使用人たち
カテリーナ国に出立の準備が私の家で既に行われ始めていた。私は自室の中にあるいる物といらない物の選別をしていた。
そんな私を補佐するのは侍女のメリッサだった。ウエーブのかかった銀糸の髪に可愛いとさえ思える顔立ちをしている。メイド服を揺らしながら私の隣で私に問いかけながら物の選別をしている。
「マリア様、これは」
「それは持って行くわ」
「畏まりました」
物を選別しているメリッサを見ながら昨晩のメリッサとの会話を思い出す。
寝る少し前、メリッサは私の髪にブラシを入れながら私の問いかけに答える。
「使用人の全員が一緒にカテリーナ国に行くと言っています」
「でも爵位もなにもなくなるのよ」
「そんなことより、私たちはこのモーリス家の方が大事なのです。もちろん私を含め他の使用人もマリア様が王妃時代にどれだけこの国に尽力してきたか知っているので、ついて行くのに戸惑いはありません」
「メリッサ……」
使用人たちがそんな風に私のことを思ってくれているなんて涙が出るほど嬉しかった。私の王妃として苦労した甲斐も報われるというものだ。
「そんな悲しい顔をしないでくださいませ。マリア様は微笑んでおられるほうが似合っておいでですので」
私はメリッサの言葉に頭を振った。
「違うのメリッサ。私嬉しいのよ。モーリス家を慕ってくれているのも嬉しいけど、私が王妃の時の行動をそこまで評価していてくれることに嬉しさを感じるわ」
メリッサは私にブラシをしながら少しわなと手が震えるのを感じた。
「それはこのトロイア国の国民全てが思っていることでございます。私たちはマリア様には面倒は見ていただきましたが、ジョージ王には全く面倒を見ていただいた覚えがございませんので」
どうやらメリッサは怒っているようにさえ感じた。
「怒っているの?」
「ジョージ王にでございます。それはトロイア国の国民なら全員思っていることではないでしょうか。その挙げ句、マリア様に恥をかかせるような別れ方をしたのですから」
「……」
愛などない結婚だった。それでも私はトロイア国の国民が好きだった。だから一生懸命動いた。それでも最後はゴミのようにジョージに捨てられた。ジョージに捨てられるということは、国民に接する機会がなくなるということだ。正直言ってジョージに捨てられるより国民のことを憂うほうの気持ちが先立つ。
「それでも私はメリッサや国民がそう思ってくれていることが嬉しい」
私が涙ぐむと、メリッサはブラシの手を止め、ハンカチを私に差し出す。まるで私の王子のようでメリッサが格好良く見えた。
「とにかくなにがあろうと私たちはモーリス家とマリア様についていきますから。
「ぐすん、ありがとう」
「いえ、お礼は私たちの方がしたいぐらいですので」
「ぐすん、それでもありがとう……」
「さて髪も抜群の状態になりましたよマリア様。それでは夜着を用意いたしますので、少しお待ちを」
「うん、ありがとう」
そんな会話が昨晩に行われた。私は国民に愛されていたことが嬉しくてなかなか夜に眠れなかったのは言うまでもない。
そして今はこの国を出るために着々と準備をしているのだから皮肉なものだと私は思うと同時に悲しくもなるのだった。