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名馬…?

 王女が(強制)退場した謁見の間では、マイラフ国王とヴィーの話し合いはすでに終わろうというところであった。


「しかしヴィーよ…希望通りに改造したとはいえ、本当にあの様な馬車で良かったのか? もっと良い馬車も用意できるのだぞ?」

「はい」


 妖精女王が要求したのは、他国への出国に関する手続きと、そのために必要な馬と馬車であり、マイラフ国王が気にしているのはその馬車に関するもの。


「妖精女王の要求通りに、荷馬車の床板を二重にしてお主の強弓やらを隠せるようには改造したが…あの様な粗末な見た目の馬車では、逆に怪しまれたりはせぬか? 護衛に何人か付ける故、今からでももう少し見目の良い馬車に変えるとか…」

「いいえ、女王の要求通りの仕上がりになっているのでしたら、それで結構です」


 マイラフの心配をよそに、ヴィーは努めて落ち着いた声で答えた。


「むぅ…あの様な見た目の馬車でなければならぬ理由でもあるという事か…。あい分かった。では、馬車は王城の正門前に準備させよう」

「ありがとうございます」

 

 ヴィーがそう言って深く頭を下げた時、


「ただし、女王は馬車を牽く馬には何の注文も付けておらなんだでな、こちらでそれなりの馬を選ばせてもらったぞ」


 頭上に振る国王の言葉に、微妙に嫌な予感を感じたヴィーであった。



 王城の正門前には、確かに妖精女王を通してヴィーが要求した通りの仕上がりの荷馬車が置かれていた。

 どこからどう見ても使い古されくたびれた様相の。本当に駆け出しの商人や農家が収穫物を山盛り積むような荷馬車。

 荷台の床板は二重底となっており、そこにヴィーが愛用する強弓や鉈など、そう嵩の高くない物であれば、そこその量を隠すことが出来る。


 ヴィーが荷馬車をチェックしていると、そばに立っていた衛兵がこっそりと、


「お願いですから、これでご禁制の品とかを運ぶのはやめてくださいね」


 冗談めかしてそう言ってきた。

 無論、ヴィーにそんな気は毛頭ないが、「勿論です」とだけ返した。

 その答えに衛兵も笑っていたところを見るに、本気ではなかったのだろうし、ヴィーがそんな悪事を働くとも、思ってないのだろう。


 そもそも、ヴィーが本気で望めばこの王国でそれ相当に高い地位を得る子は出来るし、それに対して誰も異を唱えたりはしないだろう。

 だいたい、先の魔物の襲来の折、国王陛下よりそれなりの褒賞を提示されたにも関わらず、それをすべて固辞したのだ。

 別に褒賞内容が不満だったというわけではなく、魔物の襲来の撃退という大偉業も、ヴィーにとっては妖精女王に名を受け、王国と妖精の間の取り決めによるものであったため、受け取るいわれが無いと断じただけの事。

 それなりの偉業を成した英雄に対し、何の褒賞も与えないというのは国王としてだけなく、王国として沽券にかかわるため、今のところヴィーに対する褒賞に関する事柄はいったん保留という扱いとなっていた。



「おっと、きましたな」

 

 衛兵が視線を移した先には、王城の石畳をカッポカッポと蹄の音を響かせ、衛兵に手綱を牽かれて向かってくる青鹿毛の馬。


 一目見ただけもその馬体はがかなり大柄であり、こんな貧相な馬車を牽くような馬ではないと思えるほどに体は絞り込まれ、まるで彫刻の様にくっきりと浮かび上がる身体中の筋肉が、それが名馬であることを如実に物語っていた。


「ヴィー殿。こちらが陛下がお約束になった馬です。この国で5本の指に入る名馬ですよ!」

 

青鹿毛の馬を牽いてきた衛兵は、自慢げに胸を張ってそう言ったが、


「ブルル…」


 その紹介に、馬はどうやら不満だったようで、小さく首を振った。

 

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