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頑張ったのに悪女扱いは酷くないですか  作者: 梶 ゆう


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出陣9

魔法とか転生とか全くない物語です。

メインテーマは、格好のいい騎士物語。

自己保身の為に民を見放した最低貴族の代わりに立ち上がる格好のいいお姉様の物語です。



「「おはようございます、シルディ様」」

練兵場の入り口前にフローラ、エリーが私達の馬を用意して待っていた。


「おはよう、フローラ。部隊の状況を教えてもらえる?」

馬を受け取りながら、フローラに尋ねる。


「はっ、生徒900名、教師70名。欠員有りません。

600名を3部隊に分けました。各部隊は、200名。

一人に40本のアーレイを配布。

ロングは50両、250名を配置し20発の配布しています。

残りの120名は、本部直属としシルディ様の直接指揮を仰ぎます」

フローラは騎乗のまま答える。


時間節約の為、私が騎乗している時に報告を行う場合は、騎乗のままで行う事を普段から徹底しているからである。


「残りのアーレイと糧食は馬車でロングと一緒に運搬するのよね」


「はいそうです。ロング部隊の200名は御者以外は騎乗し護衛につきます」


「街道に出てからは、臨戦行軍体制、ロング部隊は中軍に配置します。司令部も同様に中軍に置きます」


「かしこまりました。各部隊長に通達致します」

フローラは騎乗敬礼で命令を了解する。

(昨日は良く眠れたみたいね。昨日の興奮で寝れないかと心配だったけど、要らない心配だった様ね)


「エリー」


「はい、先ほど来た最新の情報では、本隊2万はウノシルディスから6日。攻城隊6万も同じく6日の距離。先鋒との距離を詰めました」


「先鋒との距離を詰めた?一日で随分と早く進撃したわね。」

私は、サーベルの位置を直しながらつい独り言を声に出してしまった。


フローラとエリーも改めて今の情報について考え出したようだ。

「迎撃が全くないので、進撃速度を上げたのではないでしょうか」

常識的な判断をするフローラ。


「いくら迎撃が無くても、普通罠を疑って慎重に進みそうだけど」

(言ってしまったのは仕方ない。余り時間は無いけど疑問点は少しでも明らかにしておくのも悪くない)


「占領を目的とした戦略に変更があったのでしょうか」

フローラの知らない情報を知っているエリーの回答はフローラとやや異なる。


「援軍の派遣を見送ったのは、5日前の事よ。私でさえ赤白赤の最重要伝令を使っても学園まで3日掛かっている」


「伝書鳩を使ったとか」


「エリー、帝国ならば兎も角、蛮族に移動中の軍に伝書鳩を運用する能力はないわ」


「しかし、大公国の貴族が手を貸したとすれば・・・」


「エリー、貴方、推論を正当化する為の方法を探しているわ。今問題なのは事実に対する対応よ」


「申し訳御座いません。つい結果に手段を合わせてしまいました」


「間違えた推論は、真実を遠ざけるわ。今判っている事実は、攻城開始が早まったと言う事だけね」


「ヒルダ」

「はい、お姉様」


「出撃の手順を変えるわ」

「どの様にですか」


「出陣するあの子達を見送りたい。司令部はあの子達の出陣を見送った後に校門前で部隊の先頭に立つ」

「了解致しました。至急、手配致します」


「ええ、宜しく」


「はい、お姉様」

ヒルダは、伝達の為に駆けて行く。



「シルディ様、何故順番の変更をするのですか」


「皆の顔を見れるのは、今しかないかも知れないから」

その意味に気づいて「ハッと」なる二人。


「フローラ、進軍を早める必要がある。4日の予定を3日にしたい。出来る?」


「今日は6交代の不眠不休で徹夜の行軍になるかも知れませんが、大丈夫です」


「エリー、徹夜行軍の手配を街道の村と補給所に連絡」


「畏まりました。街道の村に灯りの準備をさせます」


「明後日、ウノシルディスに入場前の戦闘も有りうる。各部隊に徹底する様に」


「はい、シルディ様」

フローラが答える。

用兵に関する事は、フローラが指揮を取る。


「明後日の朝の補給は各人5日分を手渡す様に。各替え馬も明日の夜の宿営前にヒルダ隊に預ける様に」


「はい、シルデイ様」

兵站、補給に関する事はエリーが担当する。


「さて、ヒルダが戻って来たら行きましょうか。時間が貴重に成って来たわ」


「「はい、シルディ様」」




全校生徒1000人を前に私は演説台に立つ。

「1000人の勇者と共に戦える私は幸せ者である。よくぞ皆来てくれた」

誰も何も言わない、馬さえも嘶き一つしない。

ただ風に舞う旗の音だけが聞こえる。


「我々は、100倍の敵に戦いを仕掛ける。だが恐れる事は何もない」

私は戦旗を見上げる。


「敵には我々の爪の先程の覚悟も無い。

髪の毛1本程の正義も無い。

無辜の民を略奪するケダモノである。

一片の情けも慈悲も必要無し。

蹂躙せよ!

殲滅せよ!

叩き潰せ!」

私は愛用のサーベルを天に向かって突き上げる。


「クロスロードを守れ!」


1000人の戦友が天に突きあげたサーベルが朝日に煌めく。

「「「クロスロード守れ!!!」」」


「民を守れ!」

「「「民を守れ!!!」」」


「殲滅せよ!」

「「「殲滅せよ!!!」」」


「総員!出撃!!!」

「「「ぅおおおおお」」」

1000の乙女の叫びが響き渡る。

馬も乗り手の興奮して猛く嘶く。


「「「総員騎乗!!!」」」

各部隊長が号令に全員が一糸乱れず騎乗の人となる。

(元々儀式用の名目で作った典礼騎士団だからこういう基本動作の訓練は素晴らしいわね)


「カチア隊!進め」

珍しく沈黙のカチアが甲高い声で号令を下す。

(流石に今日はクリスティーネに任せないのね。自分の名前を部隊名にするところが、カチアらしい。無味乾燥な番号より、よっぽど優雅で私達らしい。これは絶対に他の子も真似するわね)


「カタリナ隊!行くぞ!」

「「「「はい!カタリナ様」」」」

(やっぱり真似するわよね。カタリナだもの。それにしてもカタリナ隊のアドリブ適応力・・・応用力は素晴らしい)


「第3部隊ハイデ隊!進め!」

「おおおおお!」

(やはり部隊長の個性がこんな所にも出るのよね。部隊長は真面目なのに部下がノリノリじゃない)


「ヒルダ隊!前進開始!」

ヒルダが私の横で力強く右手を挙げ、振り下ろす。

躊躇い迷いも無い命令を凛とした良く通る声で行う。

「おおおおお!」

(素晴らしい、流石我が妹。ロング部隊を編成してるのは最も騎乗経験の少ない今年の新入生でヒルダの学友。エリー達と普段丁々発止からは想像出来ないけど、まだ彼女達と同じ16歳なのよね)


私は、出撃する全員を見送る。

全員、私が騎馬の乗り方を教えた子達だ。

全員、私が読み書きも計算も教えた子達だ。

一人一人の声を憶えている。

一人一人の顔を憶えている。


あ〜私、どうして出撃前に皆を見送ろうなんて考えたんだろう。

今更、改めて顔を見るまでも無く全てを憶えているのに・・・。


いや、違う私が知ってるのは昨日まで彼女らだ。


今の彼女達は、緊張に口元を引き締めてはいるが、誇りに溢れた戦う覚悟を決めた騎士の顔なのだから。


「私は、貴方達と共に戦えて本当に幸せ者だ」

ヒルダが、フローラが、エリーが、私の直属の騎士達が、私を見る。


「「「勝利は、我らの手中に有り!!」」」


私は演台から降りて愛馬の隣に立つ。

「総員騎乗!」

私の号令と共に司令部の騎士達が一斉に騎乗する。


「クロスロード騎士団出撃!」

サーベルを抜き放ち天高く突き上げ、前に向かって振り下ろす。

「おおおおお!」


「総員、我に続け!」


「「「シルディア様と共に!」」」

綺麗に揃えった掛け声。


私が嫌いな騎士の様式美。

だけど私は、この様式美は死地に赴く騎士には必要な事なのだと納得した。

次からは、いよいよ戦場に立ちます。

実はこの物語は最初は戦場の話が先に出来ていました。

これまでのお話は、戦場での回顧に加筆したものです。

途中で回顧を入れると間延びしてしまうので。



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