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第04話 夢のスローライフは、まだ遠い……

 シウホの騎士団本部に着いたオレは、ざわつくホールを足早に抜けて団長の執務室に向かった。


 団長はニヤリと満足げに頷くと、テーブルの地図を指し示す。


「次の任務を通達する。三日後に出発だ」

「はっ」


 もうかよ。団長って人使い荒いよなぁ。オレは内心舌打ちした。


「ラダン王国が軍備を増強している噂がある」


 オレは団長が指で示した国とその周辺の地図を見た。ラダン王国ってシウホから海を挟んだ南東の国か。


「密偵が情報を掴んでいるはずだ。その情報を持ち帰って来い」

「密偵とはどうやって接触を?」

「軒先に青と白の旗が立っている店を探せ。酒場だ。その店で濃いぶどう酒を注文する」

「青と白の旗の店、濃いぶどう酒、ですね」

「そうだ、港町では、あくまで観光客を装うんだ、いいな」


 団長の前を辞してオレがホールに戻ると、知らない奴が声をかけてきた。


「よぉ、ウィルキー・レイン! すごい飛行だったんだってな。リーンから聞いてるぜ、俺も見たかった!」


 そいつは快活かつでかい声で話しながら、オレの背中をバンバン叩きやがる。騎乗訓練時の打撲もまだ治ってないから余計に痛いんだが、こいつ誰?

 オレが怪訝な顔で見つめると、そいつはやっと名乗った。


「俺は、ライノ・リュリュ。竜騎士をやっている」

 

 年齢が近い感じだ。ちょい年上? 悪意は感じられない。


「今回は相棒が暴れただけだ」

「その暴れ竜を乗りこなしたんだろう? 大した者だよ、お前さん」

 

 ピハを乗りこなしたんだろうか、いや、あいつにしがみついていただけにすぎない。オレはライノの賞賛を素直に受け取れなかった。


「帰りに一杯どうだ? 俺の奢りだ」

「いや、相棒を労わねぇと……」

「その前にちょいと一杯、付き合え」

「じゃぁ、一杯だけ」


 オレは断ろうとしたが気が変わった。先輩竜騎士の知恵を借りようと思ったからだ。どうやったら竜を懐かせるのかを、オレは知りたい。早急に知りたい。


 豚肉の香草焼きやチーズなどのつまみ料理も出す立ち飲み酒場で、ぶどう酒を飲みながら、オレは相棒竜が懐いてくれない件について、ライノに相談を持ちかけた。


「竜の性格に寄り添う。オレはこれに尽きると思うね。ウチのは、ぽやっとした性格だから、こっちからどんどん願い出て動いてもらうけど、ウィルキーの相棒竜はどうなんだ?」

「プライド高くて召喚拒否する時もあるし、ノリノリになると暴走する気分屋だ」

「はははっ! そりゃ楽しいな」

「笑い事じゃないんだが。リーンさんと相棒竜を見て、あれがオレの理想だと思ったんだけどなぁ」

「リーンのとこは、まぁ特別だ。コンビ組んで長いのもあるが、性格が似たもの同士みたいだから」


 オレは竜の性格に寄り添うことについて、考えを巡らせた。ピハの場合は――。


「安易におだてるのはよくないぞ?」


 まるでオレの思考を読んだかのようにライノが忠告してきた。


「あいつらは感情の機微(きび)を感じ取ることができる。小細工や下心は見抜くぞ」

「じゃあどうすりゃいいんだ?」

「真摯な心で対峙するんだ。ありのままのお前さんをさらけ出せばいいんじゃないか」




 三日後の出発の日、屋敷の塔の屋上でオレはピハを呼んだ。

 竜騎士になぜ屋敷が与えられているのか。それは自宅に竜の着地スペースがあるからだ。オレはこの時初めて合点がいった。

 オレばほっと胸を撫で下ろす。よかった、今日は召喚拒否されなくて。

 オレが今回の任務について簡潔に説明すると、ピハは面倒くさそうに返答する。

 

『じゃ、俺はラダンの港町から見えないところまで、お前を運べはいいんだな』

「運ぶんじゃなくて、乗せてくれ……」


 初対面の時の前例があるので、オレは一応訂正しておく。


『ふん。まぁこないだ落っこちなかったしな』

「頼んだぜ」


 塔の屋上から上昇して、オレとピハはシウホを後にした。


 


 途中、無人島で休憩を挟む。そう広くはない島だが、ビーチから緑豊かなその無人島の奥地に分け入ると、湧き水を湛えた泉があった。

 オレは、顔を洗う。湧き水の冷たさが気持ちいい。


「は〜、こーいうところでスローライフを楽しみてぇかも」

『なんだ? やぶからぼうに?』

「いや、オレの夢なんよ、スローライフ。時間に追われず、こういうところで自分が食うだけの魚釣って、まったり生きるのさ」

『今と真逆の生活だな。なんで都会で騎士をやっている?』

「ぶっちゃけ貯金ゼロだったから、金貯めて、いつかこういう土地買って、まったり暮らすさ」


 オレは伸びをして、ピハに向き直った。


「ピハの夢はなんだ?」

『別にない』

「そんなことないだろ」

『夢を持つのは人間だけだ――が、そうだな、強いていうなら、長生き?』

「爺くせっ」

『若者の俺に向かって爺くさいだと? 失礼なやつ』

「あぁ、悪ぃ。でも百歳近い人が抱く夢みてぇだと思ってさ」

『精霊獣はの寿命はだいたい一千年といわれている』

「マジかよ!」


 オレの今までの人生なんざ、ピハにとっては瞬きのようなものか。……尺度が違いすぎて想像できねぇ。


 

 

 海を越えてラダンの港町近くの岬に着いたのは夕闇が迫った時刻だった。

 客船でここまで来るには約五日かかるようだが、竜で来れば約一日で済む計算になる。

 

 なんで伝令兵ではなく竜騎士にこの任務が与えられたのか――情報はより早い方がいいってことか。団長は効率重視かもな。


 港町からだいぶ離れた岬に降り立ったオレは、ピハに目立たず帰るように指示する。


 肌に当たる風が、熱帯独特の湿気を含んだ生温かさだ。ゴツゴツした岩場から港町に徒歩で向かう。

 見慣れない椰子の木々の間を縫って、夜には港町に着いた。

 観光客で溢れる港町は夜でも明るかった。香ばしく旨そうな食べ物の匂いもする。

 

 とりあえず今夜は宿をとり、オレは町の地図を見ながら眠ることにした。

 移動の疲れからか、その日はぐっすり眠った。

 この時しっかり睡眠をとっておいてよかったと、オレは後で実感する。

 

 ……まさか翌日、町中を駆けずり回る羽目になるなんて、この時は思いもしなかった。



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