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マブイ【魂】プロジェクト  作者: °Note
Chapter Ⅱ 追憶の果て
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sect.15 嗚咽

「いい気味だと思っているんでしょう?」

今の精神状態では会話をすることは無理だと、エンゾが判断しかけた時にアリアがぽつりと喋った。


「・・・心外ですね」

エンゾは顔色ひとつ変えずに答える。

「そうかしら・・・?」

「ならば逆に聞きます。何故そう思うのですか?」

アリアは虚ろな瞳でシュカヌを見つめたまま、何も答えない。

部屋の外では人の往来があるのだろう、扉越しに雑音が小さく聞こえてくる。


「・・・何をしに来たんですか?」

会話が噛み合わない。

アリアの精神状態はかなりひどいようだとエンゾは思った。


「お子さんの具合はどうかと思いまして」

「私たち親子に、かまわないで下さい」

「・・・・」

二人の間に流れる沈黙を、ポッポッポ・・・とシュカヌの身体に取り付けられた機械の音が緩やかに中和する。


「用件はなんですか?」

「はい?」

突然のアリアの問いかけに、エンゾが戸惑う。

「あなたは利益の無いことに、労力をかける人ではないでしょう?」


エンゾはやれやれと、心の中で呟きながらも腹を決めた。

「単刀直入に言います」

「どうぞ・・・」

「生体金属とオートマトンの融合に手を焼いています。力を貸して頂きたい」

一瞬アリアは目を見開いてエンゾを見つめたが、すぐに虚ろな視線に戻り自虐的な笑みを浮かべながら返答する。

「私が手を貸すわけが無いのは判っているはずです。第一この子が危険な時に、私がここを離れるわけがないでしょう・・・?」

狙い通りのアリアの答えに、エンゾは準備していた言葉で切り返す。


「この時期だから、急がなければならないのですよ」

「何を言っているの?ワケが分からない」

「今にも消えてしまいそうな、お子さんの魂を我々と救いませんか?」

アリアは静かに考えを巡らせていたが、すぐにエンゾの言葉の意味を理解した。

「この子を実験に差し出せというの?」


「実験の為に、あなたの子供を救うのではありません。子供の命を救う手段が、実験と重なる部分があるということです。なにが手段で、なにが目的かを履き違えないで頂きたい」

「過程はどうであれ、結果的にこの子を実験に使うのでしょう?」

「あなたの子供を救うか、救わないかの話をしているのです」

「ズルいですね、私にはこの子以外に何もない・・・。この子を失ったら何も残らないのに・・・」

そう言ったアリアの目から、一筋の涙が流れ落ちる。


「魂を機械の体に移植する“タマウツシ”と呼ぶプロジェクトを進めています。そのためにも生体金属とオートマトンを融合した体を早急に完成させなければなりません」

「私にどうしろと!」

アリアは感情の起伏が激しく、彼女自身がそれをコントールできなくなっている。

「まず、あなたが研究データにかけているプロテクトを解除してくれますね?」

「・・・・」


「あなたの研究データのパスワードを教えてください」

「・・・・」

エンゾの要求にアリアは押し黙ったまま何も答えなかったが、やがて今にも消え入りそうな小さな声が聞こえてくる。

「・・・カヌ」

「はい?」

「・・・私が研究データにかけた、プロテクトのパスワードはシュカヌです」


エンゾはアリアの言葉に満足そうな笑みを浮かべる。

「ありがとうございます」

「・・・・」

だがアリアはシュカヌを見つめたまま、魂が抜けたように何の反応もなくなってしまった。

「約束します。ここの医療セクションからサンプルを頂き、オートマタと生体金属で造られたこの子の身体を完成させてみせます。あなたの勇気を必ずムダにはしませんよ」


「行きましょう、エンゾ博士」

アリアから情報を聞き出した途端に、部屋の外から研究員の声。

エンゾがそっと開いた扉の隙間からは、メリザの姿が見える。


「うっ・・・」

人がいなくなり、何も語らないシュカヌと二人きりになった部屋にアリアの嗚咽おえつが小さくこだました・・・。



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