保護した妖精達
時は少しだけ遡る。
ヴィーとエルにより、妖精狩り達の魔手から保護された妖精2名は、決して無事な姿とは言えなかった。
無論、この妖精2名にとどめを刺しかけたのが妖精女王であった…ことは、決して彼女達に知られてはいけない。
これは妖精の村の妖精達全員の総意でもある。
いずれにせよ、傷ついた妖精2名は、妖精の村で保護することとなった。
傷を癒すというのが最も大きい理由ではあるが、その他にも他の妖精の村の状況やや妖精狩り達の情報を得ることも重要であるからだ。
今は(妖精女王の圧迫のせいで)気を失っている2名は、身体中をくまなくチェックされ、村の中に敷かれたやわらかい草で作られたベッドの上で、妖精達が全力で治療を行っている。
治療には多種多様な薬が用いられているが、それらは全てこの妖精の村の住人である妖精達によるお手製だ。
実は妖精の花園に咲き誇る花々が、それら全ての原材料となっている。
あの年中美しい花で彩られている妖精の花園は、この妖精の村へと通ずるトンネルを隠す為だけの物では無く、妖精たちにとって必要不可欠な実薬の原材料でもある。
妖精の村を挙げた全力全開の治療により、やがて意識を取り戻した妖精達は、ぽつりぽつりと事情を語った。
彼女達は隣国で住む妖精達であった。
ここオーゼン王国から隣国との国境線までは通常は徒歩で2週間ほど。
いくら妖精が空を飛べるからと言っても、あまりにも遠い。
しかも、そもそもほとんどの妖精は人目を避け隠れ住んでおり、他の妖精の村の場所など伝わっていない。
なのに助けを求めて目的地すらしらず彷徨い逃げてきたというのだ。
その苦難やいかほどの物だろうか。
当たり前ではあるが、他の妖精の村…いや、妖精たちの窮地を知った妖精女王とヴィーは、即座に行動を起こした。
「母さん、僕はすぐに彼女たちが住んでいた妖精の村へと行こうと思う」
それまで黙って妖精達の話を聞いていたヴィーは、すっくと立ちあがると、拳を握り締めながらそう言った。
『待ちなさい、ヴィー君。国王にも協力を要請するわ。人が国境を越えるのって、いろいろと大変だって聞いてるわ。だから、ちょっと待ってなさい』
そう言って妖精女王は通信の法具が据え置かれている自分の家の部屋へとが向かっって行った。
通信の法具。
普段は村を出た最愛のヴィーとの通信に使われているが、本当の役目はオーゼン王国のマイラフ国王とのホットライン。
妖精女王は、この緊急事態をマイラフ国王へと伝えた。
ヴィーは妖精女王と国王の間でどの様な話し合いがもたれたのかは知らない。
だが、通信を終えた妖精女王は全力全開でヴィーへと駆け寄り、
『ヴィー君、王都へ行きなさい。国王とは話を付けたわ!』
と言って、ぎゅーーーっとヴィーを抱きしめた。
ヴィーの肩に座ってでぼんやりしていたエルは、当たり前だが女王がダッシュで近付いて来るのを見るや否や、さっさと逃げ出したのは言うまでも無い事だろう。
『国境を越える許可も手続きも、ぜ~んぶ国王がしてくれるって! あと、移動手段? も用意してくれるらしいけど…馬かしら?』
ヴィーに全力で抱き着いたまま女王がそう告げるが、
「わ、分かったから、ちょっと離れて!」
ヴィーが絶叫した。
それを聞いた女王は、
『ま! もしかして私に欲情した? ねぇ、欲情した!?』
妖精の村は、そう大きな村ではない。
そもそも湖の底に存在するこの村は、女王の力によって創られた空間だ。
天井や周囲は揺らめく湖の水その物で、隔てる透明な壁は女王の強固な結界。
つまりはここでの大声は、とっても良く響く。
そもそも、人と同じ大きさである妖精の女王の大声やヴィーの声は、小さな妖精達とは比べずとも元々地声が大きいのだから、村中の妖精の耳にその絶叫が届くのは当たり前だ。
何だ何だと集まった妖精たちは、ヴィーの身体に蛇のように全身で絡みつき抱き着く妖精女王を見て、
『はぁ~・・・・・』
盛大な溜息をついて頭を抱えてしまうのも、仕方がない事だろう。
ちなみに、傷ついた妖精2人もこの光景を遠目に見て、何故周りの妖精達が頭を抱えているのか察したようで、苦笑いをしていたそうだ。




