幼き軍略家
広々とした校舎は入学して数年が経とうとも、古臭さと窮屈さを感じさせた。
レオ・ペロタンは成熟期を経て更に黒味が増した耳先と、犬特有の長く垂れた耳をプラプラと下げながら、<新動物>世代の頂点として人間生徒たちに差別されながらも、辛酸をなめさせられる学校生活を頭脳面で勝ち抜いてきた。学帽さえ被らず、学ランに身を包みながら気怠い気持ちを隠すこともなく、彼は渡り廊下を歩いていた。
「ひどく白けたツラだな、親友?」
振り向くと、ロシア語訛りの英語で砂場遊びの頃からの悪友、ガロフ・ペコタンが立っていた。三毛猫でかなりふっくらした頭に、それには見合わぬ小さな体、異様に長い前足とそれに比する事のない後ろ足の短さ。可愛さをどこか持っていたが、その内面を知るのはペロタンだけだった。
「いえね。バスタート先生が俺を見るなり、『犬の恥だ』だなんて言ってきたのさ」
「あいつは当たり散らすのがお好きな性格だ。そう真に受けんじゃねえよ。お前は動物生どころか、”向こうのやつら”もこの前のテスト首位には驚いてるぞ」ペコタンはまんざらでもなさそうに笑った。「頭がいいと殴られないんだろ?俺は頭は悪い、性格もこんなで粗暴、悪いが”優等生”とは言えないね」
ペロタンは落ち着けるように言う。
「お前はこの『ポロネジア』の仮想敵国『ルレシア』のモスクワ出身だ。異国の地なのにそれにしてはだいぶんうまくやってる方だろう」
ペコタンは真剣な顔をした。「ああ、だがそれとこれは別だ。俺は見るからな不良、そしてごろつきどもを従え『学校ワル軍団』を作った。まあ平たく言やァ暴走族さ、そんな奴が先生にマークされないですむはずがない。下の者たちが狼狽しないように俺は凛々しく居ねえとな」
ペコタンはそれ以上何も言わなかった。
「おっと、次の授業が始まっちまう。お前も急げよ、隣のクラスだろ?」ペコタンは急かした。
ペロタンは黙って階段を上がり、「急げよ」と諭すペコタンにこういった。「何もそう急ぐ必要はあるまい。この歩調なら定刻通りつく」
ペロタンは席に着くと、地獄の授業に向けて真剣に目を向けた。
…今日も先公は理不尽な理由で殴っている。生徒を前に立たせ、そのかわいい顔を鉄拳で殴り伏せ、のたうち回って泣きわめく生徒の横腹にまたケリを入れていた。二度と師を名乗れる立場には見えない。『尋問者』だった。ペロタンは目を背け、教科書を読み始めた。
-----これがポロネジア、『動物学園』。2438年現在、ドイツと呼ばれたこの地は今は見る影もない。ペロタンとペコタンが4年前に誓った『報復戦争』の立場となる場所。ペコタンとペロタンの”動物を解放する”という大義名分は、生徒の暴力が確度を増していくにつれて、益々憎悪と共に強まるのだった。




