出陣5
ご都合主義の転生ものじゃなくって、なるべく納得できる範囲で格好のいいヒロイン・ヒーローを描きたいと思います。
チョット歌舞伎じみたセリフ回しの格好つけの多い物語です。
シルディ様が退席した後、私は部下達に明日までの指示を行う。
「最後にこれだけは肝に銘じて。シルディ様が言っていた様に参加は個人の自由よ。参加しない者は静かに見送ってくれれば良い」
なるべくゆっくりと一人一人の目を見て言う。
長い者で4年、短い者で半年の付き合い。
これが今生の別れとなる者もいるだろう。
遠征でスープ窯をひっくり返した事、暴走した馬から助け出せれた事、交際を断って泣かせてしまった事、どうしてこんな時には失敗ばかり思い出すのだろう。
思い出の中の部下達は、何故かみんな笑顔だった。
駄目だ、段々泣きそうになって来た。
「それでは、解散。明日、再会出来る事を楽しみにしている」
「カタリナ様と共に」
鳴き声が混じる。
「カタリナ様と共に」
腕を突き上げて部下達が叫ぶ
「勝利は、我らの手中にあり」
私は右手を突き上げエールに応えた。
「カタリナ!」
「ハイデ!」
私達はガッチリ握手を交わす。
「どうよ、私の言っていた通りになったでしょう。」
ハイデは薄い胸を突き出しのけぞって自慢げに言う。
「ええ、そうね、あの時はみんなを抑える為の私の思いだったけど、間違いはなかった」
「『みんな、私達のシルディ様を信じて!
勝手に今救援に向かってもそれは、シルディ様が一番キライな騎士の男どもの自己陶酔、勝手な無意味な死よ。
シルディ様は誇りあるクロスロード大公国の公女、本物の貴族!
今、私達に出来る事は、シルディ様を信じ、どんな命令が下されても良いように準備しておくことよ!』
カタリナ一世一代の名演説だったわ」
私の物真似を迫真の名演技でするハイデ。
近くにいた部下達からも笑いが漏れる。
私は天を仰ぐ。
(ハイデ、憶えてなさい。絶対に赦さない。)
「ですがハイデ隊長、本当にカタリナ隊長の言った通りになりましたよ。あの真紅の色が見えた来た時、私の全身の血が沸き立ちました。」
私の副官のクララが私の横に立って私の援護をする。(クララ、本当にいい子)
私は無意識にクララの頭を撫でる。
目を細めて嬉しそうなクララ。
「私も全身鳥肌が立ちました」
「私は、腰が砕けちゃった」
「シルディ様に私の全てを捧げたい」
意味は正しいのだけど何か違う危うい言葉も聴こえるけどまあいい。
そんな私達を半眼で見て
「相変わらず仲の宜しい事で」
ハイデがトゲを含ませて言う。
「それで、そっちの準備の状況は?」
分の悪い時は、戦略的撤退、転進です。
「貴方の言うように昨日の内に行軍準備は済ませておいたから明日アレを受け取ったら直にでも出撃出来るわ」
副官のクララも私の言葉に頷く。
「そう言うハイデの方はどうなのよ?」
「部隊の準備はいいんだけど、ちょっと貴方に相談したい事があって、この後、少しでいいから時間は取れる?」
歯切れの悪い迷いのある空気は何時も覇気に溢れるハイデには珍しい。
「解った、もう3時だけどランチをしながらでどう?」
「ありがとう」
「それじゃクララ、後は任せて良いかな」
私の言葉に寂しげに頷く。
「その代わり、夕食から後は出撃まで付き合って頂戴ね」
クララの顔がパッと輝く。
「カチア達といい貴方達といい、全く」
ハイデが心底呆れた体で両手を広がる。
「ソレじゃ行くわよ」
分の悪い時には、戦略的撤退、其の2。
「この店はどう?個室もあるから個人的な話も大丈夫よ」
カタリナは、学園から10分程歩いた所にある高級な空気がプンプンな落ち着いた店を指差した。
「貴方の馴染み?」
ハイデは、(貴方のツテで入る店じゃないでしょう)と含ませて言う。
「ご想像の通り、カチアの紹介よ。シルディ商会の経営なのでシルディ様との密談の時に紹介されたらしいわ」
私は、ネタばらしをする。
「いつものランチで、二人お願い」
それだけで個室に案内される所を見ると、カタリナはこの店の常連であるらしい。
「貴方の部隊ってそんなに部下の相談事があるの?」
ハイデの真面目さは筋金入りだ。
「ハイデ、貴方、真面目過ぎ。何で部下の相談相手ばかりしなきゃならないの。」
私は心底呆れた様に言う
「だってこんな店の個室でする話と言ったら・・・『どうしてそこに恋人同士の語らいが入らないの』・・・カタリナ、お前、婚約者がいたのか」
私がハイデの話の途中に割り込んだら、ハイデのまともな思考は地平の彼方に飛んだらしい。
「それでハイデ・・・『貴方、私に兄が二人いるの知ってるわよね』」
私の質問を遮ってハイデが割り込んでくる。
(相当余裕が無いわね。貴族の会話としては落第よ)
「ええ、上のお兄様にお会いした事は無いけど、下のお兄様とは確か4年前、学園に入る前ね。貴方の実家に遊びに行った時にお会いしましたね」
私は、記憶を手繰り寄せて答える。
「カタリナ貴方、兄を見てどう思う?」
ハイデは、いきなり確信を聞いてくる。
「それは、婚約者としての事よね」
私は、努めて冷静に尋ねる。
「最近、私、変な、いえ、嫌な夢ばかり見るの」
ハイデは独り言の様に呟く。
(ははーーん。こっちが本命の悩みね)
「それはどんな夢をなの?」
私は、独り言の先を促す。
「それが、今日のシルディ様の演説と全く同じなの。だけどその後の続きがあって・・・『貴方が戦死するのね』・・・そう」
ハイデの言葉遮って私は言う。
例え言葉であっても、今のこの時期に(死)に関する事を自ら言うべきではない。
「ええ、こんな時だからこんな夢を見たって当然だとも思うんだけど、余りにも一緒だったから」
ハイデは自分でも理性的な結論を述べる。
「夢だけじゃなく、何かもう一つある理由があるわね」
私の言葉にハイデは頷く。
「すぐ上の兄は、私と同じ母なんだけど、家は長男の兄が継ぐ事が決まっているの。」
そこから先を言うのは辛そうだ。
(大丈夫、全部言わなくても判るわよ親友じゃない)
「貴方自身が男爵家を起こすと兄様だけが貴族から漏れてしまう訳ね。それで私に相談な訳ね」
私の言葉にヒルダは頷く。
「でも、今のご時世、男爵家の次男なんて引く手あまたじゃない。何か私が聞いてもいい何か理由があるのかしら?」
ランチをパクつきながら私は疑問を投げ掛ける。
(先の敗戦で多くの当主や次期当主を失った家では、女子の婿探しに必死よ。帝国の貴族まで触手を伸ばしている昨今、同じクロスロード大公国の男爵次男なんて真っ先にリストアップされて然るべきだけど)
「私の家が牧羊犬のブリーダーを生業にしているのは知ってるわよね。」
ハイデもランチを食べる余裕が出てきたようだ。
「ええ、良く考えれば、牧羊犬の買付けの為に伺ったのよね。」
その時の事を思い出し遠い目をして私は言った。
「お陰で犬男爵なんていう二つ名が付いちゃってる・・・『ひょとしてそれが原因なの?』・・・いえ、それもあるけどそれだけじゃない」
言葉に出さず眼だけで疑問を投げ掛けたけど、ちゃんと通じたみたい。
「1年程前に国境近くの森で狼が大発生してうちの家が討伐に向かったのよね。それで狼の討伐には成功したんだけど、そこでウノ族と争いになって、最後まで部下の撤退を援護した兄は、左眼を失しない、顔に酷い傷が残ってしまって・・・今思えばあのウノ族は先遣部隊だったかもしれない・・・それ以来、見合い話も会いもせずに全部断っているの」
全く覇気の無いハイデじゃないハイデがようやく全部を白状した。
(このまま戦場に向うわけには行かないわね。部下の士気にも影響するわ。それにしてもシルディ様のみんな事を思って行った叙勲がこんな影響を引き起こすなんて、本当に貴族のしきたりと言うのは難しいわね)
「ハイデ、私は良いわよ。流石にいきなり婚約という訳には行かないけど、この戦いが終わったら、貴方の家に一緒に行きましょう。一度お会いしただけだけど、犬達に囲まれて楽しかったし、お兄様に簡単な合図なんかも教わって犬達に命令した事もあったのよ」
背の高いハイデと同じ銀髪の優しそうなお兄様であった事を思い出しながら言った。
「いいの?この戦いが終わったら、貴方も男爵家当主よ。それもシルディ様側近のオマケ付きの美少女男爵よ」
真剣な顔で俗物発言をするハイデ。
「そんな欲にまみれた男が私の婚約者に成るの?」
思いっ切り半眼で言ってやった。
「カタリナ、ゴメン」
心から済まなそうに謝罪するハイデ。
「謝罪を受け入れます。それに結婚するなら、何処の誰か分からない人より戦友が勧める人の方がいいもの。」
戦友の言葉にハットするハイデ。
「ええ、もちろんお兄様は立派な人よ、尊敬出来る貴族よ」
何時もの調子がもどってきたハイデ。
「それに、貴方にお姉様と言われるのは悪くない」
私はチョット意地悪くウインクしなながらトドメを刺す。
「お姉様、お姉さん、おねえさん・・・・」
真面目なハイデが壊れた。
「今はこの戦いが終わったら、会いに行く事しか約束出来ないけどね。」
ナプキンで口を拭きながら私は言う。
「それにしてもハイデ、貴方、良いことに気が付かせてくれたわね。多分シルデイ様もヒルダ様も気付いていない我が軍の盲点よ」
食後のお茶を飲みながら言う。
「いいこと?盲点?私の悩み相談が?」
小首を傾げるハイデは何の事か分からない様子。
「シルディ様やヒルダ様は、公女だから国の為を考えて行動をされるわ」
私の言葉にハイデは頷く。
「その政策は、良かれとしてくれるのだけど、今回の叙勲の様に思わぬ影響を及ぼす事もあるわ」
ハイデにはもう私の言いたかれた事が伝わった様だ。
「私達はシルディ様の政策の影響を受ける公国騎士や経験不足な男爵の子たちの悩みを受け止める事が必要なのね」
真面目なハイデらしい模範解答だけど、やっぱり硬い。
なので、ちょっと遊んであげる。
「私も悩みがあるんだけど、聞いてくれる?」
イタズラぽく言う私。
「カタリナの悩み?何だか怖いけど大丈夫。どんな事」
疑惑の眼差しのハイデ。
「私、結婚してからもシルディ様のお手伝いをしたいのだけど、それを夫に納得して貰うにはどうすれば良いのかしら」
ハイデは完全にフリーズした。
(さっき私の演説を真似して、部下の前でオモチャにした罰よ)
私は残ったお茶を一気に飲み干した。
後日、後刻にフリーズしたハイデが兄であるタクトに友達の相談事と称してカタリナの質問をそのまま送り、『友達の事=自分の事』と誤解した兄がハイデに婚約者が出来たと早とちり、後日にカタリナを連れて現れたヒイデに『女性同士の結婚は流石に貴族として認められない』と大暴走したのは、後日の話である。
出番があって良かった(後世の歴史書ナレーター)
今回の私は、シルディの部下のカタリナです。
殆ど、2名しか出て来ないので。
シルディやヒルダの国策が下の現場からはどう感じるのかを書いてみました。




