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マブイ【魂】プロジェクト  作者: °Note
Chapter Ⅰ 邪なる存在の復活
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sect.7 再会

やわらかい光が辺りを包む朝。

港町はにぎやかな喧騒に包まれていた。

港に着いた商品を売る屋台が、路地に並んだ市場。

町の片隅にたたずむ小さな寺院。

そして砂上船の停泊場で昨日のうちに運び込まれた荷物を、ここを中継地として次の目的地に運ぶため船に乗せかえる船員達。


シュカヌは情報を求めて、港町ハタムを歩き続けていた。

「そういうことか・・・」

砂の上の港に並ぶ砂上船を見てシュカヌは納得する。

なぜ辺りを砂に覆われた場所で港なんだろうと、不思議に思っていたシュカヌだったが、どうやらここでの交易の中心は砂の上を走る船での流通のようだった。


だが朝からノルノの家を出て聞き込みをしていたシュカヌだったが、昼が近づいてきた頃になってもまだ船員達のお頭の手がかりはつかめないでいた。

そんなとき疲れた足取りの彼の前に、薄汚れた酒場が目に入ってくる。

酒場の中からは酔っ払いたちの喧騒が外にまで漏れてきており、まだ昼前だというのに店は繁盛しているようだ。

「酒場か・・・」

これといった考えがあるわけでもなく、酒場の扉をくぐったシュカヌに薄汚い大男が声をかけてきた。

「おいおい、ここはガキの来るとこじゃないぜ!」

シュカヌはゲヘヘと薄ら笑いを浮かべる大男を無視して、カウンターで酒を注いでいるマスターらしき男に語りかける。


「ちょっと人を探してるんだけど」

「おいおい!無視かよ、ガキんちょ」

大男は酒のジョッキでテーブルを叩く。

「厄介事は困るんだがな・・・」

マスターらしき男は、シュカヌに顔を向けようともせず面倒臭そうに呟く。


大男は赤ら顔で臭い息を撒き散らしながら、シュカヌに詰め寄る。

「無視かよって言ってんだよぉ、クソガキゃあ」

シュカヌは耳元に顔を寄せる大男をチラと見ると、肘鉄を一発入れる。

目にも見えない瞬速の一撃に、まもなくその巨体は静かに汚れた床へと沈んでいった。


喧騒に包まれていた店内が一瞬水を打ったように静まり返る・・・。

「おい、あいつアレじゃないか?」

静かになった店内で、船員たちの一団がシュカヌに気付いて指差し始める。

「あ!あの時の生意気なガキだ!しぶとく生きてやがったか」

どうやら砂海でサルベージを行っていた船員達のようだが、どうも彼らから情報を聞きだせるような雰囲気ではなさそうだ・・・。

「ここで会ったが何年目とやら・・・」

男達は飲み食いしていた手を止め、テーブルから立ち上がり始める。


「よーし、せえので行くぞ」

船員たちは打ち合わせをして四方からシュカヌに飛び掛ろうと、じわじわその差を詰めていく。

シュカヌはいち早くその空気を察し、彼に飛び掛ってくる男達をひらりとかわした。

そしてそのままの勢いで床の上で山になって重なり合う船員たちを横目で見ながら、やれやれといった面持ちで店を飛び出す。


船員の誰かが大きな声を上げた。

「おい、逃げたぞ!追いかけろ」

店を飛び出したシュカヌに一拍遅れて船員たちが、わらわらと出てくる。

「おいおい、お前ら勘定は!?」

その後についてマスターらしき男がジョッキ片手に店を飛び出すが、船員たちの姿はもう小さくなっている。

「くそっ、あいつらドサクサに紛れて食い逃げしやがった・・・」



屋台の並ぶ路地を走るシュカヌの後方を、七人の男達が追いかける。

そのとき商業区を駆け抜ける少年の姿を見つけたユマが叫ぶ。

「あっ、シュカヌ!」

ユマは間延びした声でシュカヌーと呼びながら、のんきに手を振っている。

背後の船員達がユマに気付きはじめたのを確認して、シュカヌはユマに駆け寄る。

「こっち!」

シュカヌはユマの手を取って走り出す。

ユマは“ナニナニ!?”と言いながら、状況が理解できないまま一緒に走り出す。


二人は追いかけてくる船員達を振り切りながら商業区を抜け、路地が入り組んだ居住区へと進路を向けた。

狭い路地の中を無造作に干された洗濯物をかいくぐるシュカヌとユマ。

酔っ払った船員達は洗濯物に絡まりながら、町の女達から罵声を浴びている。


やがて走る二人を呼ぶちいさな声が、どこかからか聞こえてきた。

「ユマ、こっちこっち!」

見ると昨日ヌシに襲われていたところを助けたニトが建物の影から二人を手招きしていた。

ニトの手引きで三人は路地裏のさらに細道に駆け込み、そのままの勢いで一軒の家屋に飛び込むように身を隠す。


「ふぅ・・・、危なかったぁ・・・」

ニトは三人が扉の中に飛び込んだと同時に、その扉を閉じながら言った。

「ここは?」

「僕の家だよ」

そう言いながらニトは奥へと二人を案内する。


「こっちだよ」

「うわっ、何!?きちゃない!」

ユマはその部屋を見て思わず洩らした。

通されたその部屋は、機械の配線や散らかった書類の束で足の踏み場もないほどだった。

「ああ、これ?気にしないで。最近ちょっと研究に集中してて気がついたらこんな感じに」

二トは悪びれる様子も無く答える。


「気にするわよ!いったいどれだけ集中してたらこうなるの?わけがわからない!」

「しっ!」

騒ぎ立てるユマを、二トは口に人差し指をあてて止める。

そのとき家の前の路地をこっちだと大声をあげて通り過ぎる船員たちの声が聞こえた。

「ここに気付かれるのも時間の問題だね・・・」


「裏口は?」

シュカヌが二トに尋ねる。

「どうするの?」

「迷惑はかけられない。すぐにここから出て行くよ」

二トは慌ててシュカヌを止める。

「ちょっと待って!ここから出て行ってどうするの?」

「わからない。でも早くこの町からは出て行く」


「・・・来て」

ニトは小さくため息をつくと、シュカヌたちを部屋の奥へと案内する。

そこにはいくつもの配線が繋がった状態のスカイモービルがあった。

「これは・・・」

ユマが驚いた様子でつぶやく。


「以前に遺跡で発掘したのを修理したんだ。思ったより時間がかかってしまったけど、昨日持って帰った部品を使ってやっと終わったとこ」

ニトはあくびをしながら答える。

「じゃあ行こうか」

「え、どこへ?」

ニトの言葉に、なんだか聞き覚えのある話の流れだなと思いながらユマは尋ねた。


「逃げるんでしょ?」

「でも今修理が終わったって言ってたけど、試運転は・・・」

「大丈夫!僕が直したんだから」

「いやいやいや・・・。何をもってあたし達はそれを信じていいのか・・・」

ユマは動揺を隠せない。


“どうやらここらしいぞ”“開けろ”という声が表から聞こえてきて、扉をドンドンと叩く音が響いてくる。どうやら追っ手に気付かれたようだ。

「急いで」

そう言いながらニトはすでに操縦席に乗って、スカイモービルの立ち上げを始める。

「え?え?え?・・・」

「行こう!」

シュカヌが意を決したようにユマの顔を見つめる。


「え?でも・・・」

不安を隠せないユマだったが、シュカヌはユマの手を取りスカイモービルへ走り出した。

そしてユマをつれたシュカヌは、作業を続けるニトの後部座席に乗り込む。

「こっちは大丈夫だ!」

「了解」

ニトがスカイモービルの操縦席で何かのスイッチを入れると、突然どこかから爆発音が鳴り響く。


爆音に驚いてユマが上方に視線を向けると、さっきまで頭上に在った天井が吹き飛んでいた。

「あーっ、天井が・・・。ない!」

「行くよ!」

「問題ない!」

ニトとシュカヌがそう言った瞬間には三人の身体は宙に浮いていた。

スカイモービルが上昇するにつれ、プチンプチンと繋がれていた配線が外れていく。


その時三人の眼前に扉を破って部屋へとなだれ込んできた船員達の姿が見える。

船員達は宙に浮いたスカイモービルを落とそうと飛びついてくるが、彼らの手は文字通り宙を切る。

そんな船員達をあざ笑うかのようにスカイモービルは上昇を続け、先程までは天井だった場所を越えると町を見下ろす風景が眼下に広がった。


「すごい!」

ユマが思わず興奮して叫ぶ。

「二人とも、しっかり摑まってて!」

得意げなニトがそう叫ぶと三人を乗せたスカイモービルは一気に加速をつけて、あっという間に見えなくなるのだった。


「ちくしょう、またしても逃げられた・・・」

三人が飛び立った後の部屋で、船員達はいまいましそうに空を見上げていた・・・。





・・・そうだったね、あの時は思いもしなかったよ。

これがあれほどの冒険の始まりになろうとは・・・。



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