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(閑話)エルとヴィー2

 妖精達の愛情をいっぱいに受けて、ヴィーは育った。

 自分の生まれについても、十分に理解できる年齢になった。

 生みの親が誰かわからないのは少し寂しいが、それでも惜しみなく愛を注いでくれる妖精達に対して、深い感謝とそれ以上の親愛の情を持っていた。

 賢く心優しく育ったヴィーは、12歳になった。


 その日、めったに行けない虹の花園に、エルを含めた数人の妖精達と花を摘みに来た。

 

 虹の花園に咲く花は、その花弁が薬になる。

 怪我や病気などに縁遠い妖精の村だが、いざという時の備えに常に一定量の薬は常備していた。

 実は、ヴィーが村に来るまでは、薬は作っていなかった。

 なぜならこの薬は、妖精種にしか効果がないから。

 人種であるヴィーには、まったく効かないというわけではないが、擦り傷を治療するだけでも虹の花園が咲かせる数百年分の花が必要なほどだからであった。

 なので妖精よりも病気も怪我もまだ多いであろう子供のヴィーのため、村に残っていた貴重な治癒の霊石を使用する事にし、治癒の霊石を温存するため妖精自身はもしもの時には薬を使用するようになった。


 虹の花園には、子供のヴィーが歩いて朝から晩までかかる。

 早朝、村を妖精達と出発し、真っ暗なトンネルを光の霊石をたよりに、妖精達と進む。

 途中、何度も休憩をくり返しながら、ヴィーは歩き続けた。

 トンネルを抜けた時には、辺りはすっかり暗くなっていたが、月光の下の花園は綺麗だった。

 春まだなお肌寒さが残る夜だったが、持ってきた厚めの布にくるまり、妖精たちと話をしながらトンネルの中で眠りについた。

 目が覚めると、花園からトンネルにあたたかな光が降り注いでいた。

 ヴィーと妖精達はトンネルを出ると、その花園の美しさと花の香で誰もが笑顔になった。

 誰ともなく、わーっと声をあげながら、花園に駆け込んだ。

 

 ひとしきり花園を堪能し、花弁を草で編んだ小さな籠に摘み終わり、皆で空を見ながら寝転んでいると、空に黒く動く小さな影を見つけた。渡り鳥だ。

 ヴィーは妖精種しか居ない村で育ったため、その生き物が珍しく無意識に立ち上がり歩き出した。

 妖精達が呼び止める声も耳に入らず、鳥を目で追いながら歩き続けた。

 ヴィーは、花園を出てしばらく経った時、初めてその異変に気付いた。

 

 目の前に真っ白な幹の木がいつの間にか立っている事に。

 そしてヴィーの意識は途絶えた。

 地面に広がる深紅の血と妖精たちの悲痛な叫び声だけが、美しい虹の花園に広がっていった。


 酷く驚き叫び声をあげたが、いち早く気を取り直したのはエルだった

 トンネルに飛び込み、全速力で村へ、女王の元へと飛んだ。


 エルの一報を聞いた女王の顔は、だれが見てもわかるほど青ざめていた。

 すぐにエルに治癒の霊石を持たせ、他の妖精達も全員花園へ向かわせた。

 妖精達も一様に顔を青ざめさせ、一斉にトンネルに飛び込んだ。

 一刻も早くヴィーの元へたどり着くため、無言で全力で飛んだ。


 超速を誇るエルが、霊石をヴィーを囲む妖精達を押しのけて傷口に押し付けたのは、ヴィーが倒れてまだ半刻にもなってなかった。

 治癒の霊石を使っても、傷口はなかなかふさがらず、血と共にヴィーの命が流れ出る幻想が妖精達には確かに見えた。

 だが必死になり治療を来ない、妖力が足りなくなれば、エルが、妖精達が、命を燃やすように魔石に妖力を補充して治療を続けた。

 誰も諦めなかった。生きて欲しかった。優しく笑いかけて欲しかった。また一緒に遊びたかった。

 みな涙を流しながら、必死に呼びかけ、治癒し続けた。

 村の妖精が到着し、その光景に呆然とした。

 エルは、『早く早く! ヴィーを村に!』と、立ち尽くす妖精達に叫んだ。

 妖精全員でヴィーを取り囲み、そっと持ち上げると、トンネルをその羽が千切れるほど羽ばたかせながら、村へと飛んだ。

 トンネルの中を、出来る限りの速度で、しかし揺らしたり落としたりせぬよう細心の注意を払いながら運ぶ。

 その間も休まず、虹色の羽を輝かせ、エルは治癒を続けた。

 トンネルの中には、所々に点々と血の跡が残っていた。


 女王は、村から出れない自分を呪った。

 結界の維持の為この村を出れない女王は、ただヴィーの身を案ずるしかできなかった。

 トンネルの出口をじっと見つめたその目が、ヴィーを運ぶ妖精達を映した。

 真っ赤に染まったヴィーを見るや否や、すぐに家へと運ぶように妖精達に指示を出すと、自らも走って後に続く。

 家に寝かされたヴィーの傷は酷く、胸が大きく抉れ傷つき大量の出血があったという。

 治癒の霊石を使い、運ぶ途中も必死に治癒を行った結果、体の損傷は目に見えて、小さくなってはいるがまだ深いうえに、流した血が多すぎた。 

 結界が下がるのも厭わず、女王はその妖力を治癒に充てた。

 諦めはしない。諦めたくはない。全ての妖精が同じ想いだった。

 しかし、誰もが死の訪れを感じていた。

 

 エルは考えた。決して頭が良い方ではないエルだが真剣に考えた。どうすれば大好きなヴィーが助かるのか、どうすればまたヴィーと遊べるかを。どうしたらヴィーがまた笑ってくれるのか。

 そしてたった一つ閃いた方法を女王を伝えた。

『エルの妖力を…ヴィーにあげる 』

 返事も待たず、エルはヴィーの胸の上で、小さな小さなナイフを自らの胸を突き立てた。


 エルは、ヴィーの少しだけ茶色の混じる黒い瞳が大好きだった。

 

 最初に見つけたのは、エルだった。

 名前を付けたのも、エルだった。

 村で育てたいと女王と一緒に皆に頼んだ。 

 1つの果物を分け合って食べた。

 エルの羽を綺麗だと褒めてくれた。

 抱きつくと良い匂いがした。温かかった。

 笑顔が大好きだった。

 

 生きて欲しかった。

 

 そのヴィーの目が開かなかった。どんどん冷たくなって行った。

 血の臭いがした。苦しかった。悲しかった。涙があふれて止まらなかった。

 もういちど笑顔取り戻すため、その身を使う事を決めた。


 自分はいっぱい生きた。特別な妖精種として、自由に外の世界も見に行けた。

 人種の国の街にもこっそり行って、王様とも話をした。

 美味しい菓子という物も食べた。

 だからもういい。十分生きた。

だから、エルは女王に告げた。


『エルの妖力をヴィーにあげる 』 


 ◇


 ヴィーのその傷口の上で膝をつき、皆が止めるのも聞かず、小さなナイフをエルは胸に突き立てた。

 その誰よりも豊富に妖力を含んだその血を、ヴィーに与えるように抱きついた。

 ナイフはエルの身体の重みで更に押し込まれ、胸からは血が止めどなくあふれ出し、妖精達は悲鳴をあげた。

 エルの血と共に妖力が流れ出て、ヴィーの傷口を覆って行った。

 どんどん気が遠くなって行くエルの耳には、女王の声も妖精達の悲鳴も聞こえなかった。

 生きて笑って。それだけを祈りながらエルは目を閉じた。


 

 突然のエルの行動に、ヴィーの治癒を続ける女王が叫んだ。

『何やってるの! 早く誰か薬を! 早く!』

 女王の声に、妖精の1人が薬をすぐに持って来た。

 すぐにエルに薬を飲ませようとしたが、口を堅く閉じ開けない。

 絶対にその全てをヴィーに与える・・・そんな意思が現れていた。

 効果は薄いがあるだけ薬を振りかけ、少し息をした口に無理に流し込んだ。

 エルは咽たが飲んだ様で、傷口は綺麗に塞がった。

 ただ妖力が極端に減っているため、意識は戻らなかった。

 横目でその様子を見ていた女王だったが、ヴィーの異変に気が付いた。

「…エ…ル…」

 確かにそう口が動いた。声が聞こえた。

 

 翌朝、エルは目を覚ました。

 自分が助かってしまった事、ヴィーがまだ目が覚めない事に涙を流した。

 だが、女王からヴィーが確かにエルの名前を呼んだと聞き、あれからずっと女王はヴィーの治療を続けてはいるが、なんとか一命は取り留めたと聞き、安心したのかゆっくりとまた目を閉じた。



 僕は何をしているんだろう?


『死なないで…。もう一度笑って…。大好きよ…。だから…生きて…ヴィー… 』 


 どこかで温かく優しい声がする。


 ここは何処?

 君は…誰?

 僕は…誰? 


 どれぐらい治癒の霊石を使い続けただろう。

 何度も何度も繰り返し妖力を補充し、幾度目かの夜を迎えた時、ヴィーは目覚めた。


「僕は…エ…ル…? 」


 目覚めたヴィーの最初の言葉だった。

 その瞳は妖力に満ち、虹色に輝いていた。

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