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マブイ【魂】プロジェクト  作者: °Note
Chapter Ⅱ 追憶の果て
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sect.12 タマウツシ


入室を厳重に制限された個室。

この研究所に長く在籍するものですら、この部屋の存在自体を知らない者も多い。


そこに一人の男性が運び込まれてきた。


男はひどく負傷し、今にも命を失いそうな危篤状態だった。

意識は混濁し、ときおり小さくうめき声をあげる彼を、数人の研究員が取り囲む。

しかし誰もが終始無言で、それがまた異様な雰囲気を室内にかもしだしていた。


研究員たちは男を台の上に寝かしつけ、コードが何本も付いた金具を彼の頭に取り付ける。

そして彼の隣の台には、静止して動かない一体のオートマタが横たわっていた。


「準備が整いました」

やがて一人の研究員が静かに言った。

その言葉に呼応するかのように、数人が無言でうなずく。


「いいでしょう・・・。始めて下さい」

部屋に響くエンゾの声。

見ると研究員たちと少し距離を取ったところにエンゾとトナムの姿があった。

そしてエンゾの合図で研究員たちは一斉に散らばり、それぞれが何かの作業を始める。


「うぅ・・・、ハァハァ」

運び込まれた男の吐息は荒い。

何も処置をしていない今の状態で、このまま放っておけば、すぐにでも命を落としそうな状態である。


「本当に大丈夫なのか?」

「さぁ・・・?」

隣から語りかけるトナムに、エンゾはそっけなく答える。

「さぁじゃと!?」


ブゥンブゥン・・・

何の音だか分らないが、奇妙なハウリングのような音が室内に響く。

次の瞬間、オートマタの指先がピクッと動いた。

「動いた!?」

「しっ!」

興奮して声を上げるトナムを、エンゾが制止する。


その後オートマタは軽く身じろぎしたかと思うと、横たわったまま手を顔の正面に持ってきて、何かを認識しようとするような動作を見せた。

「移った・・・」

エンゾが小さくつぶやく。

「なんじゃ、成功したのか!?」

「まだです!ここからです」

邪険に扱われてトナムは黙り込む。


オートマタは上半身をゆっくり起こすと、手で頭を抱え込むような動作に移った。

「無駄です・・・」

「ん?」

「声は出ませんよ。そういう仕様にはなっていませんから・・・」

冷たい視線でオートマタを見つめながら、エンゾがつぶやく。

オートマタは頭を抱えたまま、震えるように微振動をしていたが突然動きが止まる。


「実験体が死亡しました!」

研究員が大きな声で、エンゾに報告する。

オートマタは動きを止めたままピクリとも動かない。


「ふむ」

エンゾは暫らく何かを考え込んでいたが、やがて彼なりの結論を見つけたようだ。

「魂の定着が弱かったか・・・」

「どういう意味だ?」

「オートマタへの魂の移管までは成功しましたが、移管した魂をオートマタに固定することが出来なかったということです。だから本体が命を失って、魂も霧散したということです」


「あの男はどうなったんじゃ?」

「死にました」

「死んだって・・・。死んでどうなったんだと聞いておる!」

「死んだものがどうなるかって、そんな子供じゃあるまいし」

「貴様ァ!」

憤るトナムにひるみもせずに、エンゾは言葉を続ける。


「どのみち彼は助からなかったのです・・・。ですが、まあいいでしょう。私の理論の一端を説明しましょう」

冷静に、そしてゆっくりとエンゾは言葉をつなぐ。


「氷は溶けると、どうなりますか?」

「んな!?ワシをバカにしておるのか?」

トナムは顔を真っ赤にして詰め寄るが、そんな彼の気迫も一瞬で吹き飛ばされることになる。

「私に答えを求めたのなら、質問に答えろ!」

眼光鋭く声を荒げるエンゾに、トナムは一瞬この人物が誰なのか分らなくなった。


いつも冷静沈着なこの男が、ここまで感情をあらわにしているのは今まで見たことがない。だが常に感じていた、エンゾの奥底に秘められた狂気の一端を垣間見たような気がした。


「氷が解けると、水じゃ」

「では水が渇くと?」

「水が渇く?・・・!?」

「そう、気が付きましたか?水が渇くと気化しますが、それは無くなったわけではない。全てのものは形を変えても、存在というものが無になる事はありえない。だから私の研究は、ヒトの魂をオートマタに結露させて閉じ込めようというのです」

「そんなことがゆるされるわけがない・・・」


力なく漏らすトナムにエンゾは言い放つ。

「まだ赦されていると思っているのですか?すでにヒトは赦されてなんかいないのですよ。

今の文明レベルを維持して、ヒトが存続し続ける事は不可能です。そして今の文明レベルを放棄して、ヒトが存続し続けることも不可能です」

「それじゃ、ワシらは滅ぶしかないじゃないか!?」

「そうこの世界で生き続けるには、ヒトはあまりにも弱すぎる。だからオートマタに体を乗り換えることで生き続けるというのが、私の考える“次世代進化論”なのですよ」

「そんな・・・」


「・・・二人でオモシロイ事やっているね」

「だれだ!?」

突然二人の会話に入ってくる人物にエンゾが叫ぶと、物陰からメリザが姿を現す。


「あなたのここへの入室は許可していませんが?」

エンゾはメリザを睨みつけながら言う。

「いいじゃない。何を秘密にしてコソコソやってるのかは知らないけど、他人の口を人には操れないわよ」

「・・・・」


「生物は強いものが生き残るのではない。その環境に適応できるものが生き残る・・・」

「なんじゃ、それは?」

メリザの言葉にトナムが問う。

「太古の学者の言葉よ。今では忘れ去られているけどね」

「フン・・・」


「いいじゃない、アタシにも一枚噛まさせてよ。どんな環境にも順応できる、最強の体を造ってあげるわ」

妖しく微笑むメリザに、エンゾは無言で答えた・・・。




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