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第01話 この大抜擢は罰ゲーム? (上)

「は〜……」

 オレは盛大にため息をついた。

 こんなハードな道があるなんて聞いてねー。ここ何? どこよ?


「ウィルキーさん、休みますか?」


 ガイドの少年が感情の読み取れない声で聞いてきたが、オレは短く答える。


「いいや、いい」


 意気地なしと思われたくない。

 見晴らしはいいんだ。ただ断崖絶壁に作られた細い道を歩いていると、だんだんクラクラしてくる。

 別に高所恐怖症ってわけじゃねぇけど、ここから落ちたらマジで死ぬ。


 オレの故郷は都市国家シウホ。都会育ちのオレにとって、こんな秘境は初体験。

 

 だいたい、なんでオレが竜に指名されたんだ? 竜の知り合いなんて、いねぇぞ?

 まぁ今まで何度か実戦に出て、なんとか生き残ってこれてるし――槍もちょっとは使えるけどさ。

 俺は平民で、王族じゃないし貴族でもないのよ? 平民兵士がいきなり騎士に格上げって、それも竜騎士に? わけわかんねぇ。

 

 ただ、竜に興味ないわけじゃないんだよなぁ。よく知らんけど、なんとなくカッコイイかもって思う。遠目で何度かしか見たことないけどさ。


 細い道の先、急に視界が開ける。ガイド君が台地で立ち止まって空を見上げるので、オレも釣られて空を見上げた。

 

 きらりと太陽の光が何かに反射した気がした。

 鳥? いいや、でかい? こっちに降りてくる――竜だった。

 風と共にでかい竜が目の前に降り立った。オレは思わず防御姿勢をとる。

 

 腕の隙間からオレは竜を観察した。敵意は感じられない。水晶の鱗を全身にまとったきれいな竜が翼をたたむ。

 すると頭の中に直接響くような声がした。

 

『お前がウィルキー・レイン、だな』

 

 ふぁ? 今、この竜が言ったのか?

 オレはガイド君を見る。ガイド君が視線に気づいて説明した。

 

「水晶竜は人間と意思の疎通ができます。彼はあなたの相棒ですので、普通に話して大丈夫です」

「普通に……ってったって……」

 

 オレは竜を見上げた。竜が蒼い目で見下ろしてくる。ちょっと怖い。オレは居直ってさっきの問いかけに答える。


「そ、そうだ。オレがウィルキー・レイン。おまえの名前は?」

『ピハ・リーエル・セイタ・ラ・アルーダ』

「はい?」


 オレは思わず耳に手を当てた。竜はオレの頭に直接届く声で、繰り返し名乗る。

 

『ピハ・リーエル・セイタ・ラ・アルーダ』

「名前、なっげぇ……えーと……」

 

 竜はガイド君をチラ見してから、ウィルキーをバカにしたように言う。

 

『お前、記憶力悪いな。その頭が飾りか?』

「おまえの名前が長すぎんだろ。えーっと……ピハだな、よろしく」

『いきなりファーストネーム呼び捨てかよ。馴れ馴れしい奴』


 オレはニッと不敵に笑った。

 

「文化の違いって言ってくれよ。オレの国では普通だから、あぁオレのことはウィルキーとかウィルでいいし」

『ウィルキー・レイン!』

「……ま、慣れたらでいいけどよ」


 距離感を感じるのは、オレの気のせいか? 気のせいだな、やっぱり文化の違いだ。竜の国の文化ってどんなだ? それもそのうちわかるだろ。


「では、僕はここで」

「え? ちょっと待った。契約の儀式とか、ないの?」

「シウホの騎士団本部で、契約書にサイン済みですよね?」


 ガイド君が、オレを台地に置いてさっさと帰ろうとする。なんかあっさりしてないか?

 ピハが小馬鹿にしたように言う。

 

『別に俺とお前が結婚するわけじゃないだろ』

「そりゃそうだけどよ、なんつーか、宣誓するとかさ、ない?」

「ありません」

『ない』


 ガイド君と、ピハが同時に否定する。

 気持ちの切り替えとかって文化は竜にはないのか?


「したければどうぞ」

「えーっと、必要ないならいいんだ。余計なこと言ってすまん」

「竜騎士ウィルキー・レインさんの、安全と健闘と祈ります」


 竜騎士と言われても、オレ、竜に乗ったことないよ、ガイド君。この事実、知ってるよね?

 オレはチラりと、ピハを見上げる。おとなしく乗せてくれそうにない雰囲気だ。ツンとしている。


「大丈夫です、ね? 水晶竜さん」


 ピハがゆっくりと頷く。

 ピハの反応を確認したガイド君は、来た道とは違うルートで帰っていってしまった。

 

 ピハの、ガイド君に対する空気と、オレに対する空気、違うんだけど。コイツは打ち解けるまで時間がかかる性格なのかも――。まぁ、ゆっくり焦らず根気よくだ。

 

 ガイド君を見送っていると、後ろから衝撃を受ける。どつかれたのかと思いきや、ピハの前脚に身体を掴まれていた。

 やっぱ、乗せてくれるんじゃないのね。これって荷物のように運ばれるってやつ?


『シウホ近くの浜辺まで運んでやる。ありがたく思え』

「はいよ。しっかり、捕まえていてくれ〜」


 ピハの羽ばたきで風が起こる。地面がどんどんと遠ざかっていった。

 眼下の風景が、里山、渓谷、ぶどう畑と次々と移りゆく。低気温の上空高くを飛ばずに、低空飛行してくれるのは、コイツの情けか。


 オレ、かっこ悪……。どんな罰ゲームだよ、これ。

 気を取り直して、オレはピハに質問する。


「なぁ、ピハ。おまえ、人間乗せたこと、あるか?」

『ない! そのくらい察しろ』

「胸張って言うなよ。――人間は嫌いか?」

『人間、よくわからん。俺はまだ生まれて四十年だからな』

「四十? 俺の歳の倍かよ。よくわからんて――」

『お前を選んだのは、大いなる母だ』


 つまり、大いなる母というのが、ピハをオレに遣わした存在か。大いなる母ってなんだ?

 オレの沈黙を察したピハが、補足する。


『大いなる母というのは、水晶竜の群れのリーダー的存在だ』

「あぁ。なるほど」


 眼下に海が広かったところで、オレは海にドボンと落とされる。ピハはそのまま旋回して行っちまった。

 オレが泳げたからよかったものの、カナヅチだったら確実に死んでたわ。

 雑な扱いしやがって。今度会った時は覚えてろよ、ピハのやつ。ってアイツにまた会うにはどうしたらいいんだ? またガイド君雇って、あの断崖絶壁の細い道を登るのかよ? 嘘だろオイ。



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