出立
数名の衛兵に見送られ王都の城壁を出たヴィーは、馬車に繋がれた名馬の首筋を撫ぜながら、エルが戻ってくるのを待っていた。
まあ、先ほど連絡があったように、どこかでベリーを抱えられるだけ摘んでいるので遅れているのだろうが、別にそれを咎めるつもりはない。
妖精族は、たとえ生まれが違い離れていようとも、大勢の仲間が死に瀕した時には、何故か心が共鳴したように伝わるらしい。
これは妖精が生まれ出る"生命の樹"が、もとは一本の"生命の樹"を祖としており、この世界各地にある"生命の樹"がそれから株分けされた物であり、全妖精が血縁関係にある姉妹の様なものだからかもしれないが、はっきりとした理由は不明である。
エルが道草をくっているということは、つまりはヴィー達が救援に向かおうとしている妖精達は、『切羽詰まってはいるが、危機的状態ではない』と考えられる。
言葉にするとなんとも言えない状況ではあるが、そうは言ってものんびりして良いという事にはならない。
何故なら、大勢が死に瀕した時に共鳴が起こるわけで、少人数が死んだとしても、それが伝わらないからだ。
なので、出来るだけ速やかに出立したいのだが…。
『お待たせ~!』
そうヴィーがぼんやりと考えていると、頭上の陽の中から一直線に何かが降下し、音も衝撃も無くヴィーの目の前で止まった。
声が頭の中に響いていたので、それがエルであるとヴィーには分かったが、周りの衛兵達は、瞬時に現れた美しい虹色の羽をもつ妖精がいきなり現れたように見えた。
一瞬だけ警戒はしたものの、満面の笑顔でこの近隣でブラック・ベリーと呼ばれている木の実を両手いっぱいに抱えているエルの姿を目にした衛兵達は、小さく胸をなでおろしていたが。
「お帰り。その実は荷台の袋に入れておけよ」
ヴィーも何事もなかったかの如くエルにそういうと、
『はーい!』
と、元気よくエルが手を挙げて返事をした。
その際、何個かブラック・ベリーの実が転げ落ちたので、ヴィーが拾ってやった。
衛兵から必要な情報も得、エルも戻ってきたので、
「さて、相棒も帰ってきましたので、そろそろ出立します」
『いってきまーす!』
ヴィーは静かに頭を下げ、エルは元気いっぱい両手をブンブンと振って、お見送りの衛兵達に別れの挨拶をした。
ちなみに、ここはこの王国で最も栄えている王都を囲む城壁にある最も大きな門の前である。
当然だが、多くの人が行き交う場所でもある。
つまりどういう事かと言うと、多くの人々が遠巻きにヴィーやエルと衛兵達を見守っており、がっつりと全てのやり取りが聞かれていたという事(エルはその身体の大きさ同様に声量も小さいものだったが、その楽し気な雰囲気を全身で表現してたのは、誰の目にも明らかだったらしい)。
ヴィーも衛兵達も、その事実に気づいてはいたのだが、誰も声を掛けたりしようとしなかったので、敢えて気づかぬふりをしていたのだが…。
『英雄様~! いってらっしゃ~い!』
『ヴィー様、万歳~!』
『お気をつけて~!』
『エルちゃん、かわいぃ~~!』
『王女様をよろしく~!』
『エル様~! 踏みにじって~!』
ヴィーとエルが出立すると耳にするや否や、急に周囲の人々が騒ぎ立てた。
中には、どうにも誤解を招く様な事を叫んでいるものもいたのだが、それを訂正しにあの観衆の中に行く勇気は、顔を真っ赤にしたヴィーには無かった。
無敵の妖精騎士ヴィーにも、弱点はあったようだ。
ちなみに、エルは元気いっぱいに観衆にも手を振っていた。
観衆の大歓声を背に、そそくさとヴィーは馬車を目的地へと続く街道へと向かわせ出立する事となった。
かなりドタバタの出立であったが、必要な物資も情報も手に入れた。
あとは目的地である、救助すべき妖精の村へと向かうだけだ。
とはいえ、未だ妖精狩り達から逃げ姿を隠している傷ついた妖精も何処かにいるかもしれないので、速度はあげずにゆっくりと周囲を得るに探索してもらいつつ、先へと向かう事にした。
こうして、ヴィーとエルは、王都を旅立った。
目的地は、オーゼス王国の隣国。
この世界で最大の領土を持ち、女帝が統治するハーデリー皇国へと向かって。




