進撃2
魔法とか転生とか全くない物語です。
メインテーマは、格好のいい男前なお嬢様の物語。
火曜日と金曜日に更新を行います。
ようやくフローラの呪いから解放されたベルンはライナーと共に部隊に戻る。
「・・・・恐ろしいお嬢様達だ・・・」
ライナーも頷く。
「あのシルディア様の直接の部下ですからタダ者の訳がありませんが、あの美貌であのポーズは、もう呪いです」
傍から見れば30台中盤と20台中盤と言う騎士としては一番油の乗った騎士二人が美女二人に遊ばれると言う羨ましい光景でしかないのだが、呪いを掛けられた二人にすれば、敵軍の中に吶喊する方が遥かに容易に感じる、笑いごとでは済まない状況である。
「そこじゃない。いやそれもそうだが、それよりも話の内容がヤバイ・・・あのヒルダ様が・・チョンだぞ。脅しだけで済むはずがない」
ベルンの切った手刀は下の方では無く、首に当てられていた。
「チョンされるのは、下の方だったようですが」
ライナーが手刀を下の方に下げて訂正を求める。
「男にとっては、チョンされれば、上でも下でも同じだ。違うか」
「いえ、その通りです。
それにしても、シルディア殿下だけでなく、ヒルダ殿下もですか。
貴族の淑女にの幻想が崩壊です」
頷く20台と30台の男性騎士二人。
「ライナー、ウチの騎士団とウノシルディスの騎士団の部隊長を大至急集めろ。重大問題だ」
「了解致しました。急ぎましょう」
ライナーが馬を急がせる。
◆ ◆ ◆ ◆
「お前達、この作戦中にお前らの命を守る為に絶対に守る事がある。
これから教えるから絶対に守れ。命がけで守れ。
破った者は間違無く、生まれた来た事を後悔する。
ライナー説明しろ」
(なんで俺が)とボヤキながらライナーが説明を行う。
俺は部隊長の顔色が変わって行くのを見て満足した。
(恐ろしい思いは全員で共有するべきだ。俺だけが貧乏クジを引かされてたまるか)
ライナーの説明が終わり全員が青ざめた顔に変わり納得した様なので、最後は俺が締める。
「良いか貴様等、彼女達は40倍の敵を目の前にして一歩も引かない勇者だ。
そして1000人で4万の敵を味方の被害ゼロで葬り去った猛者だ。
40倍の敵だぞ、損害ゼロだぞ、ウノシルディスの精鋭騎士団でもそんな事は絶対に出来ない。
彼女らは殺ると決めたら必ず殺る、女だからと絶対に甘く考えるな」
全員が無言で頷いたのを確認して俺は解散を命じた。
「あれだけ釘を刺して置けば大丈夫だろう」
俺は近くにいたフィッシャーに同意を求める。
「うちの隊は大丈夫でしょう。今はブルマイスターの救援の事だけで精一杯のはずです」
フィッシャーが焚火の周りに用意された椅子を勧めるので腰掛ける。
「隊長どうぞ」
リンケが何かの酒が入ったコップを俺とフィッシャーに手渡す。
知らない味の酒を一口味わう。
「上手い、しかしこれは何だ?何処で手にいれた?」
カッと喉から腹に広がる刺激が凄まじい
「ウィスキーとか言う酒で、先ほどカチア隊の補給から全員に支給されました」
リンケも酒を飲みながら答える。
「それは気の利いた事で。全員とはウノシルディス騎士団の方も含めてだな」
「はい、アマルダという補給士官がそう言っていました」
フィッシャーもコップを片手に隣に座りながら言う。
「何か理由を言っていたか」
「ええ、何でも食糧は同じ物を用意出来たが、野営装備については用意出来なかったので、その不公平に対するヒルダ様からのお詫びだとか」
余り酒に強くないフィッシャーはチビチビやっているようだ。
「野営装備か、確かに全然違うな」
50メートル程離れた所に見える彼女らの宿営地を見る。
「あれは、個人用のテントですかね。確かに草の上に寝るだけの我らからすると月とスッポンですね」
リンケは何処から仕入れて来たのか干し肉を皆に配る。
「この干し肉は何処から・・・・彼女達の用意か。塩だけの味じゃないな。甘味がある」
「野戦食じゃなくって、町の酒場でも評判になる味ですね」
酒に強いリンケはこの干し肉がお気に入りの様だ。
「リンケ、飲むのは自分の分だけにしとけよ。この酒と肉は美味過ぎる」
そんな事をするはずがない事を知って言うのはこの手の会話のお約束だ。
「はいはい、わかってますよ。それにしても、戦に来ているのを忘れる補給の充実ぶりですね」
「さすがは、『お貴族様』と言いたいのか」
「違います。彼女達は自分でテントの周りに壕を掘り、柵を巡らしました。真っ先にトイレを作るのには、お貴族様とも思いましたが、とても手際良く、誰の指図があるわけでなく、非常に手慣れた感じでした」
さすがフィッシャー、良く見ている。
「何でも、彼女達は1年の3分の1は、野営らしいですよ」
リンケも仕入れて来た情報を披露する。
「それでいて、全員読み書きも出来るし、足し算どころか割り算まで普通にこなします。さっきのトイレも長期野営を考えれば納得の設備です」
フィッシャーも情報を披露。
「普通の軍であれば全員が士官級の能力と言うわけか。
最初に案内してくれたアデリナとか言う兵士から受けたイメージは正しかったわけだな」
俺の言葉に二人が頷く。
「でなければ、初陣で4万の敵に整然と統制された射撃を行う事など出来ないでしょう。
初陣ですよ、初陣、どんな騎士でも無我夢中で命令なんか聞く余裕なんて無くて当たり前です。
なのに彼女達は敵を前にして普段通りに笑ってましたからね」
とフィッシャーの言葉に俺達は同意する。
「フローラ様は確かに6000人を殲滅する前に笑っていたよな」
「シルディア殿下なんて『敵に名乗り』を上げていたものな」
「確か、『冥途の土産に我が名を覚えよ』だったけ」
「そのシルディア殿下もフローラ様も初陣だよな。信じられない事だけど」
「お前達、それ位にしておけ。上官としては有難い事だ」
「「「はっ、了解致しました」」」
3人は返答は綺麗に揃った。
「さて、俺はウノシルディス騎士団の方も見て来る。
明日からは森に入る。忙しくなるから早めに休めよ」
俺はカップをライナーに渡して騎乗する。
『はっ』三人が立ち上げり敬礼で見送るので俺も答礼で返す。
(こんな形の敬礼は今までしていなかったはずだが、馬上でも出来て割と良いものだな)
◆ ◆ ◆ ◆
「フローラ様、コチラに居られましたか」
ウノシルディス騎士団の宿営地に来ると既にフローラ様が部隊長だけでなく、一般兵も集めて軍議(酒盛り)の真っ最中であった。
「おお、ベルンかこっちに来い。おい、ベルンにも酒とツマミ」
フローラがやや上気した顔で申し付けると、いつの間にか従卒となった騎士達がたちまち用意が整える。
(シルデイア様もそうだが、その腹心のフローラ様も忽に騎士を魅了するな)
「今から丁度シルディ様の学園での演説を皆に聞かせようとしていた所だ。まあ聞いてゆけ」
酒に強いフローラは、グイと一口入れて竪琴を弾き出す。
焚火の灯りの赤く照らされたフローラは、妖しげな妖気を身に纏い、男共の視線を釘付けにする。
(野獣に囲まれて怖くは無いのですか、目立った働きをした者を婚約者候補にする事を公表するから、騎士達の目が完全に野獣ですよ。襲われる貴方が一番落ち着いているとか、おかしくないですか)
「希望と不安を抱えた
1000人の戦乙女
その澄んだ眼差しは一点を見詰める」
激しい旋律が一気に盛り上げる。
「そして目にする紅の旗!」
激しい旋律が止まり、一同が息を飲む。
「数多の祖先の勇者の魂が
戦旗の紅を更に赤く染めあげる
先頭に翻る勇者の証」
静かな旋律に皆が祖先の武勇に思いを馳せる。
「黒髪の美女が高々と掲げる紅の戦旗」
真打登場とばかりにフローラは立ち上がり、夜風にその長い黒髪を靡かせる。
赤い焚火の炎が下から白くて長い首から顔を照らし、さながら血を浴びた様に赤く染め上げる。
「神が息吹が
戦旗をはためかせ
一条の光が
乙女を照らす」
控えめな伴奏がフローラの詩を一層引き立てる。
控え目な演奏は徐々に盛り上がりクライマックスを迎える。
「ウノシルディスの武勇、紅旗の勇、此処に有り!」
フローラの良く通る美しい答えが宿営地に鳴り響く。
「「「おおおおおお、ウノシルディス万歳」」」
湧き上がる大歓声。
鎧の胸を力強く叩く戦士のリズム
「黒髪の乙女が
言葉
一つ一つに命を刻む
我は民を救いに向かう
我は戦場に立つ
皆の命、我に預けよ」
フローラが煽る煽る。
「「「おおおおおお!シルディア殿下 万歳!!」」」
再び沸き起こる大歓声。
戦士のリズムを刻む力に一層の力がこもる。
馬が嘶き、鳥が飛び立つ。
他の宿営地から『何事か』の声が上がり、『問題なし、申し訳ない』の声が答える。
ブルマイスター要塞健在なり この情報によりウノシルディス解放の余韻に浸る間もなく援軍を組織する事となります。 6万の残敵が健在な中、戦術的には不味い作戦が開始されます。




