初陣2
魔法とか転生とか全くない物語です。
メインテーマは、格好のいい騎士物語。
自己保身の為に民を見放した最低貴族の代わりに立ち上がる格好のいいお姉様の物語です。
火曜日と金曜日に更新を行います。
「シルディ様、避難民の責任者を連れて来ました」
「カチア、貴方が・・・知り合いなのね。話を聴きましょう」
伝令の代わりにカチアが第一部隊をクリスに任せて来るとは思わなかった。
「部隊はそのまま前進、あの少し広い所に会談場所を設置して」
直衛兵が私の命令に従い、椅子を5脚対面に並べ、私の後ろに護衛として立つ。
「カチア、それで彼は誰かしら?」
「彼はベルンハルト・フォン・クリスタラー男爵。ブルマイスター家譜代の男爵家で現騎士団長です」
「ブルマイスター家騎士団長ベルンハルト・フォン・クリスタラーと申します。殿下に拝謁の誉を賜り恐悦至極に存じます。又、妹のクリスティーネがお世話になっております」
ベルンハルトは騎士の礼をもって答える。
「ベルンハルト騎士団長、シルディア・フォン・クロスロードである。状況を聞きたい。・・・がその前に一息入れて欲しい。水しか無いが、報告は飲みながらで宜しい」
私は椅子と水を勧める。
水を運んできた直衛兵に礼を述べ、受け取った水を飲みながらベルンハルトは、先にカチアに行った説明を繰り返す。
「状況は判った。ベルンハルト・フォン・クリスタラー、ブルマイスター伯爵の件は残念であったが、貴殿は良く主命を果たした。その功により汝を子爵に陞爵しようと思うが、カチア・フォン・ブルマイスターはどう考えるか」
貴族の正式な陞爵の話であるので、私はカチアの考えを聞いた。
「彼の功を陞爵で報いる事は良き事と存じます。ですが現在、ブルマイスター家は、アーダルベルトが率いておりますので彼の考えを確認したいと思います」
覚悟してはいても父上や兄上の戦死のショックを一切見せずにカチアは冷静に語る。
(ブルマイスター家の当主とカチアの兄は恐らく戦死しているであろう。家督はカチアか、アーダルベルトが継ぐ事となるが、カチアが敢えてアーダルベルトの意向を重んじて来たと言う事は、弟のアーダルベルトを正式のブルマイスター家の跡取りとして私に認めて欲しいと言う事ね)
「そうか、ではこの話は、アーダルベルト殿に合流してからとしよう」
私は、カチアの気持ちを汲み取り提案に乗る。
(カチアはこの戦いが終われば男爵家当主、戦功により陞爵は間違いないから子爵家当主になる事は既に私の中では決定事項よ。問題は譜代の家臣がいない事なんだけど・・・)
「ベルンハルト殿、貴殿にはご苦労だが、今一度カチアと共に第二防衛線まで戻り、アーダルベルト殿との会見の準備を整えて貰いたい」
「かしこまりました。シルディア殿下。それでは失礼致します」
ベルンハルトはすぐに立ち去ろうとする。
(ベルンハルト殿は功績を飾らず事実のみを語る。水を出しただけの兵にも礼を言い、崩壊して当然の騎士団も高い士気のまま統率している。なかなかの人物の様ね。ブルマイスター伯爵が妻と嫡子の脱出を託すだけの事はある)
「まて、」
私はベルンハルトを呼び止める。
「カチア、カチア隊は一次的にフローラに任せる。会見には貴方も同席するように。水馬車5両と食糧車2両を用意してある。カタリナ隊について避難民に持って行くように。そこまでの必要な人員も使って良し」
「馬車と食糧を分けて頂けるのですか?」
ベルンハルトは作戦行動中の軍隊から食糧の補給だけでなく、輸送手段として貴重な馬車まで提供された事に相当驚いたらしい。
「学園までの途中の補給所でも補給が受けれる様に便宜を図っておく」
私はヒルダに目で合図すると、ヒルダが「了解」と頷く。
「「お礼を申し上げます」」
ベルンハルトだけではなく、カチアも跪き騎士の礼で感謝を示す。
「大公国として当然の事だ。礼には及ばぬ。急がれよ」
(ヒルダとエリーが「相変わらず演技が下手」と言う顔で見ているので、睨んでおく。この二人組ませるのは不味いかしら。知略家同士、最近息が合っているようだし)
「「はい、シルディ様。それでは失礼致します」」
息の合った所作でカチアとベルンハルトの二人が騎乗する。
(こちらの二人も結構気が合うんじゃないかしら)
カチアとベルンハルトは荷馬車を受け取り、カタリナ隊の後を馬を並べて進む。
「カチア様」
「何?」
「お父上とお兄様を私はお守り出来ませんでした」
「そうね」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「ベルンハルト、お父様とお兄様は領民の避難する時間を稼ぐ為に覚悟を決めて籠城なされた。貴方は父の命令に従い母上とアーダルベルトと領民を脱出させた。違う?」
この数十秒の沈黙は彼にとって地獄の時間だったに違いない。
理不尽な怒りに恥じ入った私は、珍しく私から話を振る。
「はい、そうです」
力なく答えるベルンハルト
「だから貴方は騎士として何ら恥じる事は無い。私に詫びる必要も無い」
私は、騎士としての建前を述べる。
私は感情を人に伝えるのが苦手だと思っていた。
でも、シルディ様様が救援の兵を上げる決意を聞いた時、抱き着いてしまった、嬉しくて自分の感情を抑えられなかった。
「カチア様・・・・ありがとうございます」
ベルンハルトは形式的にそう答える。
彼になら私の本心をぶつけてもいいのかもしれない。
「だけれど、人として私は、父と兄を見殺しにして生き残った貴方を今はまだ許せません」
(こんな言い方をしてごめんなさいベルンハルト、私はまだ感情を言葉にするのに慣れていないの)
「ごもっともです。私は主君を見殺しにして生き残ってしまった騎士です」
はじめてベルンハルトは自分の言葉でカチアに答えた。
「ベルンハルト殿、私の怒りは理不尽です」
私は馬を止め、ベルンハルトを見つめて言った。
「いえ、人として当然の怒りだと思います」
ベルンハルトも馬を止め私を見つめて答える。
「そう、それなら、私の理不尽な怒りも含めて、私を包み込める大きな男になって下さい」
(これって、私、告白しちゃったの?そう言えば、ここに向かう途中で「気に入った」と言ったような気もするし・・・・そもそもベルンハルト殿の気持ちは?)
「精進致します」
ベルンハルトは今度は力強く答えた。
「ついでに妹のクリスティーネの面倒も見れる男になって下さい」
(少しくらいごまかさないと、恥ずかしくて話が出来なくなるじゃない)
「・・・精進致します」
今度は、少しの間を置いてベルンハルトは答えた。
私はそんなベルンハルトを見て肩の力が少し抜けた。
「では、この話はここまで。私は貴方に期待して待っていていいのかしら」
(何とか私らしくまとめられた?結構最後のセリフはシルディ様ぽくって恰好良かったのでは)
「お任せ下さい。カチア様」
言い切ったベルンハルトの言葉は力強かった。
「ありがとう」
再び馬を進め始めた私は微笑んでいたかもしれない。
敵が侵攻してくるのだから、避難民が絶対にいるはずです。
貴族らしい貴族はシルディア以外にもいるはずで、シルディアの側近の家族であれば、きっと格好のいい貴族であるはずです。
普段寡黙で沈黙の二つ名を持ちながら、うれしすぎるとシルディアに抱き着く癖のある実は感情豊かなカチアのお話です。
次回から火曜日と金曜日に更新を行います。




