…これ?
ヴィーやエルの住むオーゼン王国と隣国のハーデリー皇国の国境は、とても広い川幅を持つ大河が境界となっている。
いわゆる自然的国境というやつである。
国境となっているこの大河には、たった一か所だけ大きな橋が架かっている。
これは偶然にも川の流れの中から幾つかの巨大な岩が突き出ていて、それぞれがほぼ一直線に並んでいるためであり、これらをを繋ぐことにより橋が成り立っている。
両国の街道に繋がっている橋はここだけであり、故にこの橋の両側にそれぞれの国に関所が設けられているのである。
オーゼン王国とハーデリー皇国では、特に友好的な国交を結んでいるわけではないが、さりとて敵対的な関係でもない。
かろうじて民間レベルでの交易はあるという程度の関係である。
互いの国の危機となれば話は別だが…。
オーゼン王国は、他に二国と国境線を持つが、それは長い歴史の中で、それぞれの国との戦争や話し合いの結果生まれたものであり、特に入出国に規制が掛かっているわけではない。
規制がかけられているのは、オーゼン王国とハーデリー皇国だけである。
だが、先にも述べたように民間レベルでの交易は盛んに行われており、検問で問題がなければ関所は問題なく越えることが出来る。
とはいえ、検問がある関所は両国側に設けられているため、そこを直接超えて商売する者もあれば、大河に架かる橋の両側で商売する者など様々ではあるのだが。
「ヴィード君だったかな?」
「はい」
オーゼン王国側の関所で、ヴィーは出国の許可証(無論、偽名である)を衛士に手渡し検閲を受けていた。
「うむ、許可証におかしな所は無い…な」
「はい」
許可証とヴィーの顔を何度も目で確認する衛士。
「越境目的は行商の為…で、合ってるかい?」
「はい」
幾分、衛士の顔に戸惑いが見えるが、ヴィーはずっと無表情。
「そう…か。んで、商品は………………これ?」
「はい」
ヴィーの乗ってきた荷車には、丈夫な蔦で少々鬼畜な縛り方をされたうえ、がっちりと猿轡をされた薄汚れた男達が無理やり積み込まれていた。
今まで努めて冷静を装っていた衛士は、ここでとうとう何かが切れたようだ。
「んなわけあるかー! 行商人の商品が人だとー? お前は奴隷商人なのかー!?」
「…?」
急に怒鳴りはじめた衛士に、ヴィーは何を言っているのか理解できずに首を傾げる。あまりの騒ぎに、周囲の人々も「何だ何だ」と集まってくる。
「奴隷ではなく、野盗ですよ?」
「ああ、そうか。野盗ね…野盗…ってぇ、お前みたいな子供一人でどうやってこんな人数を倒せるってんだ! ってか、野盗が商品って、おかしいだろうが!」
ヴィーの冷静な返しに、衛士は顔を真っ赤にして怒鳴り散らす。
その様子に男達を連れてきたヴィーも少々困惑したが、そこで「あっ!」と小さく声をあげて衛士が何を言いたかったのかに気づいた。
「勿論、こいつらが持ってた武器なんかも持ってきてます!」
どうだ! と言わんばかりにドヤ顔になったヴィーに、
「そうじゃねーだろーーーーーー!」
さらに衛士の声が大きくなったのは、いうまでも無い事だろう。




