プロローグ 03
「今度は何だ!!」
「嵐です、砂嵐だ!!!」
みると前方に月明かりも届かぬ暗闇が広がり、こちらに迫ってきているのが見える。
「まったく、次から次へと!!!船の高度を上げろ、上空に行けばまだ風が弱まるはずだ。動力の限界までスピードを上げて回避するんだ!」
ヴェルデは苛立ちながらも状況を判断して指示を出す。
「しかし、エナジークリスタのエネルギーが・・・」
「石は港で補給する!エネルギーが尽きるまで、動力がつぶれるまで、逃げられるところまで行け!!」
「はいっ!」
ヌシ神にしがみつく少年も船上の喧騒から背後を振り返り、砂嵐の存在を知る。砂嵐は猛烈なスピードで接近していた。
「だめだ、引きずり込まれる!砂嵐に入りま・・・!!!」
誰かが叫んだが、その声は途中で風の音に遮られ最後まで届かない。
黒いカーテンのように境界線のはっきりしたその先に入ると、中は猛烈な風と巻き上がる砂埃で目を開けるどころか息をするのもままならなかった。
巨大な船体は強風のあおりを受け、上下左右に大きく揺れたが飛行状態を維持しつづけた。
船員たちは目の前にあるものにしがみ付き、振り落とされないようにしようとするが、何人かは船の積荷と共に船外へと吹き飛ばされていく。
しかしやがて床下が浮き上がるような感覚があり、巨大な船体が徐々に上昇していくのがわかった。どうやらヴェルデの指示がぎりぎりのところで届いていたのであろう。
徐々に船体が上昇するにつれて風の威力も弱まり、抵抗はあるが歩行には差し障りないところまで状況は少しずつではあるが回復しつつあった。
しかし長く感じられた時間を経過してヴェルデが辺りを見渡すと、船上にいた人員の数はおよそ半分にまで減ってしまっており、残った者も極度の疲労を抱えていた。
(やれやれ何とか間に合った・・・、ヌシ神は無事か?ヤツはどうなった?)
ヴェルデが少年の姿を探してヌシ神の方に視線を送ると、片腕で今にも落ちそうにヌシ神にしがみ付く少年の姿がそこにあった。
ヴェルデはその姿を見て、呆れ返る気持ちを通り越して心から感心した。
「残念だったな、ボウズ」
宙吊りになった少年へと近づきヴェルデが語りかけるが、少年は黙って彼を見つめたまま何も喋らない。
「邪魔者に語りかける言葉はない・・・か」
ヴェルデは懐から銃を取り出すと、少年に向けて銃口を向ける。
少年は何も言わずにヴェルデの目をじっと見つめている。
「そんな目で見るなよ・・・。悪いな、こっちも余裕がないんだ」
そういって放たれた銃弾が荒神にしがみ付く少年の腕に当たり、彼はわずかに顔をゆがませる。
やがて深い闇に吸い込まれるように彼が落ちていくのに、それほど時間はかからなかった・・・。
「お互い、とんだ災難だったな・・・」
落ちていく少年の姿を見届けた後ヴェルデはきびすを返し、船に残った船員に指示を出す。
「よし、港町ハタムに向かえ。向こうに着いたら二手に分かれて船から落下した者、遺跡に残った者の捜索隊を出す。休めるヤツは今のうちに休んでおくように!」
「やれやれ・・・、やけに騒がしい発掘になりましたけど、なんとか無事に片付きそうですね」
リグアが体の砂埃を払いながら、ヴェルデに近付いてくる。
「まったくだ。これからが本番で、こんなところで遊んでいるヒマはないというのに」
「あの少年は・・・?」
そう言いながらリグアがヌシ神に視線を送るが、そこに少年の姿はなかった。
「俺が気付いた時には、もう姿がなかった。恐らく風に飛ばされて落ちてしまったんだろう」
「そうですか・・・」
「ハタムに着いたら忙しくなるぞ」
ヴェルデは話題を変えるように切り出すが、リグアもこれ以上見知らぬ少年を詮索するだけの気力は残っていなかった。
「ですね・・・。これからのことを考えると胃が痛くなりますよ」
そう言いながらもリグアは、半ば吹っ切れたような笑みを見せる。
「そう言うな、それも学者の喜びだろう?」
「わかってますよ」
「ヌシ神のほうはどうだ?問題はないか?」
「固定のほうは問題ありません、状態は外見からだけでは十分な判断は出来ませんが、異常はないようですね」
リグアは目視でヌシ神を確認して答える。
「よし、ハタムに向かうぞ。細かい事はそれからだ」
「了解しました」
そう言うと二人はそれぞれの持ち場に向かって歩き始めた・・・。
眼下に広がるのは、まるで無のような暗闇。
その中を落下していく少年・・・。
しかし、その表情には焦りも悲哀も感じられない。
間もなくやってくるその時を、受け止めるかのように両手を広げ静かに目をつむる。
やがて近づく地表。
・・・ボフッ




