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頑張ったのに悪女扱いは酷くないですか  作者: 梶 ゆう


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19/31

入城2

魔法とか転生とか全くない物語です。

メインテーマは、格好のいい騎士物語。

自己保身の為に民を見放した最低貴族の代わりに立ち上がる格好のいいお姉様の物語です。

火曜日と金曜日に更新を行います。

今回は追加でもう一話更新致しました


ウノシルディスまで1000メートル余り。

城壁の上には多数の城兵がこちらを見ている。

攻城兵4万が撤退の準備を始めたので、残り2万の動きに注視しているのであろう。

城下を埋め尽くす2万の大軍を前にする、たった1000騎の私達の騎馬隊。

そして、中央に翻る3本の旗、クロスロード大公国旗、クロスロード学園旗、そして紅の『戦旗』。


「普通なら援軍の到着に歓声の一つも上がって良いと思うのだけど」


「シルデイ様のおっしゃる通りですが、やはり人数が少なすぎましたかね」

フローラも同じ様な感想を述べる。


「我が軍の真価を知った時の驚きが楽しみですわ」

絶対の信頼を持つエリーはぶれない。


「驚きを通り越して恐れになると厄介なんだけどね。特に聖職者共が」

私の言葉に頷く二人。


「何か手をお考えですか?」


「ま~~ね~~。フローラに手伝ってもらう事になるけど」


「また、シルディ様の悪だくみですか。構いませんけど、淑女のする顔では無いですよ」

それでも拒否はしないフローラ。


「ふん、失礼な」

呑気な会話をする私達3人の幹部の前にはカチコチのハイデがいる。




「我が部隊の初陣である。何も気負う必要は無い、訓練で行っていた事を行えば良い」

ハイデ殿が部下に演説しているが・・・・アレでは駄目ね。


訓練通りに出来ないから、初陣なのよ、隊長のハイデ自身に余裕が全くない。


あまり良い事ではないが、私はちょっと手伝いをする事にする。

「ハイデ、チョッと喋っていいかな」

私がハイデの部隊の部下に直接命令をするのはハイデの面子を潰す事になのでハイデの許しを得る。


「シルディ様。構いません。お願いします」

ハイデは地獄で(ほとけ)に出会った様な声。


「判った」

(ほとけ)じゃなくって女神のつもりの微笑みを浮かべる私。

エリーの「どう見ても悪女の微笑みです」と要らざる囁き(ささやき)

そしてエリー頷くフローラ。

(貴方達には少し緊張が必要よ)


「みんな、あそこにベルンハルトが見えるだろう。

彼は、私の大切な友であり秘書である伯爵家令嬢のカチアに求婚した。たかが男爵の男がだ」

士気を盛り上げる演説を期待していた、ハイデとハイデ隊は突かれキョトンとしている。


隣のフローラとエリーは私が何を言うのか判ったらしく、横を向いて笑いを堪えている


「奴はカチアに約束した。

クロスロード学園の生徒を騎士の誇りと命に掛けて護ると」

さっきのカチアとベルンのやり取りをハイデ隊にばらす。


「だから、彼と彼の部隊は、カチアと結婚する為にお前達を絶対に護る。

そして、カチアとの結婚式にはお前達全員を招待するだろう」


「「「キャーーー」」」


若い女性から湧き上がる歓声はやっぱり「キャー」がいい。


「だから、ハイデを信頼して安心して行ってこい。

そしてカチアの結婚式でベルンハルトの財布をスッカカンにしてやろう」


「「「おーーー!」」」

その殺る(やる)気が怖い。

今から資金を貯め直さないと私の結婚式にも彼女達は私を殺りに間違い無く来る。

今回の出征の為に私は貯めていた資金の殆どを吐き出した、このままだとヤバイ。


「ハイデ、攻撃開始のタイミングは任せる。派手にブチ込んで来なさい」

ハイデの肩を軽く叩いた。


「はい、シルディ様」

ハイデが笑顔で力強く頷く。


「ハイデ隊、出撃!私達らしく優雅に、そして華麗に、そして美しく、ブチ込んでやるわよ!」

ハイデは部隊に向かって宣言する。


「「「イエス! ハイデ!」」」

ハイデ隊が一斉に右手を心臓を叩く。


「参ります!」

先頭切るハイデ。

部隊が見事な2列縦隊で続く。


「シルディ様、見事です。

しかし、さっきからカチアが顔を真っ赤にして、ベルンは部下に囃し(はやし)立てられておられますが、良かったのですか」


「これしきの事で狼狽える(うろたえる)男に私の大切なカチアを任せられるものですか」


「確かに、妹のクリスも凄い顔でベルンを睨んでいますね。アーーハハ」

楽しそうに笑うフローラ。


「フローラ、これから大量殺戮を命じる私の横でその笑い方は辞めなさい。

ウノシルディスの城壁から見たら、私が殺戮公女にしか見えなくなる」


「ウフフ、申し訳ありません。でもこれまで典礼騎士団だのオママゴトだの言っていた凡俗共がどんな顔をするかと思うと。フフフフフ」

(ダメだ、気持ちは判るけど、フローラ、貴方も侯爵家令嬢でしょうに淑女の嗜みが木っ端微塵よ)



「「「おおおおお」」」

突然、槍を突き上げ雄叫びを上げるベルン騎士団。

たぶん、ベルンが私の(げき)にブチ切れた勢いで部下を盛り上げたのだろう。


2万の屍を踏み越え、6万の敵がまだいると言うのに、我が軍の兵は頭のネジが2、3本飛んだ様ね。

それは、とても良い事、死兵を越えた精兵の誕生だわ。





「よし、左右に展開、2列横隊を作れ」

ハイデは敵まで600メートルの距離を見定めると躊躇う(ためらう)事無く縦隊から横隊への変更を指示する。


「列を乱すな、華麗に美しく」

ハイデ隊の小隊長も指示を飛ばす。


「横隊2列、列を乱すな、400まで引き付ける。騎馬の間隔を揃えろ、立ち姿も美しく」

ハイデは戦闘ではなく儀仗訓練のノリで戦闘を指揮するらしい。


(一種の欺瞞行為だけど、それで初陣の彼女達が落ち着けるならそれでいいわ)


敵ファランクスの前に見事に広がる1000メートルの赤い壁。


敵を目前にして一糸乱れぬ陣の変更を行ったハイデ隊の騎兵運用は、敵の士気を大きく下げるはず。


「「「クロスロード公国 万歳!!」」」


「「「シルディア様 万歳!!!」」」


「「「クロスロード学園 万歳!!!」」」


ウノシルデスの旗が大きく振られる。

2万の敵を前に陣形変更を行ったハイデの騎馬隊にこれまで沈黙していた城兵達から大音声の歓声が沸き上がる。


100倍の敵を前に一糸乱れぬ動きで騎兵突撃態勢に移行した騎馬隊に大陸に無敵を誇ったクロスロード騎士団の残滓を見たのかも知れない。


例えそれが絶望的少数であったとしても、自分達は見捨てられておらず、援軍が来てくれた事に勇気付けられたのかもしれない。


あるいは数刻後には全滅する私達への花向けなのかもしれない。




「最初の2万は精兵だったけど、今度の敵は寄せ集めの攻城軍、つまり烏合の衆よ」


「はいシルディ様。しかも自分達は4万の撤退の時間を稼ぐ為の捨て駒、そして相手は主力軍を理由の解らない方法で全滅させた化け物」

フローラも同意する。


殿(しんがり)の覚悟など最初から有りませんわ」

エリーは中々に手厳しい。


「そうね、これはもう戦闘じゃないわ、作業よ。・・・・ほら」

私は敵を指差す。


前衛の者は前進を続け、中軍の者は立ち止まる。

そして後衛の者は後退を始める。

最早、ファランクスとは言えない陣形の乱れ。


「まだ射程ギリギリですが、3つに割れましたね」

フローラが烏合の衆と化した敵の陣を見て呆れた様に言う。


「フローラの判断は?」


「即時攻撃」

吐き捨てる。


「ハイデにもその判断をして欲しいわね。だからフローラ、もう少し命令は待って」


「分かりました。ハイデもさっきからコチラをチラチラ見ていますしね」

澄ました顔には余裕がある。


「この(いくさ)の後、ハイデに責められるかもよ。フローラ」


「半分はシルディ様の責任です。ご自分は無関係の様な事を言わないで下さい」


「フローラ、本当に容赦ないわね。ま〜コレでハイデが前線指揮官として成長してくれたら良しとしますか」



敵の陣が崩れた。

何か指示があって当然なのに、シルディ様とフローラ様は高笑をしているだけ。

部下達が私の指示を待っている。

不思議と音が聞こえない、色も消えて白黒の世界。

城兵がウノシルデスの旗をやけにゆっくりした動きで振り回しているのが見える。

最適なのは作戦を変更して今すぐ攻撃を開始する事だと思う。

シルディ様はタイミングは任せるとおっしゃった。

だとすると今、私がするべき事は、


「目標まで距離600、距離修正、攻撃用意」


私の命令を小隊長が伝達する。

「「距離修整600、攻撃用意、装弾せよ」」


200騎の私の部隊が一糸乱れぬ動きで攻撃態勢をとる


騎馬突撃を経験した事のある者は見慣れない体勢の目に戸惑うはず。

しかし、敵は戸惑う事無く鋭い命令が敵陣に飛ぶ。


何かがオカシイ、烏合の衆とは思えない。


疑問はあったが、射撃命令を取消す程では無いと私は判断した。


私はシルディ様がしていた様に右手を上げる

「斉射!!」

右手を敵に向かって振り下げた。


ハイデが初めて攻撃命令を下した。

取りあえずの目標であったウノシルディス城までもう少しで到着できます。

残るは2万の敵。

最初の10万に比べるとたった2万ですが、それでも20倍の敵です。

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