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マブイ【魂】プロジェクト  作者: °Note
Chapter Ⅱ 追憶の果て
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sect.7 蠢動

アリアの研究室。

そこにアリアと十数人の研究員の姿があった。


アリアと研究員たちに囲まれているのは、先日研究員から報告を受けていた例の粘液を滴らせる金属の塊だった。


「アリア博士、準備できました」

「分かったわ、こっちも大丈夫よ。始めましょう」

「了解しました」


アリアの合図に一人の研究員が、金属の乗った容器をガラスで仕切られた小部屋へと運ぶ。

小部屋の中央には物々しいテーブルが据え付けられ、テーブルの上方にはドリルやライトやら色々な機器が付いていた。

研究員がテーブルの上に金属の容器を置いて、アリアたちの元へと戻ってくる。


「それではネズミの遺伝子情報を植えつけます・・・」

「いいわ」


別の研究員の言葉にアリアが承認すると、研究員はガラスで仕切られた部屋の外からコンピュータの操作を始める。

するとテーブルの上方から、小さなドリルの付いたアームが金属に向かって伸びてきた。

アームはドリルの先端が金属に近づいたところで一度停止し、間もなくキーンという高音を発しドリルの先端が回転を始めたところで、金属に向かって再び動き始める。


ドリルの直径一ミリ程度の刃先が金属に接触すると、わずかに高音の音質が変化したが、刃先は抵抗も感じさせずに金属の中に吸い込まれていく。

そして刃先が金属の表面に小さな穴を開けたところで、アームは金属からドリルを抜いた。

その直後に穴から液体がわずかに飛び散ったが、時間と共にそれも止まる。


「ここまでは大丈夫よ・・・」

アリアと同様に、研究員たちも固唾を呑んで作業を見守る。


次にドリルの付いたアームと入れ替わるように上方から降りてきたのは、注射器の付いたアームだった。

メタリックな注射器には覗き窓のようなスリットがあり、注射器の中は緑色をした液体で満たされていることがわかる。


注射器の付いたアームが座標を合わし、先程ドリルで開けた穴に向かって注射針を入れる。

針が金属の中腹まで入るとピストンが働いて、中の液体が次第に排出されていく。

注射機内の液体が穴から溢れ出てくる様子は無かったので、つまりは金属内に留まっているのだろう。

中の液体をすべて排出して、注射器のついたアームは針を金属から抜き再びテーブルの上方へと戻っていった。


「どうですか?」

「まだよ・・・」

焦りをにじませる研究員を、アリアが抑制する。


その時だった。

金属の表面がグニャリと波打ったかと思うと、固形の金属がまるで溶けた金属の塊にでもなったかのように、その形を変えていく。

「どうだ!?」

「お願い、来て!」

研究員たちの懇願するような声が、研究室内に小さく響く。


そして次第にその形がメタリックなネズミに変わると、辺りから歓声が起こった。

「やった!」

「すごい!」

アリアは近くにいた研究員たちと抱き合い、喜びを噛みしめ合った。


そんな歓声をよそにメタリックなネズミは、鼻をヒクヒクさせながら容器の中を動き回っている。

「ん、なんだ?何かおかしいぞ・・・」

研究員の一人が周囲の喜びを気遣ってか、漏らすようにつぶやいた。


だがそれは、その場にいた全ての人間が感じることになる。

先程まで容器の中を元気に動き回っていたネズミが、まるで苦しんでいるかのように容器の中でもがいていた。


そして動きを止める・・・。


「な、なんじゃこりゃあ!」

研究たちが叫びをあげた。


彼らの目の前では動きを止めたネズミに、虫に似た形状の八本足が生えてきていた。

「き、気持ち悪い・・・」

まがまがしいその形状に、嘔吐する数人の研究員の姿。


そんな中で直ちに動いたのはアリアだった。

「すぐに実験体を隔離して!」

「は、はい・・・」


だがそんな彼女の心配も、すぐに無駄になる。

八本足のネズミは再びもがき苦しむような動作を見せたかと思うと、元の無機質な金属の形に戻り沈黙してしまった。


「いったい何だったの?」

喜びと恐怖と安堵、色々な感情が短時間にめまぐるしく湧き上がっては消えたアリアと研究員たち。この実験結果は彼女たちの想定をはるかに超えていたが、実験体を慎重に扱う必要性を認識させた。

アリアと研究員たちは気持ちの整理が付かないまま、その場にいつまでも佇むのだった・・・。




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