第9話 考察
――この世界には、魔法がある。
ベッドの上で天井を見つめながら、エルモンさんの話を噛み締める。
頭の中が情報でいっぱいだ。
「……知らないことが、たくさんだ…。」
手のひらを広げ、じっと見つめる。
「もし私に魔法の素質があるなら……この手で、何かできるのかな…。」
窓の外には月が輝き、村は静かに眠りについている。
「アルテリア王国は、200年も続いているんだ。」
初代国王が魔法で国を築き、人々を守った話を思い出す。
200年は相当長いと思う。
「あの時代には、たくさんの魔法使いがいたはずなのに……。」
ふと、広場の噴水のことを思い出す。
あの止まったままの噴水は、まるで村の衰退の象徴みたいだ。
「魔法使いが減ると、結界が弱まる。人々が住む所に侵入する魔物も増える……。」
布団の中で体を丸める。
「私が転生したこの世界は、どこかでバランスを崩している。」
前世の世界では、魔法なんて存在しなかったと思う。
ここに来て数日、過去を思い出せなくても自分にはある程度の常識があった。
でも、その「常識」には魔法というものはなかった。
だから、前世の人々は、魔法ではなく別のナニカで問題を解決し、自然と戦いながら生きていたと推測できる。
「でも、ここは違う。魔法が……『力』そのものなんだ。」
指先を軽く動かす。
「もし私が魔法を使えたら…」
エルモンさんの言葉が頭をよぎる。
『魔法を行使するためには素質が重要である上に、才能と努力が必要です。』
「素質と才能……私に、それらがあるのかな。」
布団の上で仰向けになり、ため息をつく。
「でも、やるしかない……。」
拳を握りしめる。
「私だって、役に立ちたい。」
………
転生したばかりの頃、あの果てしない草原を彷徨った夜を思い出す。
「あの時、魔物に会わなかったのは運が良かっただけ。次は……違うかもしれない。」
エルモンさんが結界を維持していること。
でも、彼一人では限界があること。
「村のみんなの力が必要……って、どういうことだろう。」
腕を枕に組み、天井を見つめたまま考える。
「魔法以外の力で、村を守る方法はないのかな……。」
ふと、マーサさんの笑顔が脳裏に浮かぶ。
夕食の席で、彼女がシチューをよそいながら言った言葉。
『村のみんなは、助け合って生きてきたのよ』
トーマスさんが市場で分け合う野菜…
パン屋のおばさんが余ったパンを子供に配る姿……
村人たちの小さな優しさが、糸のように繋がっている。
「この村は、みんなが支え合って生きている。」
トーマスさんや市場の人々の優しさを思い出す。
「魔法だけが力じゃない。人の繋がりも……きっと『力』だ。」
でも、現実は厳しい。
魔物が増え、結界が弱まっている。
「私にできること……。」
ベッドから起き上がり、窓の外を見る。
月明かりの中、神殿が静かに佇んでいる。
「まずは、魔法を学ぶ。それから……きっと道が開ける。」
指先を窓ガラスに当て、冷たさを感じる。
「この世界には、私が知らない『ルール』がある。」
魔法とは何か、闇の力とは何か、そして、なぜ私とは何か――
「全部、理解しなきゃ。この手で、何かを変えたいんだ。」
ふと、エルモンさんの最後の言葉を思い出す。
『あなたはこの村に新しい風を吹き込んでくれるかもしれない』
「新しい風……。」
窓に映る自分の姿を見つめる。青い瞳が微かに光る。
「もしかして…この転生にも、何か意味があるのかもしれない。」
――私は、この世界で生きることを選んだ。
魔法があろうとなかろうと、後悔のない選択をしたい。
「たとえ魔法が使えなくても……。」
マーサさんの台所を手伝い、市場で笑い合い、噴水の前で村人と話す――
「それだけでも、意味はある。」
でも、心の奥で炎が揺らめく。
「でも、やっぱり……強くなりたい。」
魔物から村を守り、噴水を甦らせ、活気を取り戻したい。
「明日から、エルモンさんに魔法の基礎を教わる。」
布団に戻り、目を閉じる。
「たとえ小さな力でも……きっと、何かが変わる。」
月が雲間に隠れ、部屋が暗くなる。
「……絶対に、諦めない。」
その決意を胸に、私はゆっくりと眠りについた。
…………
夜明け前、ふと目が覚める。
窓の外は薄青色に染まり始めている。
「……もう、朝が近い。」
ベッドから起き上がり、冷たい床に足を付ける。
「今日から、魔法の訓練が始まる。」
鏡の前で髪を梳かしながら、自分に言い聞かせる。
「失敗を恐れるな。一歩ずつ進めばいい。」
青い瞳がキラリと光る。
「私には、この世界でしかできないことがある――」
扉を開け、階段を下りる。
台所からは、既にマーサさんの気配がする。
「おはよう、シリウスちゃん。今日は早いね。」
「はい……今日は、特別な日ですから。」
窓から差し込む朝日が、二人を優しく包み込む。
――新しい風が、そっと吹き始めた。
第9話を読んでくださりありがとうございます<(_ _)>
主人公が少しこの世界について考察した。
ちょっと真実に近づいた(ほんの少しだけど)
次回は、エルモンさんから魔法を学びます!
誤字脱字&誤った表現があれば優しく教えていただければ幸いです。
感想&レビューお待ちしております。