sect.11 エンゾ
「やっと見つけた・・・。エンゾ!」
シュカヌが叫びながらヌシ神と対峙し、その行く手を阻む。
ヌシ神は「グルル・・・」と低いうなり声を上げているが、シュカヌの存在に気付いて歩みを止めた。外見からは何かを考えているのか分からないヌシ神だが、少なくとも彼の存在に反応を示しているのは確かなようだ。
そしてシュカヌがそっと腰から小剣を抜いた直後、ヌシ神が動いた。
前足の先端からナイフのような鋭い爪が飛び出し、シュカヌの上方から獲物を突き刺すように振り下ろす。だがシュカヌはその動きに遅れることなく反応して、数歩スライドするように横へと移動してこれを避けた。
「お前を、この先には行かせない!」
そう言うとシュカヌは勢いをつけ、ヌシ神に向かってジャンプする。
二メートル以上あろうかというヌシ神を飛び越せそうなほどの跳躍を見せたシュカヌは、ヌシ神の眼に構えた小剣を突き刺す。
逆三角形の並びにあった三眼の下のひとつに当たった小剣の刃先は、最初は眼の堅さに阻まれて止まってしまう。しかしそこから、まるで眼の硬度が変わったかのように、スッと刃が中腹まで入っていく。
ヌシ神はギシャァと叫び声を上げながら身をよじり、シュカヌをふるい落とすように撥ね退けた。
角度をつけて下に叩きつけられたシュカヌの体は、そのまま地面を滑るように転がり、家屋の壁にあたって止まる。壁はその衝撃で崩壊し、付近は撒きあがった砂煙で包まれた。
「まだ昔の力までは、戻っていないみたいだね・・・」
砂煙の中から声が聞こえたかと思うと、シュカヌが何事も無かったかのように中から現れる。あれほどの衝撃でレンガのような壁に衝突したにもかかわらず、シュカヌの体には傷ひとつ無いように見えた。
それとは対照的にヌシ神の方は、身をひねり続けて悶えながら苦痛に耐えているようだ。
シュカヌに小剣を突き刺された眼からは、ドロリとした液体が滴り落ちている。
次の攻撃を加えようと、ふたたび小剣を手に取って身構えるシュカヌへの、ヌシ神の反応は素速かった。
傷ついていない残りの二眼が赤く染まってきたかと思うと、そこから光線が発せられた。
不意をつかれた突然の攻撃に、さすがのシュカヌも今回は慌ててこれを避ける。光線はシュカヌの体の横をぎりぎりのところで通過していった。
間もなく衝撃と爆発が辺りを襲い、その勢いでシュカヌは強く吹き飛ばされた。
だが幸いなことにシュカヌがヌシ神を足止めしてから、いくらかの時間が経過していたので周辺にいた人たちは避難できていたようだ。
「いてて・・・」
さすがにシュカヌも今回は爆風を身近で浴びて、無傷ではなかったらしい。苦痛に顔をゆがめて立ち上がる。だが光線の威力は確実に、三眼の時よりも落ちていた。
獲物を仕留めそこなったヌシ神はいまいましそうに「グルル・・・」と、うなり声を上げシュカヌを見つめている。
その時だった・・・。
「シュカヌー、一体どこにいるんだい!?」
どこからかシャンネラの声が聞こえてくる。
「だめだ、おばさん来ないで!」
動揺するシュカヌ、だがヌシ神はその一瞬のチャンスを見逃さなかった。
あちらこちらが炎上して視界が悪くなっている街のどこに狙いを定めるでもなく、あたり一面に光線を乱射し始める。
間もなくどこからか「うぉぁお!」というシャンネラの声が聞こえてくる。
そのシャンネラの声の方角を察知して、シュカヌはシャンネラに駆け寄った。
「おばさん何してるの!?今すぐここを離れて!」
「何してるって、ヒドい言いようだね!」
シャンネラはやっとシュカヌを見つけて安堵するよりも先に、シュカヌの態度にオカンムリだった。
シャンネラの機嫌はかなり悪くなってしまったらしく、避難するよう頼むシュカヌに辛くあたる。
だがそんなやり取りを無視してヌシ神が二人に迫り来る。
ヌシ神は足の鋭いツメをシャンネラに向かって振り下ろした。
「あぶない!」
シュカヌはシャンネラを抱きかかえ、ヌシ神の攻撃を回避する。
ポッ・・・
なにやらシャンネラの様子がおかしい。
「いやだよ、お姫様抱っこなんて何十年ぶりか・・・」
「そんなこと、言ってる場合じゃ・・・!?」
そんな二人にヌシ神のツメが執拗に襲い掛かる。
「仕方がない、おばさん逃げよう!」
シュカヌの言葉にシャンネラの表情が変わり、不敵な笑みを浮かべる。
「バカ言ってんじゃないよ!あたしを誰だと思ってんだい」
(ん?どういう意味だ!?)
「このシャンネラが、手ぶらでノコノコ戻ってきたと思ってんじゃないだろうね・・・」
そう言ったシャンネラの背後から(正確にはヌシ神に背を向けてシャンネラを抱えたシュカヌの前方からだが)、七台のスカイモービルが現れた。
「まったく遅いよ、何してんだい」
やっと現れた手下の気配を察して、シャンネラは命令する。
「今だ、撃てー!!」
シャンネラの言葉を合図に、それぞれのスカイモービルからミサイルが発射され、ヌシ神の全身へと次々に命中していく。
「バカ!近いよ!」
シャンネラが悪態をつくが、シュカヌがシャンネラの体を覆うように護っていた。
ヌシ神への爆発で舞い上がる煙、その煙が晴れるとその中心にヌシ神は立っていた。
スカイモービルでの攻撃は、無傷ではないが致命傷には至っていないようだ。
「なんてヤツだ・・・」
その姿を見てシャンネラと手下たちはひるんだ。
「撤収!」
シャンネラの合図で、スカイモービルはバラバラと散らばるように逃げていく。
その時ハーデルマークの研究施設からは、砂海での一件からシュカヌが追っていた巨大な船が、今にも飛び立とうとしていた・・・。




