sect.4 同業者
「これは!?」
森が割れ、地面から現れた巨大な穴を見てリグアが声を上げる。
そしてその穴の近くで、ガラクタのような品々を身にまとってゴーグルをかけた人物が手を振っているのが見える。
「行こう、安全が確保できたようだ」
その様子を見たヴェルデは、そう告げると操舵室へと向かって歩き出した。
「いったい何者なんだ、あの人物は・・・?」
リグアは謎の人物を再び眺めながら、不安な気持ちを抑えきれずにいた。
「お待ちしておりました・・・」
巨大な穴の中へと船を停泊させたヴェルデたちを出迎えたのは、先ほど穴の近くで見た人物と同じ風貌をしたガラクタのような品々を身にまとった者たちの集団だった。
ヴェルデに付いて船を降りたリグアは、彼らの出迎えに思わず顔をゆがめる。
百歩譲ってインチキくさい彼らの風貌を許せたとしても、近づいてきた彼らのニオイは世界のすべてを全否定できるほどに強烈だった。
そうつまりは、彼らは猛烈に臭かったのだ。
それはもう、とっても・・・。
そんな彼らを目の前にしても顔色一つ変えないヴェルデを見て、さすが人の上に立つ人物だとリグアは心の奥底で賞賛した。
そのいぶかしげな集団のリーダーらしき男に、ヴェルデがねぎらいの言葉をかける。
「うむ、船の先導ご苦労であったな」
「いえいえ、大した事ではございません」
「あの・・・、彼らは一体・・・?」
ヴェルデの背後からリグアがこっそりたずねる。
「この国の民だ」
「は!?」
「この国が壊滅に追い込まれて、大半の民は国外へと逃げ出してしまったが、蟲共を制してこの国に留まり暮らし続ける者たちだ」
「蟲を制する?知能もない蟲共を操るという事ですか!?」
「お前の言う操るが何を意味しているのかは解らんが、ヒトを襲う生物に襲われなくできるというのも操るという事にはなるだろうな」
「一体どうやって、そんな事が彼らに?」
どうみてもインチキ臭い彼らに、それほどの知識や技術があるはずがないと言わんがばかりのリグアに、ヴェルデは意地悪な笑みを浮かべて答える。
「お前がさっきから、あからさまに嫌な顔をしている彼らのニオイだよ」
「!?」
リグアは痛いところを指摘され、あわてて表情を取り繕うように顔に手をあてる。
ヴェルデはそんな慌てふためく様子のリグアに、クククと笑いながら話を続けた。
「まあそれだけではないが、それが一番解りやすいところだろうな。見てみろ、さっきこの船を搬入するために開いたハッチはあれほど巨大だったにもかかわらず、そこから蟲が入り込んだ形跡は全くないだろう?」
「はっ、そういえば!」
リグアはハッとして天井や辺りを見渡すが、動きのあるものはヒトの他には何もなかった。
「カカの葉じゃ」
さっきのインチキ臭いリーダー風の男が、リグアの疑問に答えるように会話に割ってはいる。
「ん?」
「カカの葉を燻した煙で匂いをつけて、ヤツらが寄って来んようにしとる」
「なんだって!?そんな事ができるのならば、その煙でこの地域から蟲を追い払えば・・・!」
リグアの言葉に男はかぶりを振る。
「無理じゃ・・・。煙で付けた効果に持続性はないし、屋外では煙が拡散されて思うほどの効果はない。何よりも恐ろしいのは、煙を多用することで蟲どもに耐性ができてしまうことじゃ。耐性を持った個体が繁殖していけば、いままで効果のあった方法が取れなくなってしまうのでな」
男の説明にリグアは納得すると同時に、彼らをインチキ臭いと思っていた事を深く恥じた。
「彼らといえど、蟲どもを完全にコントロール出来るというわけではない。その攻防は一進一退で、今日まで研究を重ねながら生きながらえてきたんだ」
「研究を重ねて?」
「そう、お前は嫌うかもしれんが、彼らは学者さ。俺たちの故郷スタントルードで雇われていた、生物学者たちだ」
「同業者・・・」
学者といえば白衣に身を包み、研究室で研究を続けるイメージだったが、その姿からは遠くかけ離れた彼らを見て学者だと気付く者がいるのだろうかとリグアは思った。
「しかしそんな人たちの存在を、私は初めて知りました・・・。よく彼らとの交流を今でも持たれていましたね」
「彼らのほうから、コンタクトがあったのさ」
ヴェルデの表情がわずかに曇る。
「その先はワシが話しましょう・・・」
そう言うとリーダーの男は一歩前に出て、ヴェルデの話の続きを語りだす。
「そなた等が生まれるよりずっと前のことじゃ。どこからともなく現れたイビツな蟲がこの国で発見されたのは知っての通りじゃろうが、巨大でヒトを襲うこの蟲の調査・研究のため、ワシたちはヴェルデ様の父上であられた当時の国王に雇われた」
「国王直々に?」
「そうじゃ。ヒトを襲うこと以外は気にする者のいなかった当時でも、国王はこの事態を憂慮なさっておられた」
「こうなることを、当時は予想できなかったのですか?」
リグアはこの地域の現状を思い浮かべてたずねる。
「当時は蟲どもの個体数は非常に少なかったからの。突然現れた蟲だから、放っておけば消えていなくなるだろうとか、駆逐すれば済むだろうくらいにしか思われておらんかったのじゃ」
「そんな・・・」
「異常に繁殖し始めるまでは、今ほどの脅威ではなかったということじゃ」
「そうだろうな、ヒトというのはそういうものだ・・・。いざ追い込まれなければ、さして気にしない。追い込まれて気にしたときには、すでに手遅れの状態。よくある話だ」
ヴェルデが自虐的な笑みを浮かべてつぶやく。
「じゃがワシらは国王の依頼に従って研究を重ね、異常な遺伝子の突然変異によりあの蟲どもが生まれたことは突き止めたのじゃが、その突然変異が頻繁に起こった原因までは突き止めることはできんかった」
「そうこうするうちに、蟲どもの数が増えてヒトの手に余りだした・・・」
リグアの推測に、男はうなずく。
「このままでは、この辺り一帯のヒトは蟲どもに襲われて死に絶えてしまう。そう考えたワシらは国王に提案したんじゃ、後にランタベルヌの反感を買うことになった恐るべき計画を・・・」




