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マブイ【魂】プロジェクト  作者: °Note
Chapter Ⅲ 失われた過去からの使者
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sect.5 謎の病

「そう、そしてワシらは国王に提案したんじゃ。後にランタベルヌの反感を買うことになった、恐るべき計画を」

「その恐るべき計画とは・・・」


リーダーの男は、眉間にシワを寄せて話を続ける。

「細菌兵器じゃ・・・。忌々しい蟲共といえども、自然界に生きる生物にはちがいない。だからワシらの保有する恐るべき細菌を使って、ヤツらを駆逐しようと考えたんじゃ」

「その細菌とは?」

「生物の内側から生体組織を破壊する、危険なシロモノじゃ」

リーダーの男の言葉に、リグアが素早く反応する。


「生物のって事は、ヒトも例外ではないという事ですか!?」

「そう、そこが一番の問題だったんじゃ」

「当然です!」

「じゃがその細菌は、空気中では死滅してしまう。使い方さえ誤らなければ、コントロール出来たのじゃ」

しかしリグアは複雑な表情で、黙りこんでしまう。


「ともあれこの国には、それ以外の策も時間もなかった。だから、この国の民を一時避難させるため、ランタベルヌに事情を説明して協力を要請したのじゃが・・・」

「ランタベルヌから拒否された」

「そのとおり・・・。民の受け入れには応じたが、計画を進めた国王とワシらの国外への脱出は認めなかった」

男の隣でヴェルデは冷静を保ってはいたが、その心中を察してリグアは胸が苦しくなった。


「そして粗方(あらかた)の民の避難が完了した頃、ランタベルヌは蟲共を一掃するため上空からの爆撃を開始した。その時の攻撃で国王は命を落とされ、ワシらは国の奥へ奥へと逃げるしかなかった」

「しかし今の現状をみると、その爆撃も効果がなかったという事か」

「さよう・・・。一掃するには蟲共の生息地域は広範囲に広がりすぎてしまっておった。おまけにこの国には自然の森が多く残っていたことが災いした。森の奥底へと逃げ込んだ蟲共を上空から攻撃するのは難しかったからな、とはいえワシらもそのお陰で逃げ延びることができたんじゃが・・・」

「しかしランタベルヌはどうやって、蟲の侵入を・・・。そうか壁か!」

リグアは言いかけて、ランタベルヌ国境に張り巡らされた壁の存在を思い出した。

結局のところ蟲の討伐に失敗したランタベルヌは、スタントルードに巣食う蟲たちがランタベルヌへ侵入するのを防ぐために膨大な金をかけて壁を造ったのだった。


「そう、あの壁はランタベルヌを護る壁ではなく、この国から蟲が出ていくのを封じる壁じゃ」

「そして今日まで、蟲と戦いながら生き永らえてこられたという訳ですか・・・」

「うむ」

男は神妙な顔でうなずいた。


「なるほど、話は理解できました。しかし話は戻りますが、そのあなたたちが何故ヴェルデ様にコンタクトを?」

「その理由はコレじゃ・・・」

リグアの問いかけに男は言葉を詰まらせたが、おもむろに自らの服の袖をめくり上げる。

「これは・・・!?」

服の下から露わになった男の腕には、無数のコブが浮き上がっていた。


「ワシらの間で原因不明の病が流行っておる・・・」

「・・・・」

リグアはいびつに腫れ上がった彼の腕を見て息をのむ。


「ワシらも学者の端くれとして生物の知識を多少は持ってはおるが、病気の事となるとワシらの手には負えんのじゃ」

「そうでしょうね」

他にかける言葉を見つけることが出来なかったリグアは、呟くように小さく言った。

「それでも歳を取ったワシらはまだいい、しかし幼い子供たちが命を落とすのは我慢できんかった・・・。そこで危険を冒してでもランタベルヌにいるヴェルデ様に、薬と医者の手配をお願いしたんじゃ」

「なるほど・・・」


「まあ俺としても、スタントルードの情報を彼らから得る事ができたからな」

「そうですね」

ヴェルデの言葉にリグアがうなずく。

ランタベルヌに反旗を翻すことを考えていたヴェルデにとっても、故郷であるスタントルードの情報を得る事は無駄にはならないという思惑があったのだろう。

実際のところ今回起きた一連のトラブルに、この場所の存在が大きな助けになるであろうことは間違いない。


「ともあれ、我々はランタベルヌから姿を隠す場所を得る事ができたし、あなた達は病気を治すための手立てを手に入れることができたと」 

「そうじゃ、相互利益のない関係など信用できんじゃろう?」

「お互いに面識のない関係なら尚更・・・、ですね」

「うむ」

三人はお互いの顔を見合わせて無言でうなずいた。


「さて、となると実務的なことを煮詰めていく必要がありますね」

「というと?」

これまでの会話で彼らの存在に納得したのか、そう切り出したリグアにヴェルデが尋ねる。

「ここを当面の我々の拠点とするとして、ここは一体どういう場所なんですか?」

「スタントルードの軍事基地として建設された地下施設らしい」


ヴェルデの言葉を補足するように、リーダーの男が先を続ける。

「前国王が亡くなられる前に、ワシらに避難場所として提供してくれた施設じゃ。無論ヴェルデ様が戻られたからには、この施設の所有権はヴェルデ様にある」

「細かいことは気にするな、皆でここに居ればいい。我々とてお前たちの支援なくしてこの地に留まることは難しいのだから」

その意見に納得しながらも、リグアは彼らのニオイだけでもどうにかならないものかと、心の中でつぶやいた。


「ただ、申し訳ないんじゃが・・・」

「どうした?」

「ここに備蓄してあった食料は、ワシらがほとんど食べ尽くしてしもうた」

「構わん。保存食といえども、これだけの年数が経っているんだ。消費してくれていた方がムダにせずに済んだというものだ」

「ありがとうございます」

「食料の買い出しは、小型艇のスカイモービルを使って誰かに行かせよう」

「そうですね・・・」


そう言いながら、リグアはあることに気づいた。

「クルーは全員ここに拘束するのですか?」

船の乗組員は当然家族を持っている。ヴェルデは彼らをこの逃避行に道連れにするつもりなのだろうか・・・。

「いや後で皆を集めて話すつもりだが、家に帰りたい者は帰す。ただし一度去った者は、ここにはもう帰ってこれないと約束してもらわなければならんが」

「ここに逃げているという情報が洩れませんか?」

「心配いらん、この場所をどうやって特定するんだ?スタントルードに隠れているという情報が漏れたとしても、この広い地域でしかも地下にあるこの場所を特定することはできんよ」

「なるほど」

確かにこの地に長く住み続けるスタントルードの学者たちによる助けでもなければ、一度外に出て迷ってしまうと、この場所に帰ってくることは不可能に思えた。


その時どこからか、誰かを呼ぶ声が響く。

「インドー、インドー!」

「インド?」

「ワシの名じゃ。申し遅れたが、ワシの名はインド・メタン」

リーダーの男は、黄ばんだ歯をのぞかせてニヤリと笑う。


間もなくガチャガチャと音を立てて、別の学者であろう男が現れる。

皆がゴーグルをかけて顔がよくわからない中では、誰が誰だか判断に困るなとリグアは思いながらも成り行きを見守っていた。

「どうしたんじゃ?」

新手の男はハァハァと息を切らせながら、インドのもとに駆け寄る。

「子供が、子供たちが・・・」

「落ち着け、一体どうしたんじゃ」

「蟲たちの巣を見つけたからと、卵を取りに行って戻って来んらしい・・・」


「なんとバカなことを。あれほど危ないから巣には近づいてはならんと言っておるのに!」

「病気のインドたちに、栄養のあるものを食べさせようと・・・」

「うーむ・・・」


困った様子のインドに、ヴェルデが語りかける。

「捜索隊を出そう。我々も協力する」

「いや、しかし・・・」

「スタントルードの子供ならば、我が民の子だ。助けることに何の理由がいる」

ヴェルデの言葉に、インドが深々と頭を下げる。

「ありがとうございます・・・」

礼を述べるインドを残して、ヴェルデは捜索隊を準備するために歩き始める。


(蟲の卵を食べる・・・)

頭の中で妄想が大変なことになりつつも、リグアは何も言えずにその場にたたずむのであった・・・。





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