・・・」
どこからか聞こえる謎の声。
チカがその方向に顔を向けると、全身をガラクタのようなもので身を包みゴーグルで顔を覆った男たちの姿がそこにあった。
「あぁ、助かった・・・」
チカは張りつめていた緊張の糸が切れてしまったのか、その場にヘナヘナと座り込んでしまう。
「お前たちは、そこでじっとしているズラ」
「うん」
男たちの一人が発した言葉に、チカが返事をする。
「さてウチの娘たちに襲い掛かった礼は、たっぷりさせてもらうズラよ」
男はニヤリと笑い巨大なムカデに向き合った・・・。




