非常に残念な2人
頭に血が上った男達に冷静な判断などできるはず無い。
冷静な判断すら出来ない者共に、万が一にもヴィーが遅れを取ろう筈もなく、切りかかってきた男の一撃を上半身だけで躱し、手に持つ鉄棒で顎先を一閃。
たったそれだけで男は昏倒する。
そしてまたヴィーは元の姿勢へと戻る。
この間、人が瞬きするほどの一瞬の早業である。
目の前で起きた事にも関わらず、男共には何が起こったか理解できない。
ここでヴィーの戦闘力のい高さに気づいていれば、きっとすぐさま逃げ出したはずだが、何度も言うように男共は頭に血が上っていた。
「てんめぇ! 何しやがった!」
ヴィーが何かしたであろうことまでは理解できても、鉄の棒を手にし佇むヴィーの姿からは想像も出来なかったようだ。
男共は全員、単身でヴィーに向かうのは危険と判断したらしく、示し合わせたわけでもないのに、一斉にヴィーへと殺到した。
手に得物を持つ野盗が一斉に一人の少年に向かう。
そう聞けば、普通は成すすべもなくヴィーが倒される姿を想像するだろう。
しかし現実ではそうはならない。
多人数対一人。確かに不利ではある。
しかし、同時に一人へ攻撃を行えるのは、2人から3人が限度である。
そこをきちんと理解し、その人数できちんとチームワークをとり、波状攻撃を続けることが出来るのであれば、いくらヴィーの戦闘能力が高いとはいっても多少は善戦出来たであろう。
例えば弓などでの遠距離攻撃でけん制をしつつ、強固な盾でヴィーの攻撃を防ぎ、前衛が剣などを使い近接戦闘をする…という形でチームで戦いを挑む…とか。
だが所詮は野盗へと落ちぶれた男共。そんな知恵などあろうはずもない。
いや、知恵どころか協調性も無いのだから、チーム戦など頭の片隅にも無い。
しかも遠距離攻撃の手段すら持ち合わせていない。
全員が全員、剣を手にしているのだから、最初から勝ち目などないのだ。
一般人であれば、自分たちより大人数の野盗達が、手に手に剣を持ち襲ってくれば、真っ先に頭の中を恐怖が占めたであろう。
己に対して獲物が恐怖を感じ震え縮こまった姿を見るのは、野盗としては快感だ。
恐怖に震える獲物を甚振り嬲り、女なら犯し、金目の物は略奪する。
それが野盗としての快楽であった。
今までの相手であれば、それで良かっただろう。
だが、相手は魔物数千を前にしても恐れることも無くたたきに身を投じ、傷一つ負うことなく屠ることが出来る、最強の戦士である。
結果がどうなったかなど、言うまでもないだろう。
野盗共はほんの数舜の内に、一人残らずヴィーの鉄の棒の餌食となり、地に伏すこととなった。
森の中から丈夫な蔓草を引きずり出し、倒した野盗共を縛り上げたヴィーは、
「エル、終わったぞ」
そう荷台のズタ袋に向かい声をかけた。
「ふあぁ~…」
っと、欠伸をしながらエルが這いずり出てくると、
「これで商品はばっちりだな」
後ろ手に男共の両手を縛り上げ、その結び目からは首へと蔓草が回された。
これは、手を動かそうとすると首まが引っ張られるという、結構鬼畜な縛り方だ。
「商品って、これ~?」
エルがふわりと飛び上がり、縛り上げられた男共を見下ろす。
「ああ。途中で森ウサギでも獲ろうかと思ってたが、これも金になりそうだろ?」
以前、ヴィーが森で妖精狩りと思わしき野盗をとらえた時も幾らかの金銭になった事を、エルも覚えていたのだろう。
「やったね! これなら立派に行商人だね!」
満面の笑みでエルはヴィーの頭の上をくるくると飛び回った。
ヴィーが住む村は、街道から少し離れた場所にあるため、行商人は来ない。
エルは長らく妖精の村で暮らしていたため、そもそも行商人が来るはずがない。
ヴィーとエルが暮らし始めた村では、必要な物資は少々離れているがギルドの支部がある隣村の商店まで買いに行く。
行商人も、大きめの村や町を行き来している。
なので、本物の行商人を2人は知らなかったのだ。
行商人が扱う商品は、一般的に日持ちのする食品や調味料、衣服などの雑貨が主であり、稀に貴金属類などを扱う。
行商人が自分で獲物を狩ったりしないし、当然だが野盗を商品になどしない。
第一、長距離を移動する行商人が、不意の雨などで商品が濡れないようにするため、幌も無い農家などが使う様な荷車で遠路を行き来するわけがない。
こういった荷車は、主に近距離の移動でしか使わないのが常識だ。
ヴィーとエル。
2人の戦闘力は非常識な程に高いが、社会常識は非常識なまでに低かった。
非常に残念な2人である。




