街道で
晴れ渡る青空・・・とまではいかないが、ほぼ雲もなく、暖かな日の光が降り注ぎ薄着でも過ごせる様な、そんなある日の事。
草原の真ん中を通る街道を貧相な荷馬車がのんびりと進んでいた。
貧相な荷馬車…であるからして、当然雨などを凌ぐ幌などあるわけもなく、農村などで良く見受けられる収穫物や藁などを満載している様な代物だ。
その馬車を牽くのは、馬車には不釣り合いな程に立派な一頭の青鹿毛の馬。
日の光が反射する被毛は、一見するとほぼ黒一色に見えるのだが、注意深く観察すれば足の付け根などが若干褐色がかっている。
艶のあるその馬体は、多くの騎士が跨る軍馬よりも大きい。
全力でこのような立派な馬が荷馬車を牽けば、あっという間に荷馬車の方が壊れてしまうだろう。
そう思わせる程にその馬は美しく、多くの人々が一見するだけでため息を吐く事間違いなしだろう。
さて、そんな立派な馬を御するのは、それに似あった立派な見目の少年・・・という事もなく、服装はごく一般的な普通の町人のようであるし、体格もそれほど大きいという事もない。
そんなごく普通の少年が御する荷馬車の荷台には、少しだけ膨らんだズタ袋が一つ乗っているだけ。
何だか微妙にズタ袋が動いている気がしないでもないが。
御者席の少年を見ればわかる通り、ただ空をぼうっと眺めているだけの少年の馬車は、ただ馬任せに長閑な草原の中の街道を、急ぐわけでも目的があるよう見も見えず、ただカッポカッポと進んでいた。
いつまでも青い空と草原が続く…はずもなく、やがて草原は途切れ鬱蒼と木々が茂る森の中へと街道は続く。
街道とは言っても、ただ多くの人が長年行き交ったせいで踏み固められて草などが生えなくなっただけの道であり、轍や凹凸は当然ある。
なので、雨天時などはそこかしこに水たまりもできる。
だが、この森に入った頃から道の様相はずいぶんと変わってきた。
少しばかり街道は泥濘、木の根も所々顔を出している。
当然ではあるが、馬も先ほどまでの様なしっかりとした足元ではないため歩き難くそうであるし、御者も尻に伝わる振動が、小さくガタゴトとしたものから、何やらぬるっとしたり大きく弾んだりと変化した事には気づいていた。
「…何か来るな…」
そう御者台の少年が呟くと、それに答えるかのように、ブルル…と馬も小さく嘶く。ついでにズタ袋も、微妙に動いた…気がする。
やがて頭上まで枝が伸び、日の光を遮るほどに深い森の中に進んだ馬車は、野太い男の声でその歩みを緩める事となった。
「おい、そこの馬車とまれ!」
手綱を引き馬を止めると、今まで隠れていたのだろう、辺りから馬車を取り囲むようにぞろぞろと男達が姿を見せた。
ぞろぞろと姿を現した身なりの悪い…有体に言えば小汚い男たちのその声に、ほんの一瞬だけ御者席の男は視線を向けたが、
「おい、止まれ! 止まれって言ってんだろーが!」
まるで何事も無かったかの様に、歩み(馬のだが)を止めなかった。
「おい、こら! 聞こえてんのかよ! ってか、俺たちが見えねーのかよ!」
先刻より大声で喚いているのは1人ではあったが、その他に剣を鞘から抜いている男や、槍や弓を構えている男達が、ざっと見えるだけでも10人程はいる。
「………はぁ」
長い沈黙の後、漸く手綱を引き馬を止めると、御者席の少年はゆっくりと街道へと降り立った。
「何だ、聞こえてたんじゃねーか?」
「いやいや、俺達の人数見てびびっちまったんだよ」
「貧相ななりだが、馬は立派じゃねーか!」
「なんだ、ガキじゃねーか! 金目の物は持って無さそうだがな」
御者をしていた少年を見た男達・・・つまりは野盗共が、かなり下品に笑いながら口々にそう言うと、
「…面倒くさいな」
下卑た嘲笑の中心に立つ少年が、そうぽつりと言った。
「あぁん?」
その言葉に、周囲を取り囲む野盗達の表情が怪訝なものへと変わった。




