sect.6 巣
「ホントにこっちの道であっているの?」
草木がうっそうと茂る森の中を、三人の子供たちが進む。
子供たちはガラクタのような品々を身にまとって、それぞれの瞳は小型のゴーグルで覆われている。
「間違いないって!オレに任せとけよ」
「ジンタの任せとけは、いつもアテにならないんだから」
「そう言うなよ、チカはいつもオレに厳しいよな」
「だってしょうがないじゃない、ジンタはいつもいい加減なことを言って皆を困らせるんだから」
「いい加減って・・・、オレはなぁ!」
ブン・・・
「しっ!二人とも静かに・・・」
口論を続ける二人を眺めていた、彼らより一回り小さな少年が口をはさむ。
「どうしたんだ、レンドン?」
「静かに!」
ブーン・・・
そのとき三人の近くを巨大なカブトムシのような昆虫が飛びながら森の奥へと消えていく。
「もう大丈夫だよ」
「ありがとうね、レンドン」
「ううん」
少女の言葉にレンドンは、照れ臭そうに顔を赤らめ首を振る。
「なんでぇ、ただのオオカブトじゃないか。あいつはヒトを襲うこともない安全なヤツなのにレンドンは大げさなんだよ」
チカにお礼を言われているレンドンを横目に見ながら、ジンタは嫉妬しているかのように悪態をついた。
「いい加減なジンタと違って、レンドンは慎重なんだよ」
「いい加減いい加減って・・・」
「まぁまぁ二人とも、そんなケンカしなくても」
いつもの事とはいえレンドンは二人のケンカにげんなりしながらも仲裁に入る。
「それよりもジンタが言ってた蟲の巣って、そろそろ近いんじゃないの?」
「そうだ!この辺りだよ。ちょっと待ってな・・・」
そう言いながら、ジンタは小高い丘の上に立って辺りを見渡す。
すると三人のいる所からほど近い場所に、茂みに隠れるように巨大な岩があるのが見える。その岩の下には、子供がひとり入れそうなくらいの大きさの穴がぽっかりと口を広げていた。
「あったぞ!あの場所だ」
ジンタはチカとレンドンに向かって得意げに声を上げた・・・。
「う~ん、どうも私はこういう場所は苦手ですね・・・」
先頭を行くインドとヴェルデの後について歩きながらリグアが漏らす。
確かにうっそうと茂る場所を白衣で歩くリグアの姿は、はた目にも違和感を覚えずにはいられない。
「だから残っていてもよかったのだぞ」
「もう今更引き返せません」
白衣を茂みの藪に引っかけ“ああ~”と情けない声を上げながらリグアが返す。
「子供たちが向かった場所の特定はできているのか?」
リグアを無視して、先頭のインドにヴェルデが尋ねる。
「はい、こっちで間違いないですじゃ」
「よくもこんな場所を子供たちだけで・・・」
大人でも道に迷えば不安になるようなところを、子供たちだけで進んでいることに半ば呆れかえるようにヴェルデがつぶやいた。
「慣れれば危険な場所の特定もできますし、実際この辺りは比較的安全な場所なんですじゃ。あの子たちもその辺は理解して行動しておりますので」
そう言いながらインドは歩を進めるスピードを落とすことなく説明する。
「俺にはどこも同じ風景にしか見えないがな」
「ふぉふぉふぉ」
「昔は・・・」
「うん?」
「はるか昔にヒトが食物連鎖の頂点に君臨していたという頃には、こんな今の状況は想像すらできんでしょうなぁ」
「まったくだ・・・」
ヒトが世界の大地を支配して、その技術力によって夜ですら大地を明るく照らし続けていたという頃からすれば、今の世界の状況は彼らにどう映るのだろうと考えながらヴェルデは答えた。
「今ではヒトもその食物連鎖の一部に過ぎない。しかしそれが自然な姿なのですかなぁ」
「難しいな・・・」
インドの問いかけにヴェルデは短く答える。
ブン・・・
「おい、何か音がしなかったか?」
捜索隊の進む音に交じって聞こえた異音にヴェルデが反応する。
「?」
インドは後に続く者たちにシッっと合図を送り、茂みに隠れるように指示する。
ブーン・・・
(あそこだ・・・!)
無言で顔を上げた彼らの上空を、巨大な影が横切る。
その姿はヒトの何倍もある大きさをした、羽の生えたムカデのようだった。ムカデはその巨体をくねらせながら空中を滑るように進んでいる。
(蟲・・・!)
やがてムカデの姿をした蟲は、ヴェルデたちに気付く様子もなく彼らの視界から消えていく。
「マズいですじゃ・・・」
蟲が消え去った後で、青ざめた顔のインドがつぶやく。
「どうした?」
「蟲が巣に戻る・・・」
インドの言葉にヴェルデがハッとして叫ぶ。
「子供たちが危ない!先を急ぐぞ!」
「どう?取れた?」
岩の下にぽっかりと空いた穴を覗き込みながら、チカが声をかける。
「あともうちょっと・・・」
チカの声に反応して、真っ暗な穴の中から苦しそうなジンタの声が返ってくる。
「大丈夫かな?」
「大丈夫だよ」
隣で不安そうにしているレンドンにチカが笑顔で答える。
「取れた!」
間もなくして暗闇の中から弾んだ声が響いてきた。
「えっ!?」
「やった!」
チカとレンドンが穴の中を覗き込んでいると、赤ん坊の頭くらいの大きさをした卵を抱えたジンタがゆっくりと這い出てくる。ジンタは体中泥だらけになりながら、へへへと得意げな笑顔を二人に向ける。
「どんなもんだい!」
穴から這い出たジンタは、手に抱えた卵を二人に披露する。
少し土のついたその卵は、白く透き通った色をしていた。
「綺麗・・・」
「うん・・・」
「まだまだあるぞ、一人一つづつ持って帰ろう!」
「うんうん!」
ブン・・・
巨大な蟲が近づいていることも知らずに、はしゃぐ三人。
だがその時は確実に近づいてきていた・・・。




