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まあ、落ち着け

 衛士とヴィーのどこかかみ合わない会話は、その後も続いた。

 大声で騒げば周囲で出国の検閲待ちの者だけでなく、商売をしていた者達も気付

くのは当然で、だんだんと人集りが出来てきた。

 とは言っても、自分に騒動が飛び火しないよう、遠巻きに事の成り行きを見守っているだけなのだが。

 だが、遠巻きに見守っているだけでは済まない者達もいる。

 この関所を護る衛士達だ。

 この騒動で検閲に並んでいた者達が列を離れたのを幸いと、最少人数だけを関所の門に残し、騒ぎを起こしている衛士の応援のため人集りの中心へと向かった。


「だーかーらー! これが商品っておかしいだろーが!」

「そうなんですか?」

「そ・う・な・ん・で・す・よ! 大体、どうやってこいつらを捕縛したんだよ!」

「えっと、こう…殴って?」そう言って、ヴィーは拳を握る。

「何で疑問形なんだよ! ってか、こいつら全員をか!?」

「そうですけど」 


 ヴィーが乗ってきた荷車に無理やり積み込まれた男達。

 そちらに目を向けた衛士は、さらにヒートアップする。


「んで、何でこんな縛り方なんだよ!」

「逃げ出さないように?」


 野盗共の縛り方が鬼畜なのは前述した通りなのだが、実はその縛り上げた蔦は全員が繋がっており、誰か一人でも逃げ出そうと荷馬車を降りれば、残った者共の首が絞まるという恐ろしいもの。


 そんなヴィーと衛士が大声で怒鳴り合って(怒鳴っているのは衛士だけだが)いる真っ只中に応援に駆け付けた衛士達も、荷台の男共を見てドン引きしていた。

 だが、勇敢にも渦中に飛び込んだ衛士がいた。

 ヴィーを大声で問いただしていた衛士と違い、その鎧には金の縁取りがしてあるところを見ると、この関所でも上位の衛士なのだろう。


 その衛士はためらうことなく、真っすぐに騒ぎの中心へと向かって声をかけた。


「おいおい、どうしたんだ? もう少し声を抑えろ」

「あ、隊長! 聞いて下さい、こいつが…」


 ヴィーの対応をしていた衛士が、隊長と呼んだ男に向かい文句を言おうとしたが、


「書類は?」


 それを遮り、そう言うと同時に手を衛士へと伸ばす。


「あ、え…あ、これです…」


 落ち着き払った隊長に、衛士は言葉も継ぐことも出来ず、さきほどヴィーから受け取った書類を手渡した。


「ふむ…名前はヴィードか。書類上、不備はないな」

「いえ、隊長! 確かに書類の上では不備はありませんが…」


 隊長の言葉に衛士が言葉を返そうとするが、


「まあ、落ち着け。こんな衆人環視の中で騒ぎたててどうする。あ~君…ヴィード君だったかな? ちょっと私についてきてくれるかな?」


 それを遮り、隊長がヴィーへと声をかけると、こくりと無言でヴィーは頷いた。

 その後、隊長は滞っていた検閲を再開する様に集まっていた衛士達へと支持を出すと、ヴィーを連れて関所の一画にある小屋へと向かった。



 隊長の後についてヴィーが入ったのは、大河と関所の両方に窓のある小部屋。

 どうやら取調の為の部屋というわけではないようで、壁際には剣や掛けられており、置かれている樽の中には多数の槍が刺さっている。

 部屋の中央には椅子とテーブルがあり、その一つに隊長が座ると、テーブル越しの対面の椅子を指してヴィーにも座るように促した。

 それに素直に従い腰を下ろしたヴィーに、隊長は手を口元へとあて小声で、


「ヴィー殿、帝国で何かあったのですか?」


 そう囁かれた瞬間、ヴィーは即座に椅子を蹴倒して壁際まで飛び退り、


「お前…何者だ?」

「そう警戒しないでください」

 

 隊長の一挙手一投足を注意深く見ながら、低く冷たい声で問い返した。

 書類上、ここにヴィーはいない。

 あくまでもここにいるのは、行商人のヴィードである。

 だが、目の前のこの男は、正しくヴィーを認識し、目的までも言い当てた。

 これで警戒するなと言われて、はいそうですねとなるはずが無い。


「妖精女王の騎士、ヴィー殿。実は私もあの王都での戦いに参加していたんですよ。なので、救国の英雄の顔を見間違えるなんて事、あるはず無いじゃないですか」


 そう言って隊長は、にっこりと笑った。

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