入城8
魔法とか転生とか全くない物語です。
メインテーマは、格好のいい男前なお嬢様の物語。
火曜日と金曜日に更新を行います。
「シルディア。フォン。クロスロード大公国殿下、御入来」
ウノシルディス侯爵邸の大広間の扉が開かれる。
私は、ヒルダとエリーを伴い広間を進む。
100人程貴族と騎士団がの左右に分かれて礼をもって迎入れるが、恒例の万歳は一切なく、歓迎の空気とは言い難い。
(クロスロード騎士団がウノシルディスを切り捨てた事は明らかですものね)
私達は、中央の赤い絨毯の上を正面の壇上下まで進む。
壇上下でアデーレとアンゼルム、つまりフローラの母と弟、バルタザールつまりフローラの祖父とフローラが貴族の礼で私を迎える。
「シルディア殿下、壇上へお進み下さい」
フローラだけが立ち上がり壇上へと案内を行う。
中央に私、左にヒルダ、二人をはさむ形でフローラ、エリーが着席するとアデーレとアンゼルム、バルタザールとフローラが中央に進み出て改めて貴族の礼を取る。
だが広間の貴族騎士団の視線は依然として冷たく、一切の歓迎の声は上がらない。
「シルディア殿下、現在ウノシルディス侯爵家の当主代理をさせて頂いております、バルタザールにございます」
2年前と変わらぬ懐かしい顔。
「バルタザール殿、久しいな面を上げよ」
「学園創設の際には世話になりました。
ご子息のベルント殿の戦死には心を痛めておりました。
この様な壇上からではありますが、改めてお悔やみを申し上げます」
改めて貴族や騎士を見れば皆若い。
殆どが2年前の戦いで当主や次期当主を失った貴族や騎士たちなのであろう。
「ご丁寧なご弔問のお言葉有り難く存じます」
「いいえ、私こそ早くに弔問に訪れる事が出来きず申し訳有りませんでした。
私はベルント殿には何度か領内を案内してもらった事があります。
それに我が父上とベルント殿は親友であったとも聞いています。
父達の様にフロレンティーナと私も良き親友でありたいと思っています」
「凡才なる孫に、勿体なきお言葉にございます。
この度は、公女殿下みずから兵を挙げられ、ウノ族の侵略を阻止して頂きました事、どの様に感謝を表せば良いのか判りません」
バルタザールも広間の冷え切った空気を感じ取り、合わせてくれる。
「私は、ウノシルディスを第二の故郷と考えています。
更にバルタザール殿に受けた恩義を返す為にも、親友の窮地を救う為にも、駆けつけるのは当然の事です」
「第二の故郷と申して頂けか。・・・・公女殿下のご恩に報いるべくウノシルデス侯爵家は、シルディア殿下の為に尽力させて頂きます」
バルタザールはクロスロード大公国では無く、私個人に忠誠を尽くすとハッキリ明言した。
明らかに叛意有りと取られる言葉である。
公国貴族として軽々しく言って良い言葉では絶対に無い。
広間に集まった諸将も今のバルタザールの言葉に驚き、吟味する。
クロスロード大公国かシルディア殿下、どちらに忠節を尽くすべきか。
自分達を見捨てた大公国か、恐らく死を覚悟して救援に駆けつたシルディアか。
ウノシルディスは、クロスロードの中でも武威と恩義を尊ぶ気風が強い。
そして、武威と恩義では恩義が重んじるられるのが、ウノシルディスの気風である。
つまり、敵を殲滅した事よりも、強大な大軍に対して死を覚悟して救援に駆けつけた事の方が評価が高い。
そして、10万の敵を僅か1000騎で鮮やかに撃退して凱旋している以上、武威の面でもシルディアを認めない理由は全く無い。
口だけの支配者か、自ら血を流す支配者か。
血の色に染めた紅の「戦旗」を掲げ、クロスロード騎兵隊の先頭に立つ先代領主のベルントの姿。
同じく「戦旗」を掲げ、城外を埋め尽くすウノ族を蹴散らし、見事に凱旋した美しき黒髪の乙女の姿。
その二つが彼らの中で重なる。
大勢は決した。
「「「シルディア殿下に忠誠を誓います」」」
広間に集まった全員が唱和する。
この瞬間シルディアが実質的なウノシルディスの支配権を獲得。
クロスロード公国内に実質的に独立勢力が誕生した。
「動き出しましたわね」
「これからの貴方の動きは重要ですよ、下手をしたらクロスロード公国が二つに割れます」
「ええ、分かっているわ。エリー。」
ヒルダとエリーは以前論じた策が現実の政策として進みだした事を互いに確認する。
「ウノシルディスの勇者達よ、私がシルディア・フォン・クロスロードである。皆、面をあげよ」
「外敵の侵略に対してこれを追い払うのは大公国貴族の責務。
しかし、一人では戦えぬ。
私の呼びかけに応じて参加した学園の生徒の多くはウノシルディスの出身、即ちそなたらのご子息だ。
彼女らの必死の覚悟がなければ、私は軍を興す事は出来なかった。
ウノシルディスを解放したのは、彼女達である。大事にせよ」
「「「はは~~~」」」
「また、城門前の敵を退けたとは言え、ウノシルディス全土から敵が居なくなったわけでは無い。
これらを退ける為に皆の働きが必要である。私は皆の忠節に期待する。
「「「イエス、シルディア」」」
右手の拳で左胸を叩く、それは騎士が上官に絶対の忠誠を誓う時の礼。
取りあえずは、騎士と貴族に認められはした様だが、まだ弱い。
これを強固な物にするには、暫しの時間と実績と利益が必要であろう。
だが、今は焦っても仕方がない。
「我らは此処までの強行軍と2回の敵主力との会戦でさすがに疲れた。
よって今後の方針を決めるのは、明日からとする。
皆の者、今日は大儀であった」
私は立ち上がり壇上から降りる。
「バルタザール殿、しばしの休息の後、少々時間を頂きたい」
「かしこまりました。当家の温泉は万能の病に効きます。
ごゆっくりとお過ごしください。
軽い食事も用意させております」
「有難い、そうさせて貰います。でも魚料理は不要よ」
私は真剣な口調で念押しをした。
この疲れた一日の最後に煮魚の臭いを嗅いだら、私は明日何もしない自信がある。
「心得ております。では後ほど」
バルタザールは懐かし笑顔を見せてくれた。
私は入った時と同じように中央の絨毯を踏みしめ扉へと進む。
「「「シルディア殿下、万~~~歳」」」
入って来た時には無かった万歳が沸き起こる。
扉の前で私は振り返り、手を上げて歓声を制する。
「ウノシルディスに栄光あれ」
「おおおおお~~~」
最前線の者は、貴族も騎士も自らの命を懸けているだけに、利に正直で手の平返しも早い。
しかし、それは当然の事であり、私を不快にさせるものではなかった。
利益があってこその恩義であり、忠誠と言うのが他人に忠誠を求める時の私のスタンスである。
利益だけでは、より大きな利益に太刀打ち出来ず、忠誠だけでは私の借入れだけが膨れ上がり、それは何時か私を滅ぼすであろう。
「「「ウノシルディスに栄光あれ」」」
大広間に唱和がこだました。
取りあえずウノシルディスの陥落は阻止する事が出来ました。
次はウノ族に占領されたウノシルディス領の奪還です。




