出陣6
ご都合主義の転生ものじゃなくって、なるべく納得できる範囲で格好のいいヒロイン・ヒーローを描きたいと思います。
チョット歌舞伎じみたセリフ回しの格好つけの多い物語です。
いくら入念に事前に準備してもトラブルは発生する。
ちょっとした遠征であっても千人単位の人間が動けば、予期できないハプニングは必ず起きる。
(後世の歴史書さん、予期できないからハプニングと言う。意味がダブってますよ。)
それが戦争ともなれば、全てを想定する事は不可能である。
(何を偉そうに格好つけているの、後知恵のくせに。私達に苦労してそれを参考にしたから貴方達が楽が出来るんでしょう)
「ちょっとヒルダ、誰としゃべっているの。ぶつぶつ言ってないで仕事して下さい」
エリー、侯爵家令嬢が大公家令嬢にその言い方は不味いと思うのだけど。
お姉様の演説の後、執務室に戻り姉とランチを食べていたのに補給部までエリーに呼び出しを受け、何故か怖い顔をした姉に『宜しく』と送り出された私は、逃避していた現実に呼び戻された。
「エリー、どうでも良いけど『アレ』の正式名称そろそろ決めてくれない?」
私は、名称欄に『アレ』と記載されたリストを指トントンしながら言う。
せっかくのお姉様との会話の時間を邪魔された私の機嫌は良くない。
「シルディ様は、考えてくれなかったの?」
計算機を回しながらエリーが言う。
「お姉様にそんな細かい事を考える時間がある訳ないでしょう」
お姉様にも出来ない事はある。
「だけれど、『アレ』は、私達の生命線でしょう。歴史書にも絶対載るはずよ。それがいつまでも『アレ』じゃ後世の歴史家だって困るわよ」
エリーが本気8割、冗談2割で私を攻める。
私は理不尽な攻撃だけど、お姉様に害を及ぼす分けには行かない。
「いいことエリー、『アレ』は我が軍の最高機密よ。ウノ族にも帝国にもいいえ、大公国騎士団にも可能な限り秘密にしたいの」
私は今思いついた適当な出まかせを言う。
(『よろしく』とはこの事だったのかしら)
「流石はシルディ様の神謀」
目をキラキラさせてエリー。
(本当に信じちゃったけど、姉様への信頼がヤバクないかしら、それに神謀って何、そこは深謀でしょう。いずれにしても任務完了ね)
「ではヒルダ様が何かコードネームを決めて下さい」
計算結果を記入しながらエリーが言う。
エリーにとってはこの会話公女との会話はガス抜きの為のBGMな訳ね。
でもそれって結構、公爵家令嬢に対して不敬じゃない。
「それじゃ『アーレイ』でイイんじゃないかしら」
私は不真面目極まりない口調で返す。
エリーは申し訳無さそうに、まじまじと私を見る。
(分かってくれたら良いのよ。お姉様の大事な腹心を私に対する不敬でどうこうするつもりはないら)
「ヒルダ・・・やはり血は争えませんね。シルディ様以上の壊滅的ネーミングセンスです」
処置無しと両手の軽く挙げて言うエリー。
「うきーーー。貴方、公女に対して不敬よ」
目を釣り上げて言う私。
今、淑女の嗜みなんて地平の彼方に飛んでいってしまったわ。
「侯爵家令嬢として受けて立ちますわ」
確かに私では侯爵家令嬢のエリーには勝てない。
こういう時は、お姉さまから学んだ必殺の極意よ。
「昇爵させて仕事をマシマシにしてあげる。もっとお姉様と過ごす時間が増えるわよ」
どうだ、この必殺の攻撃は。
「仕事が増えるのは嫌だけど・・・・・良いかもしれない」
夢想世界に旅立つ危ないエリー。
(過労死すると思って3人を見習い付けたけど、必要なかったかしら)
「それじゃ『あれ』のコード名は『アーレイ』に決定。」
エリーを現実に引き戻そうと私は言い切る。
「理解りました。それで、ロングの方は、ロングのままで」
台帳に書き込みながら言うエリー。
「ええ、ロングのアイデアと開発は貴方なのでしょう。お姉様が感心されてましたわ」
私の言葉に嬉しそうなエリー。
「ただ心配なのは、馬車の修理が出来ない事です。」
エリーは、幌で偽装された馬車を見る。
「もしもの時は、焼却ね。お金とあの子達を引き換えには出来ないもの」
私は、運用マニュアルに書きに付け加えながらいう。
(ちゃんと書いて置かないと、あの子達、死兵となって死守しそうだし)
「ロングの運用は、騎乗経験の浅い200名に教師から50名を指揮官として付けます。」
部隊編成はフローラの職分なんだけど、話し合い済みと言う事ね。
「ええ、それでいいわ。フローラとの擦り合わせは終わっているのでしょう?なら問題ないわ。くれぐれもさっきの故障したら焼却放棄の方針は徹底させてね」
私はくれぐれも念を押した。
「それにしても武器以外の準備は何も指示をしなくても各人で完了出来るのは流石ですね。」
エリーはチェックリストを閉じしみじみと言う。
「全員に読み書きに加えて、掛け算や割り算も出来るし、商家なら即戦力の子達よ。更に街道の整備に合わせて通信所の設置と補給所の設置が、この戦いの勝因よ」
私もチェックリストを閉じてエリーを見る。
「勝因は文書による命令伝達、補給と街道の整備。帝国の士官学校の解答だったら、ゼロ点ですね」
ニッコリ笑いながらエリーは言う。
「学園の開校以前から、お姉様が心血を注いで来たのですもの。凡俗な騎士どもに理解できるものですか。お姉さまの先見はやはり素晴らしい)
私の言葉に頷くエリー。
「普通なら騎兵隊の再建しか考えないでしょうね。その結果が今の大公国騎士団の無様な有様です」
エリーは、本部に備え付けられている無骨なカップでお茶を飲む。
「その間、私達はウノシルディスまで年に4回も遠征して、想定される戦場で何回も騎馬演習をしているのだから、地の利は完全にこちらのものよ」
私も自分でエリーが入れていたポットからお茶を入れてギョッとした。
「このお茶、腐っていない?真っ黒じゃない」
クンクンと香りを嗅ぐと案外いい香りがする。
「この前うちの商隊が持ち帰ったコーヒーと言うの。苦いけどほのかに甘い大人の味よ」
美味しそうに飲むエリー。
「ふーんそんなものですか」
私はそんな軽い挑発にはのらない。
「つまらない。シルディ様でも苦くて吹き出したのに・・・」
途端に可愛い子から湧き出す殺気。
「エ・リ・ー・・・・・、お姉様に、こんな分けのわからないものを飲ませたの」
地の底から湧き出す絶対零度の言葉の矢。
「ヒルダ、ヒルダ、落ち着いて!私はシルディ様に南国の状況報告をした時に話のネタとして紹介しただけで、無理に勧めたり、カラカッたった訳じゃないから」
命の危機、頭の中のある知恵を総動員する、必死の抵抗を試みるエリー。エリーの戦争は今始まった。
「解ったわエリー、でも次は無いわよ。よろしくて」
私は、コーヒーなる物を飲みながらエリーを睨む。
コクコクと頷くエリー。
この時私はエリーに、まだ自分が子供扱いされている事に気が付いていなかった。
「ねえヒルダ、貴方に相談したい事があるのだけれど、ちょっといい?」
さっきまでの空気と全く違う口調で切り出すエリー
「うん?別にいいけど?」
私は、多分子供ぽいキョトンとした顔をしていたと思う。
「マチア、キリー、アンナ、私が良いと言うまで、誰もこのテントに近づけないで。貴方達も何か聞こえたとしても、絶対に口外しないで」
さっき迄とは全く違う、シルディお姉様とお話している様な緊張した表情のエリー。
「「「かしこまりました、エリー様」」」
3人は何の疑問も挟まずテントを出る。
「それで、相談って何?私、何か身の危険を感じるんだけど」
冗談ぽく私が言ってもエリーの眼には微笑すら浮かばない。
「ある意味、合っているかもね。貴方を贄に差し出そうと言う話だから」
これはエリーがお姉様と公国について論じている時の眼だ。
「判りました、聞かせて下さい」
私はお姉様が公国について語るのを聴く時と同じ敬意を持って、エリーに対した。
「1時間ほど前、ブルックお兄様から私宛に密書が届いたの。内容は『2カ月、侵攻は占領にあらず。兄』発信元が『兄』の場合は私信だから、誰に伝えるかの判断は私に任せれている。そして私はこの情報を、シルディ様にはこの戦いが終わるまでは伝えない」
お姉さまにも伝えない情報、エリーが極秘度のハードルを上げる。
「お姉さまも知らない情報な訳ね。それで内容はそれだけ?」
この情報の重要度が私の中で極大化した。
「ええ、それだけ。この意味を理解出来ない様なら、貴方にこれ以上話す事は無いわ」
言ってい事は、冷たいのだけど、今のエリー眼には期待が込められている。
(私には解るとの期待、つまりコレは試験なわけね)
「『2カ月、侵攻は占領にあらず』ね。お姉様に伝えないのだから、この戦いに関する事じゃない。なのに出撃を控えた今にブルックが貴方にだけ伝えて来た言うことは、今なら手を打てると言うことね」
私は試験官エリーに私の思考プロセスを公開する。
「ウノシルディスの街はウノシルディス領じゃ最大の街だけど普段は5万の街よ」
私達にとっては分かりきった情報を強調するエリー
「そして今は収穫直前の秋、侵攻軍は10万でウノシルディスを落とすだけなら多すぎる・・・・・そう言う事ですか!」
もう一つの謎は残るけど今回のウノ族の侵攻の真の目的を私は理解した。
「半分正解、じゃ貴方に関する謎解きは」
意地でもエリーは私に答えまで自力で辿り着かせたいらしい。
「占領目的じゃ無ければ略奪ね。公国騎士団の再建にはあと5年は必要。3年間も略奪され続ければウノシルディスに領民は居なくなる。それを防ぐにはウノシルディス領民80万人分の食糧を毎年用意する必要がある。」
私はエリーの目を真っすぐに見てそういった。
「正解よ、での推測が正しかった場合の対抗手段は?」
為政者ならば手段まで考えるのが仕事と言う訳ね。
「80万人の1年分の食糧なんてシルディ商会にも調達は不可能よ。公国から引き出すにも、騎士団の再建が急務で、傭兵の派遣すら認めない騎士団や貴族共が素直に応じる訳が無い。お姉様が摂政をされていても無理だわ。可能とすれば殿下の命令だけ・・・・・」
私は自分の出した結論に苦い顔をする。
「ヒントが必要?」
私は静かに首を横に振った。
「殿下は私に好意を持ってくれている。つまり、婚姻と引き換えに殿下を説得しろと言うわけね」
結論に達した私はコーヒーを一気に飲んだ。
「コーヒーは甘いけど苦いでしょう。大人の味よ」
珈琲を飲んだエリーの顔も苦そうだった。
今回はヒルダとエリーの戦いです。
こういう戦い前の補給の戦いと言うのは実は私大好きです。
1000人の人間が1か月の間戦うとしたら、何発の弾丸を用意したらいいでしょうか?
使うのはボトルアクション?アサルト?サブマシンガン?それを運ぶのに必要なトラックは
何台?燃料と故障した時の交換部品は?
戦争はやっぱり大変です。




