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国外へ

 国外へ行く強硬手段は午前中に行われた。ルークスお兄様がバカンスに行くということになっているので検問も楽に通れるだろう。


 必要な物は深夜の内に運んでおき、使用人たちも私たちと時間をずらし各人でカテリーナ国に向かうことになった。


 馬車に乗っているのは、お父様、ルークスお兄様、エクトールお母様、そしてフラールだ。フラールは今年で12になる。物心がついてかなりおませになっている年だ。


「お姉様、私たちは今からどこにいくんですの」


 フラールは艶やかなブロンドの髪にウエーブが掛かっており、顔は小動物のようで可愛い。純白のドレスがなお妹を映えさせた。


 私は隣に座るフラールをぎゅっと抱きしめる。ふわふわしてとても柔らかく、いい匂いがする。


「ちょ、ちょっとお姉様!?」


「本当に可愛いわ」


 私のその言葉にフラールは顔を真っ赤にして俯いてしまった。そんなフラールに私は人差指をフラールの唇にトンと置くと


「内緒」


 と、言っておいた。一応カテリーナ国に脱出するという事情を知らないものが知っているのはまずいだろう。どこでボロが出るかわからない。


「お母様も内緒ですの?」


「だって着いて素晴らしい景色なんか見た方がいいでしょう。だから今回の旅行先は内緒」


「もう、お母様ったら」


 旅行ではないのだ。これは国外への脱出劇であるのだ。暫く私たちを乗せた馬車がゆっくりと動き、そしてとうとう検問所に辿り着いた。


 検問所に辿り着くとルークスお兄様が馬車から降りていく。そして聞こえる範囲だが、宰相補佐にも許可を取っているバカンスだと説明していた。その書類も持っており、お兄様は書類を兵士に差し出す。


「ということは、ルークス様が暫くいない間、宰相補佐様がこの国を動か、失礼しました……」


 本来ならばジョージがこの国を動かしていると言わなければならないのだが、どうやらあまりにもルークスお兄様が国政に携わりすぎているので口から本音が零れたようだ。


 そんな兵士にルークスお兄様は優しげな微笑みを向ける。


「いやいいんだ。気にしなくていい。きみの言うとおり暫くは宰相補佐がこの国を動かすことになるだろう。彼も優秀なのでそこまで心配する必要はない」


「そ、そうですよね」


 兵士たちは不安そうだ。そして兵士は私のことを見やると深く深く敬礼する。兵士の目からは涙ぐんでいる様子が見える。本当に騙してごめんなさい。愛しい民。私たちは今から国外へ脱出します。


 そんなことを思いながら私は兵士たちに軽く手を振った。これでも少し前まで王妃だったのだ。あまり下手な行動は取れない。


「わかりました。それではお通りください」


「うむ、ご苦労であったな」


「い、いえ」


 兵士はそう言うとルークスお兄様に敬礼をする。ルークスお兄様は馬車の中に戻ってくると、私に向かってなんともいえない笑みを浮かべる。やはり臣下を騙すのは誰でも心苦しいようだ。


 静かに馬車の扉が閉められ馬車がゴトンゴトンという音を鳴らして発車をする。私たちの馬車はトロイア国から少しずつ離れていくのだった。


◇◆◇


 暫く馬車に揺られていると綺麗な湖が見えてきた。多くの花が咲き誇っており、まるで天国を想像させるほどの素晴らしい景色だった。


「綺麗……」


「本当に……」


 私の言葉に続いてフラールが言葉を紡いだ。トロイアから離れればこういう場所もあるのかということが初めてわかった。そんな私たちにルークスお兄様が言った。


「ここは国宝に定められているんだ。なんでも千年近くはこの景観を保っているのだそうだ」


「せ、千年!」


 私は驚き、フラールはうっとりとした表情で湖を見ていた。しかし千年もこのような景観を維持しているのは凄いと私は思った。


「男女の告白の場所としても使われることがあるな」


 お父様がそう言うと、フラールは色っぽい声音を出す。


「告白……憧れますわ」


 フラールにしても公爵家の人間だから結婚相手は事前に決まっている。筈だった。国外へ出るということは爵位がなくなるということだ。なので今のフラールはフリーと言っても過言ではない。憧れている告白もできるかもしれないと教えたくなったが今は言わない方が賢明だろう。


 暫く馬車は進み、中継地点の馬宿がある町へと辿り着いた。なにかの大市が開かれているのかとても活気がいい。私たちはそこで昼食を摂ると、少し町を散策してから馬車に乗り込みカテリーナ国へと向かう。


「町は素晴らしかったですわ。こういうサプライズがあるから皆様内緒にしていたのね」


 ごめんなさいフラール。純粋な心に嘘をついてしまって。私たちはこれからカテリーナ国に向かうの、ということが言えないのはもどかしい。


「お姉様も楽しかった?」


「ええとても素晴らしくてよ」


「そうですわよね」


 そんな私とフラールの会話を聞いていたルークスお兄様とお父様が同時にフラールに言った。


「あんまり喋っていると舌を噛むぞ」


 馬車が揺れているので舌を噛んでしまうかと思いお父様とルークスお兄様が同時に言ったのだ。


 それから二泊かけて私たちはカテリーナ国へと辿り着いた。国外脱出劇ではあったが、素晴らしい景色や異文化を見られてとても有意義な時間だったと思う。


 フラールはカテリーナ国に入った瞬間に私に言った。


「お姉様、ここがバカンスの場所なのね」


 カテリーナ国へ着いたのだ。もうフラールに嘘を吐く必要はないだろう。だから私はフラールに向かって真実を言うのだった。

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