進撃3
魔法とか転生とか全くない物語です。
メインテーマは、格好のいい男前なお嬢様の物語。
火曜日と金曜日に更新を行います。
昨日投稿の順を間違えてので、本日も投稿致します。
「フローラ!それにベルンまで。二人揃ってこのバカ騒ぎ、何やってるの」
ヒルダ様が騎乗していないにも関わらず、砂塵を巻き上げて走り込んで来た。
「ハッ! 申し訳ございません」
フローラが直立不動で謝罪するので、何となく俺も立ち上がって謝罪する。
(俺、全然悪く無いじゃん)
「・・・成る程、フローラが吟遊詩人をやっていた訳ね」
ヒルダはフローラが小脇に抱えた竪琴を見つけて納得する。
「分かりました。しかし、さっきの様な歓声は禁止します。
敵が逃げ出すと困るから」
周囲に苦笑が聞こえる。
(敵が逃げ出すと困るって、どれだけ好戦的な将軍達なんですか)
「フローラ、私を呼ばず勝手に初めた罰に一曲披露しなさい。私も加わる。
私にも何か欲しいわ」
今度はヒルダ様の従卒となった騎士から寸刻を置かず恭しく差し出される酒。
ヒルダ様とフローラ様は乾杯すると、それをグイと仰ぐ。
炎の赤い髪と漆黒の黒い髪の美女が、完全に計算された完璧な構図で乾杯する姿は、神々しい絵画となって騎士達の視線を釘付けにする。
(戦いに赴く宿営地でこれだけの余裕。兵に戦の不安を忘れさせる頼もしい将軍達)
「それでは、もう一曲」
フローラが竪琴を構え、ヒルダが頷くと群衆が静まる。
そして、打ち合わせも無しに始まる詩合わせ。
◆ ◆ ◆ ◆
「蛮族に雨と降り注ぐ我が軍の矢」
淡々とした無機質な声でフローラ様が詩枕を歌う。
「味方の屍を踏み付けて我が軍を目指す
神の御心を知らぬ蛮族達」
ヒルダ様が冷めた声で受けの詩を返す。
「されど、蛮族の中にも戦士あり
大地を覆う屍のに立ち上がり
己の力の全てを賭けて
勇者に槍を投げつける」
フローラは急転、激しいリズムが『転』を知らせる。
フローラ様の二の太刀をヒルダ様はどう受けるのか。
「愛する人の危機に乙女は叫ぶ、神に祈る
だがその叫びは蛮族の悲鳴と爆音がかき消す
死に神の槍は愛する人に迫り来る
乙女の祈りは空しく消えるのか」
ヒルダが詩に聴き入る騎士達の目を順に睨み、赤い髪を振り乱して歌い叫ぶ。
繰り返すメロディに混じる高い音は乙女の叫びの声。
(え~と、この話って昨日の俺の戦いを元にしてますよね)
「否、
乙女の祈りは神に届く
乙女の願いは天啓となって
勇者に啓示される」
一転、清らか水の音のフローラの柔らかい調べは神の心。
一瞬演奏が止まり、フローラ様がヒルダ様を見る。
ヒルダ様は頷くや朗々と謳い上げる。
「勇者の槍は死に神の槍を弾き飛ばす」
ヒルダ様の声だけが響く。
再び始まるアップテンポな演奏。
「勇者は名乗りを上げる
『名を名乗れ』と戦士に問う」
先ずはフローラ様。
「万人隊長アキムと名乗る
剣を抜き放ち
鞘を投げ捨て
命を捨てて名を賭けた決死の覚悟で
勇者に戦いを挑む」
負けじとヒルダ様が戦士を歌う。
「勇者の槍とアキムの剣は
火花を散らす
アキムは守りを捨て
命を捨てた必殺の剣
その剣を捌く勇者の槍に迷い無し
二合、三合
勇者の槍は剣を捲りあげ
戦士の魂を吹き飛ばす」
フローラの歌いながらの激しい演奏は一気にクライマックスを盛り上げる。
「崩れ落ちる戦士
勇者は勇気ある魂が
ヴァルキューレに導かれん事を
勇者は槍を天に捧げ神に願う」
ヒルダ様は、酒杯を持ったまま両手を天に向かって掲げる。
賛美歌にも似た静かなメロディで演奏を終わり
「乙女は天に向かって祈りを捧げる」
フローラ様も酒杯を持ち両手を天に向かって掲げる。
静かに手を叩くもの。
天に向かって祈りを捧げる者。
声なき声が感動を伝える。
ヒルダ様とフローラ様は、再び乾杯を行い酒杯を天に捧げる。
群衆も立ち上がり、酒杯を天に捧げる。
「勇者と乙女に神の加護あれ」
「加護あれ」
一同が酒杯を天に捧げ一気に空ける。
「うん良い詩だった。それでは解散」
ヒルダが静かに解散を告げた。
◆ ◆ ◆ ◆
「ヒルダ様、詩合わせが上達されましたね」
微笑んでヒルダを褒めるフローラ。
「乙女の愛には神を動かす力が有るのですわ」
ヒルダの本質は割とロマンティストである。
「あの、ヒルダ様、フローラ殿、もしかしてなのだが、先程の詩は私とカチア殿の事の様に思えるのは気のせいであろうか」
俺は聞かずにはいられなかった。
(と言うかそれ以外に有り得ない)
「多少脚色はしたけど、貴方とカチア、そして敵にも敬意は払ったつもりよ」
全く悪びれずぶちまけるフローラに頷くヒルダ。
「しかし、ですがその、一言相談して頂きたかったとは思うのですが・・・」
フローラ殿の詩に嘘は無い。
確かにあの時、カチア殿の声に反応して槍を弾いた。
敵を讃える気持ちは無かったが、名を知りたいと何故か思ったのも事実だ。
でも、やはり、しかし俺は勝手に詩にされて皆の前で歌われたのが恥ずかしのだ。
「もう諦めよ、ベルンハルト。
詩合わせは即興が基本、事前に打ち合わせなどをしたら興が削がれる。
明日にはあの詩は明日には広がる、勇者と乙女の物語は語り継がれる」
ヒルダ様の微笑みが俺の羞恥心にトドメを刺す。
「・・・精々伝説の勇者に負けないように精進致します」
自ら吟遊詩人を務め、戦を楽しむ美しくて頼もしきヴァルキューレの戦女神。
『俺ではまだとても彼女らに勝てない』
「ところでベルン、一つ教えて欲しい事がある」
フローラ様が急に真顔になって尋ねる。
「なっな、なんでしょうか」
っく、心を詠まれたか。
「あの時、私もシルディ様もあの場にいたが、カチアは確かに貴殿の名を叫んだ。
しかし、絶対に届かない大きさの声だった。
それに聞こえたとしても、槍よりも早く声が届くはずは無かった。
あの槍を防げたのは、貴方が自分で気が付いていたからよね」
フローラ様が良く分からない質問をする
大きな声なら槍よりも早く聞こえるのは当然じゃないか
「いえ、あの時確かにカチアの声が聞こえましたし、お陰で槍を弾けました」
俺は正直に答える。
「あの時ベルン殿は、アーレイの射程ギリギリの所で戦って居たから、カチアからは500メートルは離れていたはず。
聞こえたとしても槍で弾くのには確かに間に合わない」
ヒルダ様まで妙な事を言う。
聞こえないのは分かるが、声が間に合わないと言うのはどういう事なのだろう。
「戦場で張り詰めた五感のせいで、普通なら聞こえない声でも知人の声であったので、聞こえたのでは無いでしょうか」
極限の緊張下にある戦場では、普段有り得ない事が普通に起きる。
「そうか、そうだな、カチアの声だから聞こえた、そういう事で良いか」
フローラは無理やり納得させようとしている気がする。
「そうね、愛する乙女の願いだから聞こえた、それでいいんじゃないかしら」
同意するヒルダも何か無理やりだ。
これ以上ここにいると、厄介な事に巻き込まれる予感しかしないので
「それでは、宿営地をもう一廻りしてから休みます」
と俺は二人に敬礼をして別れた。
(ヒルダさま、音の速度は変わるのでしょうか)
(そこで神様とか愛の力とはフローラは、思わないわけね)
(ヒルダ様そんな力が働くのは、吟遊詩人の歌の中だけです)
(さっきまで、乙女の祈りだの天啓だの言っていたフローラの言葉とは思えないわね)
(敵も味方も神に祈りもするでしょう、両方に祈られれば、一方だけを助ける訳には行きません)
(それは神様も困るでしょう。ま~あ今考える事じゃないわ。それじゃフローラ、明日)
(はい、おやすみなさい。ヒルダ様)
ブルマイスター要塞健在なり この情報によりウノシルディス解放の余韻に浸る間もなく援軍を組織する事となります。 6万の残敵が健在な中、戦術的には不味い作戦が開始されます。




