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マブイ【魂】プロジェクト  作者: °Note
Chapter Ⅰ 邪なる存在の復活
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sect.10 対峙

「ヤツを逃がすな!外がパニックになるぞ!」

ヴェルデの訴えも虚しく、ヌシ神は研究室の扉を抜けて通路へと飛び出した。

「しまった・・・!」

苦々しくヴェルデが叫ぶ。


「どうしますか!?このままでは・・・」

慌ててリグアがヴェルデの元に駆け寄ってくる。

「仕方がない・・・、やつを攻撃する」

「そんな・・・」

「殺してもかまわん!ヤツを止めるんだ」

そう言いながらヴェルデは、通路に呆然と立ちすくむ衛兵にヌシ神への攻撃を命令する。

だが茫然自失となった衛兵には、その声が届かない。


ヴェルデは衛兵の銃を奪い取ると、ヌシ神に向かって狙いを定め、銃の引き金を引いた。

だが銃弾はヌシ神の(先程まで卵の外殻だった)背中の甲殻に当たり、ダメージも与えずに跳ね返ってしまう。

「ちっ・・・」


すると突然通路を直進していたヌシ神が振り返ったかとおもうと、眼の辺りから光線が発せられた。

嫌な予感を感じたヴェルデは、リグアと衛兵を掴み通路に倒れこんだ。

「伏せろ!」

直後に通路の突き当たりに命中した光線が炸裂し、辺りを爆風が襲う。

逃げ場のない通路での爆発に、三人は頭を抱え込んで辺りが落ち着くのを待った。


「こ、これは・・・」

ヌシ神の発した光線の威力に、ヴェルデは言葉を失う。

光線が当たった箇所の壁、そしてその先にあった部屋が消失していた。

「なんて威力・・・。これが古代技術の力ですか・・・」

リグアが驚きと恐怖の入り混じった感情をあらわにしてつぶやく。


その思いはヴェルデも同じだったが、彼がふと我に返って気が付くと、三人が動揺している隙にヌシ神は通路から忽然と姿を消してしまっていた。

「しまった・・・」

ほんのわずかな時間、思案をめぐらせていたヴェルデが発した言葉は、リグアにとって意外なものだった。

「リグア、警報を出せ。第一種緊急警報だ!」

「え!?そんな・・・」

その言葉の意味を理解したリグアが、一瞬たじろぐ。


「最悪の場合はハーデルマークを切り捨てる」

「そんな事をすれば、本国が黙っていませんよ!?」

「国が黙っていようがいまいが、策がない!」

しばし考え込んで立ち止まるリグアだったが、やむなしと判断したのか突然どこかへと走り出すのだった・・・。


「さて、ヤツをどうするか・・・?」

ヴェルデは自分自身に問うように呟いた・・・。





その頃、広場についたユマは歓声を上げる。

中世の洋風的な建物が並ぶ大きな通りにその広場はあり、広場の中央では噴水から貴重な水が噴き出ている。砂海では考えられない光景に、ユマは思わず興奮して声を上げた。

「すごい!見てシュカヌ、噴水がある。水がこんなにたくさん」

噴水に駆け寄ったユマは、水を手ですくい口元に近づけた。

「待ってユマ!!」

突然ニトが大声で、ユマを制止する。


「どうしたの?」

「飲んじゃダメ!」

ニトの慌てふためきように疑問を感じてユマが尋ねる。

「なんで?」

「ここの水は汚染されているんだ」

「え!?」

「だからここに住んでる人たちは皆、薬で水を浄化して飲んでるんだよ」


「そう・・・、ここに水はいくらでもある。でも飲むには薬を買って浄化しなければならない。帝国はその薬を民に売って利益を得ているのさ」

隣からシャンネラが、ニトの言葉を補足して説明する。


「そんな、ひどい・・・」

「まったく腐った国だよ。目の前に水をちらつかせておいて、貧しい者には飲ませないんだから」

その時、大通りのほうから群集のざわめきが聞こえてきた。

時を同じくしてサイレンの音が街中に響き渡る。


「なんだい?なんだい?なんだか騒がしいね」

シャンネラが辺りを見渡すと、大きな通りを逃げ惑う人々が駆け抜けていく。

そして彼らの後方で轟音が響いたかと思ったその時、大きな砂煙が上がった。

「今度は、一体何事だい!?」

シャンネラがぶつくさ言いながら振り返ると、煙の中から6本足のヌシ神がガサガサと嫌な音を立てて現れた。


「うぉあ、出た!?」

「エンゾ!!」

瞬時にシャンネラとシュカヌの二人が反応した。

「え、なに!?」

そして二人に遅れて、ユマとニトが驚いた表情で声を上げる。

「何なんだい、あのでっかい化け物は!?」

シャンネラが混乱のなかで、二メートルはあろうかという化け物を見つめながら尋ねた。


「世界崩壊の時代、人の手で作られた人造生命体だ」

シュカヌは臨戦体勢で身構えながら答える。

「なんだって?そんな話は、あたしゃ聞いてないよ!?」

「僕が前に見たときはまだ卵の状態だったんだ。こんなに早く孵化するなんて思ってなかった・・・」

「あんなでっかい化け物が生まれる卵って、アンタ・・・。って言うか、お宝ってアレだったのかい!?」


シャンネラが怒りを通り越して、呆れ返ったように言いかけたその時。

「危ない、伏せて!」

シュカヌがシャンネラの身体をつかんで地面に伏せさせる。

化け物が粘液を滴らせている、口らしき器官の上に三つ並んだ眼が光り始めたかと思うと、光の筋が一直線に放たれる。そして化け物が頭部を横にスライドさせると、それに付いて光の筋がシュカヌたちの後方をなめていった。


一瞬の間。


遅れて爆発が起こり、そして爆風と衝撃波が辺りを包む。

「おをぉ、ビ、ビームがでた!」

シャンネラは目が飛び出しそうなくらいに、瞳を見開いて叫ぶ。

「おばさん達は逃げて!」

立ち上がりながらシュカヌはシャンネラに告げる。


「あんたはどうするつもりなんだい?」

「ヤツを倒す!」

「バカ言ってんじゃないよ!あんなのにどうやって立ち向かうってんだい?」

「何とかする!」

そう言い残すとシュカヌは、炎上する通りを進み始めた化け物に向かって走り出した。

「こらバカ!」

シャンネラはシュカヌを引きとめようとしたが、すぐにその姿は逃げ惑う人々の波に消えてしまい、あっという間に見えなくなってしまった。


「仕方がないね、ほらお前達!」

身体の埃を払いながらシャンネラがニトとユマの方を振り返ると、そこには呆然と立ち尽くしている二人の姿があった。

「こら!!!ボサっとしてるんじゃないよ!」

シャンネラに一喝されて、二人の意識が戻る。

「逃げるよ!」


「で、でもシュカヌは?」

心配そうに尋ねるニト。

「心配しなくても、あの子も後で拾うよ。そのまえに自分達の安全を確保だ!」

そう言いながらシャンネラは、懐から通信機を取り出して操作を始める。

「まったく、手下どもを空に待機させておいて良かったよ。今なら空への警戒も緩いだろう」

通信機に向かってシャンネラは、周囲の喧騒に負けない大きな声で、「お前たち、誰か聞こえてるかい?」と叫ぶ。


まもなく彼女の通信機から、返答の音が漏れ出してきた。

「・・・ガ~、・・親方?聞こえるよ・・・」

「こっちは計画が大狂いだ・・・。ニトとユマをそっちに帰すから、スカイモービル3台でこっちに向かっとくれ」

「・・・ガ、ガガ・・・了解」

「これでよし・・・。後はあのヤンチャボウズを、どうやって引っ張って帰るかだね」





「エンゾー!!」

溢れかえる人波を掻き分け、化け物を追走しながらシュカヌが叫ぶ。

ヌシ神は街中を破壊しながら逃走を続け、あちらこちらで炎上した街は逃げ惑う人々の波であふれ返り、まさに混乱を極めていた。


その時だった。ヌシ神の足元で幼い娘が転び、その拍子に繋いでいた手が離れたことに気付いた母親が、慌てて娘の元に引き返してきた。

だが母親は間近に見るヌシ神のまがまがしい姿に、足がすくみ娘を抱きかかえたまま、その場でうずくまってしまう。

「あぁ・・・、イヤ!」

口元から体液を滴らせて、ヌシ神が母娘に襲い掛かろうとしたその瞬間、黒い影がその足元から二人を抱えてヌシ神の足元から連れ去る。


「ありがとう・・・」

窮地を救ってくれた少年に、女の子が小さな声で礼を言う。

女の子の言葉に、その影の正体シュカヌはわずかに微笑んで、二人をそっと地面に降ろした。


「やっと見つけた・・・。エンゾ!」

立ち去る母娘の安全を確認して、シュカヌはヌシ神を睨みつけながら対峙するのだった・・・。



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