きちんと理解してますか?
「何をしているのですか、アメリア。こっちに来て座りなさいな」
ゆっくりとティーカップをソーサーに戻しながら、その部屋の主が口を開いた。
「……はい」
何の感情も感じさせない女性の言葉であったが、アメリア王女は有無を言わせぬ迫力を感じ、ただ一言だけ返し、大人しく女性の向かいへと歩き椅子に座った。
王女が着席すると同時に、先ほどまで王女を引きずってきていた侍女たちは、すっと室内へと向かい頭を下げると、そっと退室した。
窓際に座る女性、それはもちろんこの国の王妃であるジェーンだ。
王妃の向かいに着席したアメリアは、伏目がちに王妃の様子を伺いみる。
その顔は柔らかな微笑みを湛えているにもかかわらず、どこか人を超越した様な畏怖を感じさせ、アメリアを大いに委縮させた。
そんな王妃が笑みを消し、すっと真顔になる。
「アメリア。あなた、謁見の間で醜態をさらしましたね?」
「しゅ…醜態だなんて!」
あまりの一言にアメリアが反論しようとしたが、
「ヴィー君が来ると聞いて、私とマイラフでこうなるだろうと予想しておりました」
「えっ…?」
「あなたが醜態をさらしたら、即座に引きずり出す手筈となっていたのですよ」
「えっ…?」
どうやら、国王と王妃は事前に話し合っていたようで、謁見の間でアメリアが駄々をこねた場合、即座に王妃の元へと連れていく準備が整っていたという。
「っ…何でそんな事を!」
予想されていたと言われて、はいそうですかと納得できるはずがない。
「ヴィー君にあなたが好意を寄せていることは、この城の誰もが知っています」
「ぅぇっ!?」
今の王女の気持ちを言葉にすれば、『えっ、私の気持ちって、そんなにバレバレ!?』と言ったところだろうか?
一瞬あっけにとられた王女だが、すぐに顔を真っ赤にさせているところから、この推測は間違ってはいないだろう。
だが、その真っ赤な王女の顔を見つめるジェーン王妃は冷静だった。
「あのね、アメリア。別に私やマイラフはあなたの恋路の邪魔をしようなんて考えてはいないわよ?」
「ふぇっ?」
「いえ、むしろ応援しているわ。それはこの王城の誰もがね」
「え…えぇぇぇぇぇぇぇ!?」
「当たり前でしょう? 魔物の大襲撃なんて言う、誰もが死を覚悟した…いいえ、この国存亡の危機を、たった一人で阻止した大英雄が彼なのよ?」
王妃の言葉に、あの日のヴィーの勇姿を思い出し、先ほどまでの羞恥で赤く染まった顔が別の意味で赤く染まるアメリア。
ちなみに、その場で活躍したのはエルもなのだが…この場では忘れられている。
「何なら、全ての国民があなたとヴィー君の婚姻を望んでいるといっても過言では無いわ!」
「こ、こんいん!?」
もう王女の両目はぐるぐる回って大変なことになっている。
「だからと言って、謁見の間で醜態をさらして良いという理由にはならないわ。そんな事では、あなたとヴィー君の婚姻には私は反対よ」
上げて落とすとはこの事だろうか? 王女の顔色が一瞬で真っ青になった。
つい先ほどまで応援していると言っていたのに、一瞬で意見が反転した。
「そ、そんな…お母様……」
王女、もう涙目である。
「はぁ…。だから駄目なのですよ、あなたは…」
駄目ってヴィー君との結婚が駄目なの!? っと、王女の目が訴えている。
「私の話をちゃんと聞いてましたか? あなたが醜態をさらすようなら、反対すると言っているのです」
「え?」
「別に私もマイラフも、何が何でも反対などとは言ってませんよ?」
「あれ?」
確かに王妃は反対する理由をそう言っていた。
「今回、ヴィー君がこの城に来たのは、妖精狩りの暴挙を止めるため、隣国への出国と準備をするためです。あなたとのんびりいちゃいちゃする為の旅ではないのですよ? そこのところ、きちんと理解してますか?」
「い、いちゃいちゃ!?」
そう叫んだ王女の顔を見た王妃は、「はぁ…」と小さくため息を吐き、
「ヴィー君の登城理由を理解したはずなのに、あなたの妄想の方が大勝利をおさめたという事なのね…あなたの頭の中では…」
そう指摘されたアメリア王女の顔色は、真っ青からまた真っ赤へと変わった。




