疲れた時は温泉です
魔法とか転生とか全くない物語です。
メインテーマは、格好のいい男前なお嬢様の物語。
火曜日と金曜日に更新を行います。
「お姉様~~~」
ウノシルデス侯爵家の大浴場の10メートルはあろうかと言う円形の大理石で作られたシンプルだが貴族らしい大浴槽、そして幾つもの敷井で細分化された広い洗い場。
天井全体が赤いのは、特殊な半透明のガラスのドームが夕焼けに染まっているから。
更には無数のランプが浴場を照らす。
(このランプの維持だけでも大変よね)
これ程の設備はクロスロード公国の公都は勿論、帝国にもない。
100人の貴族が一斉に入浴しても問題ないこの広大な大浴場を私は一人で占有している。
最も一人とはいっても本当に一人であるはずも無く、風呂付の侍女4人を侍らしている。
手足を無防備に大の字に伸ばして仰向けになりウノシルデス侯爵家の侍女に頭マッサージをしてもらっていると、2階の洗い湯に続く階段からヒルダが同じように4人の侍女を従えて入ってきた。
「ヒルダ、もう洗い湯は終わったの」
顔を向ける事すらせずに上を向いたまま尋ねる。
「ええ、ピッカピカにして頂きました。ウノシルデス侯爵家の風呂付侍女は最高です」
私と同じように浴衣だけを着たヒルダが隣に来る。
「湯舟につかりながらの頭マッサージも最高よ。体が蕩けてくるわ」
「では私もお願いします。お隣お邪魔しますね」
侍女がヒルダに合わせて風呂のベッドの高さを調整する。
低すぎると体が不安定に浮いてしまうし、高すぎると冷めてしまう。
胸が出るか出ないかの微妙な高さが求められる、侍女の腕の見せ所でもある。
「邪魔しなければ、いいわよ」
「それは言葉の彪です。お姉様、思考能力がストップしてませんか?」
「かもしれない。何にも考えたくない~~~」
私は完全脱力して完全に湯の浮力に身を任せる。
「それが公爵令嬢のセリフですか」
「そんなの知らな~~~い。貴方が私の分まで頑張りなさ~~~い」
「それにその恰好、いくら浴衣を着ていると言っても淑女の恰好ではありません」
ヒルダはアップに纏めていた腰まで届く赤い髪を解きながら見下ろして言う。
「公爵令嬢特権により、ここで見た事を他言した場合は、一生風呂無しの刑に処~~~~す」
私の無茶苦茶な命令を「かしこまりました」と律儀に侍女が微笑みながら受け流す。
「何ですかその横暴な特権は。フローラとエリーがもうすぐ来ます。それまでにこっちの世界に戻ってきて下さい」
「は~~~い。二人が来たら起こしてくださ~~~い」
「まったく、淑女の嗜みが・・・お母様が見たら卒倒しますわよ」
しかしながら、ここまでリラックスしている姉の姿は私も見たことがない。
(リラックスと言うか幼児退行している気がするけど)
お湯に揺られて漂う浴衣の防御力はゼロだが、その代わりに攻撃力に極振りされている。
私よりも小さい(ここは勝った)けど形のいい胸、悔しいけど私より細いウエスト、豊かな腰から滑らかに伸びた形の良い脚、これらを微妙に不安定に動く浴衣で隠す事でお姉様の攻撃力は、慣れているはずの風呂付の侍女の防御力を軽く爆砕する。
お姉様の隣に体を横たえながらも私の視線はお姉様の体から離す事が出来ない。
待機している侍女達の顔が赤く見えるのは湯に当たっただけではなかろう。
「ま~それだけ大変な日々でしたから、ゆっくりとお休み下さい」
そして迂闊にも私も頭マッサージの気持ち良さに意識を手放してしまった。
「シルディ様、ヒルダ様お邪魔しますよ」
フローラとエリーがマッサージを終えて浴場に入ると風呂付きの侍女が二人を迎える。
「何かあったか?」
何かあったとしても深刻な事で無い事は侍女の態度で解る。
「フローラ、たぶんあれの事だと思う」
エリーの指差す方を見ると・・・・
シルディとヒルダが大の字で浴槽で寝ていた・・・・
「エリー、私には大公国令嬢二人が無防備に大の字で寝ている様に見えるのだけど・・・・・事実か」
「私にも恥じらいも無く大の字で寝ている様に見えます、事実です。フローラ」
エリーとフローラは互いに見詰めてあって溜息を漏らす。
侍女は頭マッサージで寝かせてしまった事を申し訳なさそうにする。
「貴方達に責任はありません」
ウノシルディス家の侍女である彼女らに主人であるフローラが声をかける。
「そうよ、貴方達は最高のおもてなしをお姉様達に提供しただけで何の責任もない事をエルフリーデ・フォン・グランドが保証します」
「有難う御座います」
「此処はもうよい、あとは我々が対応します。ご苦労であった」
「フローラ」
フローラは判っていると頷く。
「それと此処で見た事を口外する事を禁じる」
「承知致しております。シルディア殿下からも「ここで見た事を他言した場合は、一生風呂無しの刑」と命じられております」
侍女の言葉に天を仰ぐ二人。
「・・・そう言う事だ、下がって良し」
フローラの言葉に全ての侍女たちが下がる。
巨大な大浴場には4人(2人は浴槽で寝ている)だけとなる。
「エリー、噂が広がるとやっぱり不味い?」
「シルディ様は今更ですし婚約者のいるから問題無いわ・・・・
ヒルダ様は帝国派の貴族には出来たらと言う程度の秘密よ」
「それよりも、大きな問題があるわ」
「二人っきりで同じ湯船に入っていても姉妹だし問題は無いでしょう。」
「そこじゃ無い」
「じゃ何が問題?」
「どうやって二人を起こすの?」
4万の敵を前にしても動じぬ二人が深刻に考え込む。
「そこの二人、相談は終わった?そんな所でいると風邪を引くわよ。早くいらっしゃい」
シルディ様の声に浴槽を見ると・・・
人魚の如く浴槽の縁に腰掛けポーズを決める公爵令嬢・姉と
その姉の太腿を枕に湯当たり、あるいは他の物に逆上せ、真っ赤な顔の公爵令嬢・妹が居た。
「「!」」
二人とも腰まで届く黒と赤の長い髪の毛を左右に分けて胸の前に流し、上手く胸を隠している。
しかし、その為に体のラインがより強調される事態を招く。
肌の色はどちらも真っ白であるが、赤髪よりも黒髪の方が一層の白さを強調する。
そして、黒と赤という攻撃色が二人の精神を崩壊させる。
「フローラ、宮廷画家を呼びましょう。私の記憶能力が飛びました・・・・」
思考能力がポンコツとなったエリー。
「どんな天才でも無理。この「美」を絵にする事は・・・・・」
湯に入る前から全身真っ赤になったフローラが答える。
二人の挙動に小首を傾げ、無意識に二人の理性にトドメを刺すシルディア・フォン・クロスロード。
「「不味い、立ってられない」」
フロレンティーナがアップにしていた黒髪を解き駆け出し、少し遅れたエルフリーデは金髪を解きながら後に続く。
淑女の嗜み、侯爵令嬢の誇り、そんな物を浴衣と一緒に脱ぎ捨てた二人は、黒と金の風となって洗い場を吹き抜け、湯船に水煙を上げる。
ウノシルディス城は無事に解放されました。
今回は休憩回です。




