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第05話 異国の港町で、追いかけっこかよ! (上)

 腹の虫が鳴って、朝早く目が覚めちまった。オレは起き上がる。


「腹へった……」


 昨日は疲れて、晩飯をろくに食わずに寝たからだな。とりあえず朝飯だ。

 オレは、手早く身支度を整えて部屋を出た。て、宿のカウンターで店番をしていた女将に尋ねる。


「女将さん。朝食のうまい店を教えてくれ」

「今時間なら朝市やってるから、港の方に行ってごらん。とれたての海の幸を出す屋台がたくさん出てるから」

「おう、ありがとさん」


 オレは宿を出て大通りを横切った、人の波に乗って港の方へ向かう。

 

 潮の匂いと旨そうな出汁の匂いがする。朝市では、シウホでは見ないタイプの色鮮やかな魚や貝などが、所狭しと並んでいた。海産物の他にも果物や香辛料なども売られている。

 ここの海と同じ、エメラルドグリーンの魚を指して、オレは店の主人に問いかける。


「すごい色っすね。毒とかないんっすか?」

「こいつはないよ、身は柔らかいし内臓と、あと皮もいけるね。刺身はもちろん、煮付けても旨いよ。わしのおすすめは、炙りだね。にいちゃん、この町は初めてかい?」

「初めてっす。朝飯まだなんで――」

「じゃぁこいつもおまけしとくよ。あっちの屋台で調理してくれるから行ってみな」


 店の主人は魚の他に、二枚貝も数個つけてくれた。

 オレは、緑の生魚と二枚貝を言われた通りの屋台に持ってゆく。屋台の女主人が手際よく魚を捌き炙り焼きにしつつ、二枚貝は網の上でバター焼きにする。

 芳ばしい匂いが立ち込め、オレは涎が出そうになった。

 

 魚の方は白身でプリッとしていて皮のパリパリ感との食感のコントラストが楽しい。おまけの二枚貝は、なんともいえない幸せな味がした。

 魚の肝を使ったスパイススープに、パンをつけて食う。塩味とスパイスのバランスがちょうどいい。


「うんめぇ〜幸せ」


 オレは任務を忘れて、朝市をぶらぶらした。食後のフルーツもちゃっかり食べて、異国の食を楽しんだ。

 腹を満たして、大通りに戻る。

 

 大通りから、何本もの細い路地が入り組んで伸びている。初見では迷子になりそうだ。

 オレはぐるぐると路地を行ったり来たりした。路地の中にはまだ目覚めていない酒場街も見受けられる。

 観光客を演じなくても、今のオレはどっから見ても慣れないおひとり様の観光客だ。

 色々な店をひやかしながら見てまわっていると、自然と路地を含めた大まかな街の地図が頭に入ってきた。


『迷子になるなよ、面倒だから』

「!?」

 

 ピハの声が突然脳裏に響くので、オレはびっくりした。


「おまえこそ、ちゃんと隠れてろって。つーか、そばにいなくても話せるって事、前もって教えといてくれよ、ビビるだろ」

『港町の気を通して話している』

「悪ぃ。言ってることよくわかんねぇ」

『精霊はどこにでもいる。それらを中継して話してるってことだ。わかったか? 鶏アタマ』

「ウィルキーだ」

『知っている』


 オレはピハとの会話で任務を思い出し、方位磁針を見ながら散策範囲を広げる。

 すると警備兵の姿を見かけるようになった。顔を覚えられたらまずい。オレは警備兵を避けるように市街地に戻りつつ、様子を伺う。朝市とは違う方向の港――北は軍港か?

 

 方向を変え、オレは市街地の周辺を散策する。市街地の東は王宮、西と南は農園っと。オレは情報を無事受け取った後の退路を考える。

 

 どこでピハを呼ぶか……。今回は任務の性質上、目立つ場所でピハを呼ぶわけにはいかない。見つかりにくい場所で、ある程度ひらけた場所――農園の奥か?


 そうこうしているうちに、酒場街に灯りが灯り始める。

 オレは目印を探して、酒場街を彷徨(うろつ)いた。


 青と白の旗。って三軒あるんだが? どの店なんだよ。

 

 夢中になって退路確認をしていたから、昼飯食べ損ねた。また腹が減ってる。

 

 目当ての店を外しまくったら、最悪三軒ハシゴすることになる。任務があるから酒は控えたいが、酒場で酒を飲まないのは不自然だ。

 空きっ腹に酒は厳しいからちょっとは食うけど、任務があるから飲み食いに集中できない。

 

 あぁ昼飯食っとくんだった。

 迷った末に、当てずっぽうで選んだ一軒目に入った。


 オレは、出口近くのカウンター席に座り、店員に注文する。これも任務だ。


「ぶどう酒、濃いやつで」

「はいよ」


 この店なのか? 違うのか?

 オレは内心の迷いを見せないよう気をつけつつ、店内を見まわした。割と流行っている店なのか、客が多い。観光客らしき一団もいる。


 普通に、ぶどう酒が運ばれてきた。何も起こらない。オレはちょっと腹に入れようと、カルパッチョを頼んんで様子を見る。酔客のオヤジが話しかけてきた。


「あんちゃん、一人かい?、どこから来たのさ?」

「シェヘナ」


 オレは適当に周辺の都市国家の名前を言った。シウホと答えるのはまずい。


「近所じゃないか。この店はよくくるのかい?」

「ここは初めてだ」

「この店の、鶏肉とナッツの蜂蜜ローストは旨いよ」


 う、それはオレの好物。このオヤジは密偵じゃないのか?


「蜂蜜が取れるようになったから、前より値段が安くなったんだ」

「養蜂場を増やした――?」

「こないだ、べフェルの養蜂場を国が買い取ったからね」


 それって、つまりラダンが他の国の領土を買い取ったってことか? 領土拡大? オレは内心驚く。

 この世界は小さな国々がひしめいていて、そして併合されたり分裂したりしている。国境線が刻一刻と変わっている時代だ。

 オレは驚きを隠しつつ、あいづちを打った。


「そうなんだ。蜂蜜が安くなるのは嬉しいけど」

「この国は大きくなるね。シェヘナの国も気をつけたほうがいいかもなぁ」


 オヤジはそう言ってオレの肩を軽く叩くと、自席に戻って行った。


「へい、お待ち」


 頼んでないローストナッツが運ばれてくる。オレは怪訝な顔で店員を見た。店員は何事もなかったかのように厨房に戻ってゆく。

 オレはナッツの皿の下に紙が挟まれているのに気づき、その紙をそっとふところに入れた。

 この店、ビンゴ?


 オレは不自然に思われないよう、少しその店で過ごしてから、お代を払って店を出た。奥まった路地で紙に書かれている内容を確認する。

 ? 記号が並んでいるだけだ。これでいいのか? よくわかんねぇんだけど。


 とりあえず宿に戻ろうと、酒場街の路地を抜けて大通りに出る。宿に向かってまた細い路地に入った時点で、オレは尾行されていることに気づく。

 

 いつから尾行されてんだ? 店を出た時からか? それとももっと前か?

 

 オレは尾行に気づかないふりをして、宿には入らずそのまま通り越し、別の路地に入った。路地を左に何度も曲がったり立ち止まったりして、尾行者が嫌がる行為をする。


 まずいな。武器は宿に置いたままだ。ここは逃げるしかなさそうだ。

 

 オレは早足になる。すると後ろの足音も早足になる。オレは走り出す。後ろの足音も走り出した。

 オレは路地から路地へと街を縫うように走る。手には武器はなく方位磁針だけ。

 

 足音が二人に増えた。

 尾行は何人いるんだ? いやもう尾行じゃない、追っ手だ。

 

 次の路地を右に曲がったところで、オレは別のやつに斬り付けられる。その一撃を咄嗟にかわして、襲撃者の脇をすり抜け大通りに出た。バラバラと追っ手が路地から出てくる。目視で五人。

 通行人が、何事だと振り返るが、追っ手は追撃をやめない。

 

 くっそ、人目もお構いなしかよ!

 オレは大通りからまた路地に入った。方位磁針を見る。その時ピハの声が脳裏に響く。


『俺は南で待っている』

「南か、わかった、そこで合流だ!」


 オレは進路を南へとる。

 南の農場までなんとか逃げ切んねぇと――!

 


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