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帰路

 支部長室を辞したヴィーとエルは、事務室を通り抜けた後、ベルテに会釈をした。

 どうやらベルテにはまだやる事がある様なので、事務室の裏口に通ずる廊下で、別れの挨拶をしたのだ。

 出口へと向かう彼の後姿を見送ったヴィーとエルは、受付横を通り抜け、そのまま建物出口へと向かった。


 すると、そんな2人を呼び止める声がした。

「ヴィーさ~ん! エルさ~ん!」

 振り返ってみると、それはカウンターから身を乗り出したマールの声だった。

 種族的に人種よりも背が低いマールは、椅子の上に立ち上がりカウンターに両手をついて前のめりになって、

「お疲れさまでした~! またゆっくり遊びに来てくださいね~」

 と、にこやかに笑いながら手を振るマールだったが、まだロビーに居た狩人も事務所で働く人達の視線も一点に集中した。

 声を掛けられたヴィーも、エルが言っていたことを思い出してしまい、ついついそこを凝視してしまった。

 そことは、手を振る度に周囲の男の視線を引きつけ大きく揺れてるとある部分。

 言わずもがな、マールの大きな胸だ。

 その揺れる胸を凝視してしまっていたという事が、彼女にばれているのかどうかは分からないが、ヴィーを含めこの場に居た男共は、次の瞬間一斉に顔を背けた。

 マールは気付いていない様なのだが、もしもばれてしまったら、次からギルドに来辛くなる気がしたから、視線を無理やり外した…と言うのが正解かもしれない。

 まあ、マール以外の女性達には、しっかりと彼等の視線がマールの胸に集中していた事など、一目瞭然だったのだが。

 彼女達の先端が鋭く尖っている冷たい視線はは、ヴィーを含めた男達に盛大に向けられて。


「時間が出来たら、また依頼を請けに来るよ」

 気恥ずかしさを隠しきれないヴィーはそう言葉を返し、小さく手を振りながら早足にホールを通り抜け建物を出た。

 人種であれば10歳程度の身長であるマールではあるが、実はそこそこのお姉さんである。

 無論、年齢は内緒だ。

 過去そこに触れた勇気ある狩人は、二度とこのギルド支部で姿を見る事が無かったという、恐ろしい逸話まであるらしい。

 妙齢の女性に年齢と結婚の話は禁物なのは、いつの世も常識なのである。

 なお、小さな身長のマールではあるが、ファンは非常に沢山いるそうだ。


 すっかり日も暮れた目抜き通りをヴィーが歩いていると、食欲をそそる肉の串焼きの香ばしい匂いがしてきた。

 もう晩御飯だなとヴィーが考えながら歩いていると、何やら左肩あたりが冷たい。

 いつまでも寝ている左肩のエルに首を巡らせ目をやると、そこはエルの涎が滝の様に流れて濡れていた。

「エル…汚い…」

 ぼそっと呟くと、目を開けたエルが見つめ返し、

『ヴィー…おなかすいた…』

 寝起きの所為か良くわからないが、両目がウルウルしている。

 もちろん、まだ涎の滝は続いている。

「わかったわかった。串焼きでも食べてから帰ろうか」

 その言葉を聞くや否や、ぱっと起き上がり目散に串焼きの店先に、エルは飛んで行った。

「やれやれ…」

 そんなエルの姿を見たヴィーは、びしゃびしゃの左肩を布で拭いながら、呆れながらも串焼き屋に続いて歩いて行った。


 ギルドのある村の門扉が閉まるギリギリまで食べ歩きをした2人が村を出ると、自分達の村の方へと続く街道を駆け出した。

 家のある村まで、ヴィーの脚力であればあっという間だ。

 だからこそ、遅い時間まで食べ歩きが出来るとも言える。

 ヴィーの住む村には出入り口となる柵の切れ目はあっても、門扉は無い。

 つまりは、何時でも出入りできるという事。

 とは言っても、あまり遅くなると、流石に心配される。

 この辺りは比較的安全だとはいえ、時折危険な獣も出るし、そもそも昨日も帰っていないのだ。

 小さな村だからこそ、あまり村人には心配を掛けたくない。

「エル、ちょっと急ぐぞ」

 そう呟いたヴィーは、すぐ頭の横で虹色の光跡を曳きながら飛ぶエルの返事も聞かず、街道を猛然と駆けだした。

 ヴィーが走る速度は、勇者ソブロムよりも随分と速い。

 だが、ヴィーが駆け抜けた後には小さな砂煙が立つだけ。

 まるで暴風が駆け抜けた様なソブロムとは、色んな意味で違っていた。


 夜の街道を矢の如き速度で駆け抜けるヴィーとエルを、ただ空に浮かぶ少しだけ欠けた月は静かに見ていた。

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