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マブイ【魂】プロジェクト  作者: °Note
Chapter Ⅱ 追憶の果て
21/120

sect.5 成果

時の流れはあまりにも早く

アリアがこの研究所に来て、三年の月日が経とうとしていた・・・。


「アリア博士、報告会に参加するようエンゾ博士から連絡が・・・」

「放っておいて!事あるごとに連絡だ報告だって、研究のための報告なのか、報告のための研究なのか分かりゃしない・・・」

若い研究員の言葉にアリアが答える。

「いいのですか?」

「大丈夫よ!いつもくだらない内容に時間を使って、意味がないんだから」

若い研究員は板ばさみになって、困惑した様子で立ち尽くしている。


「担当者にはアリアに伝えておきましたって、言っておきなさい。それで向こうにも事情が分かるわ」

「はい!」

どうしていいのかと悩んでいた若い研究員は、笑顔で部屋を出て行く。


「それよりも誰かトナム博士に連絡を取って、骨格金属と生体金属の蒸着じょうちゃくの方法に改善の成果が見えてきたわ」

「はい、行ってきます」

別の研究員が急いで部屋を出て行く。

次々に研究員が部屋を出て行くように思えたが、現在彼女たちの研究室は四十人を超える人がせわしなく出入りを絶えず繰り返していた。


というのもアリアがこの研究所に赴任当時、彼女の助手は四人しかいなかったが、今では百人を超える数にまで膨れ上がっていた。だが彼女の研究テーマも複数のものが同時進行しており、それだけの数でも人手が足りないとアリアは感じているくらいだった。


「アリア博士、これを見てください」

「何?ちょっと待って」

別の研究員の言葉にアリアが答える。

間もなく彼女がその研究員のもとに駆け寄ると、そこには容器の皿にぽつんと置かれた金属の塊のようなものがあった。

「これを見てください」

そういって研究員が指差したものに目を凝らすと、その金属の塊と皿との間に粘液らしき液体が溜まっているのがわかる。


「体液?」

「成分を検査してみなければ分かりませんが、恐らくそうではないかと・・・」

「すごいじゃない!?」

「ですね」

「大きさは変化してる?」

「昨日より54グラム重くなっています」

「成長軌道に乗ったわね」

金属を眺めるアリア博士の瞳に光が宿る。


「この状態でもう少し培養を続けて・・・、そうね三日くらいかな。そして遺伝子情報を植えつければ」

「新たな生命の誕生ですね!」

「すごいわ・・・」

アリアは興奮で鳥肌が立つのを感じながら金属の塊を眺めた。


「エンゾ博士に報告は?」

「まだよ、結果が固まってからでないと。もし失敗した時には、彼はまた嫌味を言いかねないから」

アリアは研究員と顔を見合わせ、フフフと笑う。



「一体なんなんだ、騒がしいな!」

そう言いながらアリアの元にやってきたのは、機械工学セクションのトナム博士だった。

この三年の間にいろいろなものが変わったが、そのなかでも一番変わったのはこの男なのかも知れない。

機械工学セクションから外に出てくることのなかった男が、やたらとアリア博士の生体金属セクションに現れるようになっていた。


「いえちょっと、新しいプロジェクトの展開に進展があったんですよ」

アリアがボサボサ頭の男に答える。

「それよりも、これを見てください」

そう言いながらアリアが取り出したのは、一本の義手だった。

「むっ、これは・・・」


その義手は質感・色合いといい、ヒトのものに限りなく近い造りをしていた。

トナムは骨格と皮膚の接続部となる箇所を丹念に調べながら、思わずうなり声を上げた。

「この質感で衝撃にも強くなってます。力を入れたときの筋肉の強度は、ナイフ程度では傷一つ付けられませんよ」

「・・・また仕事の精度が上がったな」


機械工学の偏屈男をうならせるほど、アリアの研究成果は上がっていた。



そのとき二人の背後で、天井からぶら下がっていた一匹の蜘蛛がポトリと落ちる。

蜘蛛が落ちたのは、先程アリアと研究員が話していた粘液を滴らせる金属の塊が置かれた皿の上だった。


蜘蛛は皿の上でカサカサと音を立ててもがいている。

移動して容器の皿から這い出そうとする蜘蛛に反して、足元が滑り八本の足だけが空回りする。


だが、一本の足が皿上の粘液に触れた瞬間だった。


金属の一部が溶けた飴のように変形していく。

そしてカメレオンの舌のように伸びて、蜘蛛を捕らえた。

捕らえられた蜘蛛は、そのまま表面が液化した金属の塊の中へと引きずり込まれていくのだった。


それは一瞬の出来事だった。

蜘蛛を内部に取り込んだ金属の塊は、何事もなかったかのように元の形に戻って、皿の上に乗っていた・・・。



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