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『ねぇ、何人?』

『多分、10人ちょっとだな。エルは、そのまま寝てていいぞ』


 森の中で野盗の集団に囲まれる前、荷台のズタ袋がもぞもぞと動いていることに、ヴィーは気づいた。

 なのでヴィーは、その中でおやつの木の実を貪り、だらけているであろうエルに念話で告げた。


『ん~? 出なくていいの?』

『ああ。こいつらが妖精狩りじゃ無いという保証も無いしな。ま、違うだろうが』

『ふ~ん。んじゃ、終わったら起こしてね』


 そう告げたきり、エルの入っているズタ袋は静かになった。

 これは、ヴィーがこの程度の人数の野盗相手で、傷一つ追うことなく制することが出来るというエルの信頼の証でもある。

 いや、現実的に考えても手も、ヴィーが相手であれば万が一にもその心配はない。

 ただ、エルが飛び出して野盗に捕まったとすると、その万が一が起こりえるかもしれないので、ヴィーもエルもこういった対応を取っただけなのだが。


 仄暗い森の中で野盗に囲まれたヴィーは、荷車の御者席から静かに地に降りた。


「なんだガキじゃねーか」

「おい、何にも積んでねーぞ!」

「まてまて、こいつの馬だけでも結構な金になりそうだぞ!」


 ぞんなヴィーを見た野盗共は、好き勝手なことを口にしていたが、それすらヴィーには煩わしかった。


 「はぁ…」とため息を一つ吐いたヴィーは、御者席の下に隠しておいた片手を伸ばした程度の長さの鉄の棒を抜き出した。


「お! このガキやるつもりだぞ?」

「この人数相手にガキ一人で何が出来るってんだよ!」

「おい、良く見ろ。このガキが持ってるの、ただの棒じゃねーか!」

「ぎゃははははははは!」


 本当に騒がしい奴らだと思ったヴィーは、


「面倒くさいから、さっさと掛かってこい」


 怒気を孕んでいるわけでも、はたまた声を荒げるでもなく、落ち着いた声でそう言い放った。


「てんめぇ! 死にてえのか!」


 野盗の一人がその言葉を耳にするや否や、即座に腰に差している剣を抜き放ちヴィーへと一直線に向かう。

 それを見たほかの野盗達も、手に手にナイフや鉈の様な得物を振りかざしてヴィーへと向かった。

 多分、それらの獲物は、どこかで拾ったかしたものだろう。

 どれも表面に錆びが浮かび、刃こぼれさえしている。

 ヴィーはほんの一瞬でそれらを観察すると、心の中で「やれやれ」と、また盛大にため息を吐きながら、ただ鉄の棒を持った右手をだらんと下した。


 最初にヴィーの鉄の棒の餌食となったのは、やはり一番最初にヴィーへと突っかかったぼろ布を纏った野盗であった。


 真上に振り上げた錆びた剣を真っすぐにヴィーへと振り下ろしたが、左足を半歩だけ男の右へとずらし、次いで体ごとそちらへと移動。

 たったこれだけで剣の軌道から外れた。


 実は、剣を振るというのは、意外と難しい。

 剣を振り切りた後、しっかりとそれを止めるだけの筋力と技術が絶対に必要だ。

 それがなければ、体制は崩れ、場合によっては剣が地面とぶつかる。

 今回の様に完全にヴィーに見切られたうえ、咄嗟に振り切った剣を止めて戻すような筋力も技術も無い場合、それは完全な死に体となる。

 そうなってしまうと、いかに身長でヴィーより頭一つ二つ大きい相手であっても、もはや敵ではない。

 だらんと下げた手首を少しだけ動かし、そのまま鉄の棒を真っすぐに野盗の喉へと突き立てた。


 いや。正確には、ヴィーが立てた鉄の棒の先へと、野盗自らが体制を崩して突っ込んだだけなのだが。


 だが、切りかかった仲間が一瞬にしてどうと倒れたのを見た他の野盗達は、


「てんめぇ、何しやがった!」

 

 怒鳴りながら顔を一瞬で紅潮させた。


 倒れた男の陰で、ほかの野盗には何が起こったのかわからなかった。

 だが、ヴィーが何かをしたのであろうという事だけは理解できたようだ。


「見えなかったか?」

「!!!!」


 そんな野盗達を、ヴィーは煽った。


「それじゃ、お前たちでも分かるようにしてやるから、掛かって来い」


 決して大きくはないヴィーの声だが、よくよく落ち着いて聞けばそこに何の感情も籠っておらず、また絶対的な自信に裏打ちされた冷静な声だと分かったはずだ。


 だが、仲間の一人を倒され頭に血の上った男達が、そんな冷静なわけがない。

 無論、これもヴィーの作戦のうちである。



『エル、喜べ。商品が出来るぞ』


 きっと今頃、袋の中で欠伸をしているであろう相棒にヴィーが念話を飛ばした。


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