初陣6
魔法とか転生とか全くない物語です。
メインテーマは、格好のいい騎士物語。
自己保身の為に民を見放した最低貴族の代わりに立ち上がる格好のいいお姉様の物語です。
火曜日と金曜日に更新を行います。
「右翼の敗走兵は中央には向かわない様ですね。真っ直ぐ逃げ出してウノシルディスの攻城軍に合流する様です」
目の良いフローラが状況を伝える。
「上手く恐怖を伝えてくれそうね。神の怒り?悪魔の攻撃?」
魔女の魔法だけは勘弁して欲しいけど、一番有りそうね。
「勿論、神の怒りです。中央はそのまま後退したので後方の陣とぶつかり左右に分かれて壊走中です」
正義は我に在り、ぶれないフローラ。
「ロング部隊、攻撃準備完了です」
フローラがヒルダの手信号を見て報告する。
「後方部隊の位置は?」
「凡そ、1000メートルから1200ですね。動いていません。
引きもしませんが、中央に旗らしき物が見えます。あれが本陣でしょう」
フローラが指さす。
私にもその旗はハッキリ見えた。
「あれが、私達に無益な戦争に巻き込んだ元凶か。皆の幸せの為に逃しはしない」
私はヒルダを見る。
私を見て、ヒルダが頷く。
「我が領土を侵略した蛮族共!
お前達を地獄に送り込むのは
シルディア・フォン・クロスロード!
冥土の土産に我が名を頭に刻み込め!
ヒルダ!
敵を殲滅せよ!!
ロング!
全弾!
一斉発射!」
高く上げた右手を前方に振り下ろす。
「全弾発射!」
ヒルダの号令がここまで聞こえる。
アーレイの飛ぶ音の数倍の太い飛翔音が50本、私の上を飛び越えて行く。
「次弾準備急げ!」
ヒルダの凛とした命令が飛ぶ。
ヒルダは、ロングの着弾を見ていない。
作業として次の準備をひたすらに行う。
「盾も上げない。逃げ出しもしない。
奴ら自分達の所まで届くと思っていない様ですね。愚か者共が」
フローラが意地の悪い声で笑う。
「文明国の叡智を思い知るがいい」
エリーは冷めた声で断罪する。
「攻撃された事にすら気づいていないのかも知れません。・・・・着弾します」
フローラの声は聴こえていたが、私は前だけを見詰めていた。
綺麗に並んだ5000人のファランクス、彼らが消え去るまであと数秒。
5000人の努力、人生、だが間違った指導者に従ったのが貴方達の罪よ。
貴方達の罪は貴方達の命で私が償わさせる。
だから、貴方達の子供は無意味な死を迎えない様にする。
だから、安心して消滅しなさい。
5000人が閃光に包まれる。
爆風と武器やら盾やらの破片がカミソリとなって荒れ狂う。
しかし、悲鳴も助けを呼ぶ声も爆音にかき消さて私には聞こえない。
アーレイとは比べ物にならない轟音。
訓練されたカチアやカタリナの部隊の騎馬もさすがにざわつく。
ベルンハルトの部隊は、再び大騒ぎね。
音に遅れて地面が身震いする。
櫓の上は一層激しく揺れた。
「さすがにアーレイとは桁違いね」
「シルディ様、次弾準備良し!」
手すりに掴り姿勢をたもちながらフローラが報告する。
私はヒルダが見ているのを確認して、右手を高く上げ振り下ろす。
「全弾発射!」
再び、50発のロングが私達の頭上を越えて飛翔する。
着弾地点はまだ先の煙と土煙が晴れていない。
そこに新たに50発が着弾し、閃光が走る。
再び轟く爆音と地響き。
地面が揺れる事など無い我が国では殆どの者が初めての体験。
だが初陣に興奮しているうちの子達にはさほど驚いた様子は無い。
「次弾準備良し」
準備が早い、1分と掛かっていない。
「これで最後よ。全弾発射!」
三度、ロングの飛翔音が鳴り響く。
「伝令、ロング発射準備、但し装填はするな」
「かしこまりました」
伝令は完全に平常心を取り戻した。
もう完全に初陣を越えたわね。
「フローラ、敵の様子は?」
3連続でロングの範囲攻撃を受けた敵は爆煙に包まれている。
「旗は見えません。人は・・・・立って居ませんね」
しみじみと言うフローラ。
「この後に騎兵突撃をかければ、どんな軍でも圧倒出来るでしょうが・・・・あまり取りたくは無い戦術ね」
「そうですね、でも2年前に我が騎士団を騙し討ち同然に全滅させた、ゲートリング大公国に使う事に、私は反対致しません。シルディ様」
「そうね、それで文明国同士の戦が私達が生きている間だけでも収まってくれるのならば、それもいいけど。ま~今考えても仕方のない事ね」
「そうですね。シルディ様。煙がだいぶ晴れてきました」
「5メートル位の穴が100位出来上がっていますね」
とエリー。
「あの穴に潜まれたら厄介だけど、あの状況でその判断が出来るかしら」
穴を掘りそこに隠れる。
それはアーレイとロングの攻撃から身を守る唯一の方法。
「「穴に入れば助かるのですか?!」」
フローラとエリーが驚いて私を振り返る。
「えっ、貴方達知らなかったの?」
驚いて二人を見直す。
「「知りませんでした!!!」」
完璧にハモる二人に部隊を指揮しているヒルダまで何事かと私を見上げる。
(蛮族とはいえ5000人を殲滅した直後にこの女子校のノリは流石に不謹慎だと思うのだけど・・・これもストレスの発散かもね)
「前に罪人を使ったアーレイの実験の時、偶然穴に吹き飛ばされて即死しなかった者が居たのよ」
「罪人」「実験」「即死」と淑女がする話にしては内容が酷い。
「成る程、納得致しました。私の観察不足でした」
と、フローラ。
「ですが、この件は後程詳しく説明願いますね。今後の作戦にも影響します」
と、エリー。
「もちろんよ。でも広げてもらうと困るから一応、機密よ」
機密と言う事で逃げたけど、二人の目が怖い。
「それで、シルディ様。この後は、ベルンハルト隊に残敵掃討と戦果の確認で宜しいですか」
即座にギアを女子校モードから戦場モードに切り替えてくれたらしい、フローラ。
「ええ、そうね。
命令、ベルンハルト隊は残敵を掃討、捕虜は必要無い。
負傷者、倒れている者には止めの一撃を行う事。
窪地に倒れている者は気絶状態の可能性が高い特に注意せよ」
私は冷酷な命令を下す。
「それと、我が軍が放った矢には触れない事。爆発する恐れがある。これも間違いなく全員に伝える事」
エリーが私が言い忘れていた事を補足してくれる。
「命令、受領致しました」
一瞬、過激な命令に伝令の息が詰まった様だが、命令を受領して駆け出してゆく。
「フローラ、カチア隊は後退、補給を受け補給後はハイデ隊の後方で休息する事。
ハイデ隊は前進、前面で警戒休息する事。
カタリナ隊は、カチカチア隊は補給が終わり次第、補給を受け右側面で警戒休息する事」
「かしこまりました。シルディ様」
フローラが今の命令を伝令に細かく出す。
「ベルンハルトの掃討作戦は1時間程度は掛かるはず。その間に攻城軍がどう動くかしら?」
「指導部は殲滅したはずですから、全軍の統一した動きは難しいかもしれません」
エリーが黒板に現在の状況を書き直す。
「別動隊の情報はまだありません。既に撤退した可能性もあります」
フローラが情報を書き込む。
「問題はウノシルディスを囲んでいる攻城軍ね。6万と言う所かしら」
「一気に蹴散らしますか。私達の得意戦術、波状弓騎兵攻撃で」
フローラが目をキラキラさせて言う。
「今日中に入城したいし、日没まではあと5時間と言う所よね」
私はエリーの書いた地図に部隊の攻撃ルートを書き込む。
「攻撃に先立って、ロング部隊の遠距離攻撃で敵の攪乱を提案致します」
エリーがロングの攻撃ポイントを記入する。
「それで行きましょう。各部隊の部隊長を召集して。作戦行動を説明します」
「「かしこまりました、シルディ様」」
魔法とかが無いこの世界で体力に劣る女性が男の騎士団に勝つ為には手段は選べません。
まだ黒色火薬と簡単な触発式の起爆装置しかない擲弾ですが、騎馬隊の突撃に対抗する為に生まれたファランクスには、絶大な威力を発揮してくれるでしょう。
普通のアーレイがファイアボールなら、ロングの破壊力はフレアと言う所でしょうか




