初陣1
魔法とか転生とか全くない物語です。
メインテーマは、格好のいい騎士物語。
自己保身の為に民を見放した最低貴族の代わりに立ち上がる格好のいいお姉様の物語です。
「フローラ、10分後に進発する。不要な荷物、替え馬はヒルダ隊に預けてあるわね、ここから先は臨戦態勢よ」
「はい、シルディ様。用意は休息前に完了しています。」
「伝令!伝令!」
「騎乗のままで良い。報告せよ」
伝令は騎乗のままで私の前まで進む。
勿論、護衛の直属兵が何時でも護衛出来る態勢で待機する。
「第二防衛線、ウノシルディス方向から避難民らしき一団、約2000人、その後方に護衛らしき騎兵約200騎接近中、装備から友軍と思われます」
「ウノシルディスに逃げ込めなかった者達でしょうが、偽装も疑うべきです」
エリーの意見は至極真っ当である。
「前衛に伝達。一団の指揮官を連れて来るように」
「了解しました。それでは、失礼致します」
その場でくるりと騎首を変える妙技をさりげなく披露して連絡兵が立ち去る。
「伝令兵!進発に変更無し。ただしカチア隊は第二防衛線に出たらウノシルディス方向に4列横陣、戦闘態勢で待機するように。あと難民の情報を伝えよ」
「命令を受領いたしました」
伝令が走りさる。
「ヒルダ、糧食運搬馬車に何台か空きは出た?」
「野営地で全員に5日分の糧食を配布しましたので5台空きました」
「空いた5台には水を積載、それと糧食車を2台を避難民に引き渡す準備をするように」
「お姉様、部隊の物資を分けるのですか?」
貴重な糧食を2台も引き渡す命令にヒルダが異議を唱える。
「ヒルダ、貴方の言いたい事は分かっている。でも私達は難民を見捨てる事は出来ない。これは部隊の士気を保つ為にも必要な事なのよ。」
(普通、軍事行動中の部隊は難民に物資を分けたりはしない。
しかし、ここまで逃げて来た避難民であれば怪我人もいるだろうし手持ちの食糧もほとんど無いはず。
しかも、この部隊にはウノシルディス出身の兵も多い、彼女らの身内、知り合いが難民の中に必ずいる。
難民に手を差し伸べない私に不信感を抱かせない為の方策なのだけど、やっぱり私の弱さね。部隊の士気では無く私の精神を保つ為に必要なの)
「分かりました。お姉様」
ヒルダは私の弱さを見逃してくれたようだ。
「それから、再度私が指示を出すまで飲食を禁止。特に難民の前では絶対禁止。フローラ、全部隊に徹底させて」
自国領の難民の窮状を目のあたりにするであろうフローラにも指示をだす。
「かしこまりました、シルディ様。伝令集合!」
フローラが伝令を集め各部隊に私の指示を伝える。
(フローラは今のやり取りで、納得してくれたようね。その為にヒルダがひと芝居したのかしら?)
「お姉様、進発の時間です」
私の疑念等に関係なく、ヒルダは澄まして言う。
(あ~これは、絶対に芝居してたわね。後でナデナデしてあげよう)
「よし、フローラ進発!」
私もさっきのやり取りなど、無かった様に命令を下す。
「はい、クロスロード騎士団、カチア隊より順次進発!」
私たちは最後の宿泊地から進発した。
ここからはもう戦場、いつ敵と接触しても不思議はない。
「カチア隊、行軍停止、行軍隊形から4列横隊陣形に移行、第一、第二分隊右向け右ピーー、ピ」
第一、第二分隊各50騎が笛に合わせて一斉に90度右を向いて停止する。
その後ろを第三分隊、第四分隊が進み同様に90度右向いて停止すると、見事な4列の横隊が500メートルに渡って完成する。
「伝令!伝令!」
「伝令、ご苦労。して用向きは?」
カチア部隊の副官であるクリスティーネが詰問する。
部隊長であるカチアはこの程度の事では言葉を発したりはしない。
故に沈黙のカチアである。
「難民を率いていた指揮官を本部までお連れする所です」
「ベルンハルト兄様!」
クリスティーネが伝令に連れられた騎士を見て叫ぶ。
「クリスティーネ、どうしてお前がここに?」
クリスティーネの声に振り向いたカチアも近づいてくる。
「カチア様」
カチアの姿を確認すると、ベルンハルトと言われた騎士は馬からバネ人形の様に飛び上がり下馬をする。
「クリス、貴方も兄上に聞きたい事が山程あるでしょうが、それは後にして」
クリスは黙ってカチアの後ろに下がる。
「それでベルンハルト殿、貴方のお母上は、お元気ですか」
カチアは改めてベルンハルトに対峙する。
「はい、無事にウノシルディスに避難致しました」
カチアはクリスを振り向き、眼で尋ねる。
(「クリス、今はこれでいい?」)
クリスは黙って頷く。
二人の間ではこれで十分。
「この騎士は私がシルディ様の所に連れて行きます。貴方は任務に戻って良し」
カチアが伝令に向かって指示を行なう。
「クリス、部隊の指揮をお願い。現状を維持。難民に対しては我が部隊の200メートル前方で待機。水だけは1日分を残し部隊の水を分けて良し」
「ベルンハルト殿、騎乗してついて来て、本陣で報告して貰います。状況は歩きながら聞きます」
「はい、カチア様」
ベルンハルトの騎乗を確認して、カチアが進みだす。
「ウノ族の侵攻を受けご領主様は即座に領民の避難を指示、私にブルマイスター領の全騎兵隊500騎を率いて避難民の護衛を命じらてました」
「領地には2000の兵がいたはず、残りの歩兵は?」
「領主様と共に籠城されました。覚悟の上の時間稼ぎです・・・」
「籠城ですか・・・お兄もご一緒にですよね」
「はい、ですがアデリア様とアーダルベルト様だけは、我らと共に避難されています」
「そうですか、お母上とアーダルベルトは無事なのですね」
「はい、避難民と共に此処に来られています」
「判りました、それでウノシルディスに避難しなかった理由は?」
「3日前の夕刻、ウノ族の本隊に捕捉されました」
「3日前ですか」
「はい、そこで、アーダルベルト様が我々に半刻間の遅滞戦闘、歩みの早い者はウノシルディスに、奥方様とアーダルベルト様と歩みの遅い者は第二防衛線を使ってクロスロード学園に向かう様に命令されました」
「アーダルベルトはまだ12歳、見事な采配ね。3日前にウノ族の侵攻が速度が速まったのはそういう訳だったのね」
「その後我々は、アーダルベルト様の指示に従い、2回の奇襲を行い敵の追撃を振り切りました」
「敵の攻城部隊が主力部隊に追いついたのは、貴方達の奇襲に怯えて主力に合流を急いだ為か」
「何か、我々は間違った事をしましたでしょうか?」
「その判断は、シルディ様がされます。貴方は今言った事をそのまま報告しなさい。しかし、よくぞ母上とアーダルベルト、そして民を守ってくれました。カチア・フォン・ブルマイスターとして感謝致します」
「有難きお言葉にございます。それで、シルディア殿下がこの軍を直接率いていらっしゃるのですか?クロスロード大公国は援軍を派遣してくれていたのですか?それと何故妹が軍にいるのですか?それに女性ばかりで騎士がいないのは何故ですか?」
女性ばかりで構成されたカタリナ隊とすれ違いながら言う。
「フフフ、質問が多いわね。まず大公国騎士団は、ウノシルディスの放棄を決定しました。そこに100万人の民ごとね」
カチアは吐き捨てる様に言う。
「・・・公国騎士団の臆病者め・・・それでは、この軍は?」
(自らの騎士団が壊滅するまで戦い、その後も崩壊させる事なく騎士団をまとめてここまで来た彼にはそれを言う資格がある。それにしても素晴らしい統率力)
「シルディア殿下が騎士団の決定を良しとせず、シルディア殿下が立ち上げられた義勇軍です」
「さすが女傑シルデイア殿下。しかし、義勇軍であるならば、何故騎士が一人もいないのですか」
「ベルンハルト、民を守って戦った貴方に聞きます、貴方から見て彼女らはどう見えますか」
「普通の女性には見えません、戦に赴く我らと同じ目と空気を纏っています。つまりクロスロードの騎士です。ですが女の力では、男には勝てません。心構えの問題では無いのです」
「真っ当な分析ね。貴方、気に入ったわ。力の無い私達は、知恵と技術で戦う。それを凡俗共に卑怯とは言わせない。私達は私達の力の全てを領民と領土を守る為に使う。覚えておいて、ベルンハルト」
わざわざベルンハルトを振り向いた戦場に向かう騎士達を背景にしたカチア騎乗姿は一編の絵画の様に美しく、凛とした物言いはベルンハルトの心に突き刺さった。
「かしこまりました。カチア様」
(惚れた!クリスティーネが惚れる訳だ、クリスティーネには勿体ない。俺の伴侶としたい・・・兄と妹で争う事になるのか?平和になればそれも一興、妹如きに負けはせぬ)
「・・・さあ本陣です。礼を失する事の無いように」
しばしの間は、兄妹カチア争奪戦争の危機を察知したかもしれない。
シルディ様の大公国旗と学園旗、そして深紅のシルディ様の戦旗が見えてきた。
いよいよ戦いが始まりました。
先ずは、戦塵の匂いをまとった避難民との遭遇です。
絶望的状況に立ち向かう彼女達を描き切れる様に頑張ります。




