愛しい妹と用意された家
「フラール。実を言うと今回の旅行はバカンスじゃないの」
「バカンスじゃない? どういうことですのお姉様」
私は今までの顛末をフラールに説明した。フラールはそれを聞いてから少し考える素振りを見せた。
そして私に向かって口を開いた。
「お姉様、そうならそうと言ってくださいまし。フラールだけがのけ者のようにされて気分が悪いですわ」
「本当にごめんなさい。でもあまりにも汚い大人の事情なのであなたに聞かせたくはなかったの」
「お姉様」
フラールはそこで憐憫に満ちた表情で私を見てくる。
「私、大切なお姉様がコケにされたことも、そしてルークスお兄様がコケにされているのも知っていてよ。子供だと思わないでくださいまし」
「フラール……」
フラールは私を見ながら瞳を潤ませる。
「お姉様が辱めを受けた離婚をされたときも私は自室で泣きましたわ。大事なお姉様になんてことをするんだって」
「……」
「ルークスお兄様が血反吐を吐くようにして国を動かしていることも知っていますし。正直言ってジョージ王には怒りしかございませんわ」
「フラール……」
「先ほども申しましたけど、私もう子供じゃありませんの、だから今度から隠し立てはしないでくださいませ」
「ごめん……」
「謝るのもなしですわ」
そうフラールは私に言うと私に抱きついてくる。ふわふわとした感触と甘い香りがする。フラールはそのままぎゅっと私を抱きしめ私の耳元で囁いた。
「大好きなお姉様」
そんなフラールの瞳から一筋の涙が零れるのを見て私も瞳から涙を零すのだった。
◇◆◇
フラールとそんな会話をしてから暫く時間が経過した。地図に書かれていた場所を見てルークスお兄様はここが我々の家だそうだと言った。
とても大きな家だった。カントリーハウスぐらいはあるのではないだろうか。私は呆然としてその家を見やる。ここまでしてくださるオルト・オクトラス様とはどのような人なのか考えてしまう。
ルークスお兄様が家の扉を開けると、家の中から誰かが駆け寄ってくる音が聞こえた。
「お疲れ様でございます」
出てきて応対したのはメリッサだ。彼女は一足早くこの邸宅に着いていたようだ。ルークスお兄様とメリッサが会話をしていく。
「そちらこそお疲れ様だ。他の使用人は?」
「全員既に到着しております」
「そうか、皆にもご苦労だったと言っておいてくれ」
「はい」
本当に二日間ぐらいだったが、それでも旅路が長く感じてメリッサと久しぶりに再会した感じがする。
私は扉に近づくとメリッサに抱きつく。
「マ、マリア様!?」
「今は少しこのままにさせて」
私は目をつむってメリッサの鼓動を感じ取る。いつも私のことを心配してくれるそのメリッサの体温に私は安堵の息を漏らす。
私はメリッサから体を離すと言った。
「今日からもよろしくねメリッサ」
「こちらこそでございますマリア様」
そんな私とメリッサを見て微笑む家族がいたことは言うまでもない。
◇◆◇
この邸宅はカテリーナ国の商業施設の中心部にある。なので買い物やその他諸々のことを考えると非常に好条件のところに建っている。
そしてこの邸宅にはカトリーナ国のオルト・オクトラス様から遣わされた執事長が居た。どうやらこの邸宅は綺麗に掃除がされていて掃除をする必要もないそうだ。またオルト・オクトラス様が言うにはこの家は自由に使ってもいいらしく、家に至っては非常に好条件の待遇を受けている印象を受けた。
「長旅でお疲れでしょうから、陛下への謁見は明日ということで調整をしておきます」
執事長の言葉に私は考える。一体ここまで私たちによくしてくださるオルト・オクトラス様いえオクトラス陛下というのはどういう人なのかと。社交界で知っているオクトラス陛下というのはあくまで挨拶程度しか知らない。
明日のことを考えると緊張してきたが、フラールは飄々としている。ひょっとしたらこの子私よりメンタルが強い? お父様とルークスお兄様は各自の部屋に行って選別してきたものを整理しているようだ。
私も整理をしなければならない。メリッサとともに私の部屋に行くと、私とメリッサは二人がかりで選別したものの整理をする。
そんな最中でもどんな方なのだろうという興味は消えることがなかった。